真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第226話 銀の新星、王子の怒り

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試験会場の中央──
ざわめきの中心に立つ銀髪の少年を、ラグナ・ゼタ・エルディナス第六王子は憎々しげに見つめていた。

光を反射する銀の髪。
どこか線の細い、頼りなげな体格。
おどおどした挙動。

顔の造形こそ整ってはいるが、
どう見ても“モブ”だ。
ゲームでも名前すら出てこない背景キャラの類だ。

だというのに──。



(……何なんだ、アイツは……!?)



ラグナは拳を震わせた。



(あんなキャラが、編入試験に現れるなんて……聞いた事ないぞ!?)

(ルセリア学園編入試験は三ヶ月に一度の“ガチャイベント”……!ランダムでURやSRの人材が入学し、親交度を上げて仲間に引き入れる、あの重要イベントだろ!!)



ゲームプレイしていた前世の記憶が、怒りと混ざって蘇ってくる。

今日は“当たり日”だった。
実技で19000、24000という破格のスコアを叩き出した"UR級"の受験生が二人もいた。



(どっちも欲しい……!
絶対に仲間にしたい……!!)



ウキウキで妄想を膨らませていた、その矢先だった。

受験番号108番──。
フォルティア荒野で見かけた銀髪の少年。

アルド・ラクシズ。



(……よりによって、ブリジットの近くにいたあの家事手伝いの小僧か。まぁ、ただのモブだろう……邪魔にはならん……はずだった……のに!)



ラグナは叫びたい衝動を必死に抑え込む。

なぜなら──
あの108番は。

ラグナ専用魔法"核撃魔光砲ニュークリア・ブラスター"を放った。
しかも、無詠唱で。



(……ありえない……ッ!!)



ラグナの血管が浮き出る。



(あれは“主人公専用魔法”だぞ!?
僕の象徴、僕の代名詞、僕がこの世界の主人公である最大の理由!!それを……あの銀色のモブが……!?)



歯を食いしばりすぎて、ギリッ、と音がした。



「なんなんだ……あの銀色の小僧は……!?
ただのモブキャラのくせに、僕の"核撃魔光砲ニュークリア・ブラスター"を使うなんて……!?」



そんなラグナの肩の横で、メイド姿のリゼリアが両手を口に当てて震えていた。



「そ、それに……完全に無詠唱でした~……!
そんな事が出来る方が、ラグナ殿下以外にいるなんてぇ~~……!」



アワアワと慌てふためきながら、さらに余計な一言を続ける。



「他人の開発した術を無詠唱でコピーするだなんてぇ…… もしかして、あの方、殿下以上の天才……なんて事は無いですよねぇ~!?」


「なっ……!?」



ラグナは横目でリゼリアを睨んだ。
今までで一番強く。

その瞳は冷たく、怒りの色を宿していた。

セドリックが内心で絶叫する。



(バカ……!!! リゼリア、余計な事を言って機嫌を損ねるんじゃない!!)



一方のリゼリアは、わざとらしく頬に手を当てて、



「いっけない! わ、私ったらぁ~余計な事を言ってしまいましたぁ~!!」



などとポーズだけ反省している。
本気で反省している気配はゼロ。

ルシアはというと──「……。」
無言のまま。ただし、珍しく目を見開いて、アルドを凝視していた。

セドリックは深くため息をつく。



(ルシアもリゼリアも……殿下とは違った意味で掴みどころが無い……しかし今考えるべきはそこじゃない……!)



視線の先。

試験官に囲まれ、アルドが必死にオロオロしながら否定している姿。



(……アルドくん……君は一体……何者なんだ……!?)



そんなセドリックに対し、試験官は“火に油”を注ぎ続けていた。



「いやぁ、素晴らしい魔法技術でしたッ!!
まさかまさかの、ラグナ殿下の専用魔法をコピーするという神業!!
これは『ラグナ王子を超えるのは自分だ!』というメッセージと捉えてよろしいのでしょうかッ!?」


「えっ!?
と、とんでもない! そういうつもりじゃなくて……
本当、大したことは……!」



アルドが必死に否定するが、試験官は興奮で耳が遠くなっている。



「なるほど!!
『ラグナ王子の専用魔法をコピーするくらい、自分にとっては大した事じゃない』と!!
さすがは“銀の新星シルバーノヴァ”!!
ビッグマウスをビッグマウスと感じさせない説得力が、その全身から滲み出ておりますッ!!」


「いやいや!!そうじゃなくて!!
あんま煽らないでもらえます!?!?」



会場は大歓声。


『おおぉーーーっ!!』


アルドは汗だくで混乱しているが、
ラグナは、そのアルドを睨みつけながら青筋を浮かばせていた。



「僕の専用魔法をコピーする事くらい……大した事じゃない……ってか……!?」



空気が震えるほど冷え込む声。
セドリックが慌ててフォローに入る。



「し、しかし殿下! スコアは殿下の方が上でしたし、そこまで……」


「いいや!!」



ラグナはセドリックの言葉を切り捨てた。



「見たか!?ヤツのスコア……【28286】だ!!」


「……はい?」


「28286……これはつまり……“ニヤニヤ6”!!
第六王子であるこの僕を、スコアでも嘲笑しているんだ!!バカにしやがって!!」


(いや、こじつけにも程がある!!怒りで冷静な判断が出来なくなっておられる……!)



セドリックは心の中で叫んだ。
しかし仕える身としてツッコむ事はできない。



(……だが確かに、アルドくんは只者ではない。
ひょっとしたら……フォルティア荒野で殿下を気絶させた犯人も……?)



疑問と焦燥が、セドリックの胸をざわつかせた。
ラグナの怒りは、もはや抑えきれない炎となって瞳に燃えていた。



「絶対に……許さない……」



小さく、誰にも聞こえないほどの声で、
しかし確実に“敵視宣言”を呟くのだった。



────────────────────
(アルド視点)


ようやく、試験官の猛烈インタビューから解放された。

あの試験官の人、なんなの……?
途中から語尾に火がついたみたいに熱くなって、
「銀の新星!」とか「ラグナ超え!」とか言いたい放題で、俺が否定すれば否定するほど、勝手にポジティブに補正してくるし。

ほんと、もう総合格闘技のリングアナウンサーとして働いた方がいいんじゃないかってレベルだった。

そんなことを思いながら、俺はぐったりと肩を落として受験生の輪へ戻る。

すると──。

ざわ……ざわ……ざわっ……

近づくほどに、他の受験生たちが小声でヒソヒソやっているのが聞こえる。



「あの人が……」

「コピーした……本当に……?」

「無詠唱……?」

「ヤバくね……?」



いや……うん……分かるけどさ……
そんな怖いモノでも見るみたいな目で見ないでほしいんだけど。

目立ちすぎた……完全にやらかした……。

胃がキリキリしてきた俺は、なんとなく周囲を見回した──

ラグナ王子と、目が合った。



「…………」



ひ、ひえぇぇ……!!

完全に鬼の形相。
あの王子、笑うとキラキラの光エフェクトが出るくせに、今は背後に黒いオーラみたいなの出てる。
ギャップが怖いのよ。



(……結局、面倒な事になった……)



胃の奥が冷えていく感覚に、思わずため息がこぼれそうになったその時。



「──おーい、アルドく~ん。」



軽くヒラヒラと手を振りながら近づいてくる人影があった。

ザキさんだ。

細い目がいつもの調子でニコ~っと笑っているのが見えて、俺はちょっとだけ救われた気持ちになる。

ザキさんは、俺が戻るやいなや、
まるで面白動画を見た直後みたいなテンションで笑って言った。



「いやー、凄かったわ、アルドくん。
俺とあのパチキ姉ちゃんの記録が霞んでもうたわ。」


「いや、その……ほんとに偶然というか……」



俺がしどろもどろに言うと、ザキさんはケラケラ笑いながら続ける。



「それにしてもビックリしたで?
俺の斬撃見切るくらいやから、てっきり戦士タイプなんか思っとったんやけど──
アルドくん、魔導士やったんやね?」


「いや、魔導士って訳でも無いんだけど……
まぁ、魔法もそこそこ使えるっていうか……ほんの、そこそこ……?」



例によって曖昧な言葉でごまかす俺。
案の定、ザキさんは即座にツッコんできた。



「いやいやいや、そこそこいうレベルちゃうやろ。
第六王子の代名詞みたいなオリジナル魔法、パクってもうてんねんで?あれはもう、驚いてええんか笑ってええんか分からんレベルやで。」


「や、やっぱり……?」



笑ってごまかすしかない俺とは対照的に、
ザキさんは肩を揺らして笑い続ける。

けど──。

その笑いが、ふと途切れた。

ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。

ザキさんの横顔が、どこか……
らしくないほど真剣な雰囲気をまとった。



「……ほんま、今の段階でアルドくんの存在を知っておけて、良かったわ。」



その声は、驚くほど小さかった。

誰にも聞こえないように
俺の耳にだけ届くように
深い溝の底から響いてくるみたいに。



「……え?」



一瞬、返事が詰まる。

それは“軽い言葉”ではなかった。
いつものノリではなく、
チャラ男スマイルでもなく、
もっと、底の深い……剣士の眼をした声だった。

だから余計に、聞き返すこともできなかった。

ザキさんはすぐに、いつもの顔に戻る。
細い目を三日月みたいに曲げて、ニカッと笑う。



「なんでもあらへん。気にせんといて。」



軽く肩を叩かれたその瞬間、
なぜか、背筋をほんの少しだけ冷たい風が撫でていった気がした。

まるで──

“俺はお前を観測したぞ”

と言われたみたいな……そんな感覚。

胸の奥が落ち着かないまま、
俺はザキさんと並んで、会場を見渡した。

ラグナ王子の視線は依然として鋭く、
長身お姉さんはなぜか、ウロウロ俺の周りを歩いているし……

なんか、知らない方向に話が転がってる気がする。
マジで、これ以上ややこしくならないでほしい。

心の底でそう祈りつつも、
俺は自分の胸騒ぎが、さっきの一撃よりもずっと重い事に気づいていた。



 ◇◆◇



ザキさんと話していたせいで、ちょっと気が紛れていた──
ほんの数秒前までは。

ふと横を見ると、
例の“長身お姉さん”が、いつの間にか俺たちのすぐ近くに来ていた。

いや、近すぎる。
普通にグループの一員くらいの距離感だ。

……もしかして、俺の試験結果……見て興味持ってくれた?いや、まさかそんな──



「あ、あの……」



勇気を出して再び声をかけようとした、その瞬間。

ビクッ!!

お姉さんは肩を跳ねさせ、
俺の方をチラッとだけ見て──
みるみる頬が赤く染まり──



「…………っ!!」



くるんと顔を背けたと思ったら、
ササササッ!!
と、妙に高速で距離を取っていった。

ええええええええ……!?
何その反応。
怒ってるの?照れてるの?怯えてるの?
全部に見えるんだけど!?

俺は片手を宙に浮かせたまま固まった。



「……俺、何かした?」



小声でつぶやくと、ザキさんが「まぁ、色々と派手に目立ってはいたけどな。」と苦笑した。

そんなカオスな空気の中、
それ以上に“やばい存在”が近づいてきた。

キラキラキラキラ……



「……っ!?」



ラグナ王子だ。

笑顔だ。

めっちゃ笑顔だ。

異様にキラキラしている。
背景に花と光のリングが舞っている。



(な……何で笑ってるの!? 怒ってなかった!? さっきまで絶対怒ってたよね!?)



俺が内心で混乱していると、王子は両手を大きく広げ──



「やあやあ、実技テストTOP3の諸君!
三人とも、実に素晴らしいスコアだったね!」



めっちゃ爽やか!!
声がいい!!
なんなら拍手までしてる!!

こ、これは本当に怒ってないのでは……?
俺の早とちり……?

隣でザキさんは、



「ん……」



と一瞬肩を震わせたが、すぐにプロの接客スマイルを作り、



「これはこれはラグナ第六王子殿下。
いやいや、殿下の魔法に比べたら、僕の剣技なんてガキのチャンバラですわ~」



と完璧な大人対応をかました。
ザキさん、あんたラグナ嫌いって言ってたのに、
そんな素振りも全く見せずに。

長身お姉さんも微笑む。



「まあ、王子殿下。
貴方の魔法も、とても素敵でしたわ。」



俺のことは避けたのに……。
結構地味に傷つくんだけど。

俺も勇気を出して笑顔を作り、口を開きかけた。



「え、えーと、ラグナ王子殿下。さっきの魔法は──」



しかし王子は、
俺の言葉を、まったく聞かなかった。
聞く気すらなかった。

俺の方向をスルーしながら、



「謙遜は無用だよ、君の剣技。実に見事だった。」



とザキさんに向き直った。



(えっ……シカト!?)



困惑している俺を完璧に無視し、
王子はグイッとザキさんに手を差し出す。



「さぞ強力なスキルを持っているんだろうね。」



その言葉に、ザキさんの表情が一瞬だけ固まった。
あれ……?なんか反応が変だったな。

でもすぐに笑顔に戻り、王子と握手した。

次に王子は、長身お姉さんへ向き直る。



「貴女のような美しい女性が、
あれほどのスコアを出すとは、驚嘆しましたよ。」



その瞬間、お姉さんは



「まッ! 美しい女性だなんて、お上手ねッ!」



と一瞬テンション上がったが──
ハッ、とした顔で俺を見る。

そして、

ブンブンッ!!(首振り)
からの、キリッ!!(表情引き締め)



「光栄です、ラグナ殿下。」



……いやだから何なのその反応?
俺となんか関係あるの?

そして。

運命のターンが来た。

ラグナ王子は、
ゆっくりと俺を見た。

笑顔を崩さないまま──
無言で手を差し出してきた。



(あれ?俺のことも……一応、認めてくれた……?)



なら、ここは一旦ありがたく握手しよう──と手を伸ばした、その瞬間。


パァァァァン!!!



「え……」



俺の手は王子の手によって叩き落とされた。

叩かれたというより、
払われたと言った方が正しい。
そっちから握手の手を出して来たくせに。

拒絶。
露骨な拒絶。

そして王子は、俺の目の前に顔を近づけ、
まるで友情に満ちた笑顔のまま、小声で言った。



「──あまり、調子に乗るなよ?」



え……ええぇーー……?



「僕が本気を出せば、さっきの魔法など十発同時に撃てるんだ。あの程度で僕と並んだ気になるなよ?」


「……」



俺が言葉を失っていると、王子はさらに言う。



「というか、僕より目立つんじゃない。
分を弁えて、隅っこで棒倒しでもしてろ──このモブ野郎が。」



にっこり。

む……無茶苦茶言うなコイツ……
面と向かってそこまで言う!?
オブラートに包めよ、もうちょっと。

周囲の受験生もドン引きしてた。
ザキさんも長身お姉さんも目を丸くしていた。

ラグナ王子はそのまま、お供の3人を従えて優雅にスタスタ歩き去っていく。

去り際、セドリックさんが俺の方を見て、
そっと右掌を立ててペコリと頭を下げた。

(殿下がごめん)という合図だ。

いやいやいや……
大変なお方ですね、あなたの主……

そんな余裕ない俺の耳に、試験官のアナウンスが届く。



「それでは! 編入試験の合否は──
明日の正午! 発表となります!!」



その声を聞いた瞬間。
どっと疲れて、肩が落ちた。



「……帰りたい……」



本気でそう思った。
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