真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第256話 side.ザキ・チーム④ ──酒精勇者と世界樹の魔神──

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『ネームプレート破壊、クリア。ザキ・チーム、10×6=60pt獲得』



無機質なアナウンスが、湿った密林の空気を切り裂くように響いた。

暗い木のうろの奥──樹皮に覆われた狭い空間で、ザイードは言葉を失ったまま、宙に浮かぶ複数の魔法映像を見つめていた。揺れる画面の中では、根で組まれた舞台にディオニスとギュスターヴが立っている。どちらも無傷。どちらも、平然と。



「……バカな……」



喉の奥から、掠れた声が漏れる。



『“勇者”の力……だと!?』



ザイードの声が、密林のあちこちに反響する。木々がざわめき、葉擦れが不快なノイズのように重なった。



『“大罪魔王”と対をなす力……一世代に同時に七つしか顕現しないと言われている、“勇者”の名を冠する力……!』

『その一つを……この酒カスが、持っているとでも言うのか!?』



苛立ちと動揺が混じった叫びに、舞台の上のディオニスが肩をすくめた。



「お前、ほんと失礼だな」



呆れたように言い返し、酒瓶を口に運ぶ。その仕草は相変わらずだが、先ほどまでとは違う──酔いに任せた動きではない。意識的に、必要なだけを身体に流し込んでいる。

隣で金棒を肩に担いだギュスターヴは、視線を前に据えたまま、内心のざわめきを押し殺していた。



(この酔っ払イ……本当に、“勇者”の力ヲ……!?)



驚愕は確かにある。だが、それ以上に――納得が、胸の奥で静かに形を成しつつあった。

舞台の下、根の影からロールが顔を上げる。包帯に覆われた目元を押さえながら、息を呑む。



「ディオニスさん……瞬間的にですが、魔力が……普段の、数十倍まで跳ね上がりました……」

「……あれが、勇者の力……!?」



震えを含んだ声。それを聞き、少し離れた位置で様子を見ていたザキは、口元に薄く笑みを浮かべた。



(ギュスターヴくんの膂力りょりょくも驚いたが……)

(ディオニスくんのこの力は、想定以上やな。これなら……)



舞台の上で、ディオニスは酒瓶を傾け、がぶがぶと喉を鳴らす。空になった瓶を放り捨て、ふぅ、と一息。



「『大罪魔王と対をなす』だとぉ? 買い被んじゃねぇや」

「俺のチンケな力で、“あんな化け物ども”の相手なんかできやしねぇよ」



そう前置きしてから、目だけを細める。



「だが、まぁ……」

「勘違いしてる皇子サマを躾けてやるくらいなら、出来るんじゃねぇかな」



ニッと、悪戯めいた笑み。



『──調子に乗るなよ。下民が』



ザイードの声は、明らかに荒れていた。



『“勇者”スキルは“魔王”と対となる存在。しかし、それは魔王級の力を持つに値わず』

『あくまで、“魔王に匹敵するまでに成長するスキル”に過ぎぬ……!』



そして、怒気を爆発させる。



『余の力は“大罪魔王”にすら劣らぬ力……!』

『貴様のクズスキル如きで……止められるかッ!!』



密林の大地が、唸りを上げて隆起した。



『──“螺旋覇王樹スピラリス”ッ!!』



地面を突き破り、巨大なサボテンが次々と生え上がる。螺旋を描く肉厚の棘。
先端は鋭く、ディオニスとギュスターヴを正確に捉えていた。周囲の“巨樹人”も呼応するように動き、木製の武器を振り上げる。

螺旋状のサボテンが、ドリルのように回転しながら二人へと殺到する。

ギュスターヴは一歩踏み込み、地を蹴った。宙へ跳び上がり、片手で金棒を構える。



「──“旋回顎打クラッピング・スピン”」



唸りを上げて金棒が回転する。空気が裂け、衝撃波が炸裂した。叩きつけられたサボテンは、パパパパァン!!と破裂音を立て、無数の破片となって四散する。

空中で体勢を整えながら、ギュスターヴはちらりとディオニスを見る。



「──まさカ、勇気スキル持ちとはナ……
ただの酔っ払いでは無かったという事カ」


「どうだ、ギュスちゃんよ」



ディオニスが軽口を叩く。



「少しは俺の事、見直したかい?」


「言ってる場合カ。来るゾ」



その言葉通り、次の“巨樹人”が迫っていた。



「おお、怖い怖い」



ディオニスはそう言いながら、ひらりと身を低くし、掌を地面に付ける。
瞬間、体内で巡る酒精が凝縮され、別の性質へと変換されていくのが、肌越しにも分かった。



「──“鋼酒はがねざけ”」

「“黒斬縞くろきりしま”……!」



足元から、黒く鈍い光を帯びた刃が放射状に噴き上がった。円を描くように、幾重にも、幾筋も。

触れた“巨樹人”は、抵抗する間もなく縦に裂かれ、断面を晒す暇もなく霧散する。木片と魔力が、風に溶けて消えた。

ディオニスは立ち上がり、手首をぷらぷらと振る。



「酒は友、酒は刃……」

「お分かりかい?皇子サマ」



口元に、愉快そうな笑み。



『お……おのれええぇぇっ!!』



ザイードの絶叫が、密林にこだました。



『ネームプレート破壊、クリア。ザキ・チーム、10×4=40pt獲得』



再び鳴るアナウンス。その冷たさが、ザイードの焦燥を際立たせる。

舞台の上には、なおも二人が立っていた。
そして、戦いはまだ──終わっていなかった。



 ◇◆◇



ザイードは暗い木のうろの中で、浮かび上がる映像を睨みつけていた。

木目の粗い壁に染みついた樹液の匂い。湿った空気。外の喧噪はここまで届かない──はずなのに、耳の奥でまだ、あの無機質なアナウンスが反響している。



『ネームプレート破壊、クリア──』



……違う。反響しているのは、屈辱だ。

モニターの一つには、根で組まれた舞台の上で、酒瓶を片手に立つディオニス。
もう一つには、金棒を構えたギュスターヴ。
二人は息も乱していない。自分の“駒”が、駒としての価値すら奪われていく光景を、当たり前のように踏み越えている。



(──認識を改めざるを得まい)



ザイードは口角を引きつらせたまま、歯を噛みしめた。



(この二名は、余に仇成す強敵だ)

(後ろにはザキと……あの醜女しこめも控えておる……)



“醜女”という言葉を心の中で転がした瞬間、心臓の奥に妙な針が刺さる。
あの女の目──包帯の奥から覗く、何かを見透かすような“気配”。
あれが、自分の世界の中に存在すること自体が不快だった。



(ここは……全力を出してでも、こやつら二人を仕留めるべきか……!)



ザイードの指が、空中に走る。見えない糸をたぐるような仕草。次の瞬間、木のうろの中の空気が、ぴたりと止まった。

外の密林──“巨樹人”たちの群れが、同時に喉の奥を鳴らした。



『オオオオオ……』



悲鳴に似ている。だがそれは叫びではなく、生命が“抜かれる”音だ。
木々の葉が一斉に揺れ、幹が軋み、枝が折れるように垂れ下がる。巨大な木の人形たちの身体から、みるみる色が失われていった。

舞台の上でギュスターヴが、低く唸る。



「何ダ……? 木偶人形どもガ……!?」



金棒を握り直し、尻尾が地面を叩く。戦闘の中で培った勘が、“異常”を告げていた。

隣ではディオニスが、酒瓶を傾けながらのんびり呟く。



「枯れていってるみてぇだな……」



声は軽い。だが目は笑っていない。酔ったふりをしたまま、どこか鋭い冷気を纏っている。

舞台の下、根の影からザキが顔を上げた。



「何やこれ。ディオニスくん達が勝ったんか?」



冗談めかした口調。だが、指先は羽々斬の柄から離れていない。視線は密林の奥──“何か”を探すように動いている。

その横でロールが、包帯の上から目元を押さえた。

息を止める。まるで、見たくないものを見てしまったときのように。



「……いえ、違います。これは……!」



次いで、言葉が鋭くなる。



「“巨樹人”達の魔力が……木の根を伝って、一ヶ所に……集まっていってます……!」



密林の大地が、ゆっくりと脈打つ。根が、血管のように浮き上がり、魔力の流れが土を通じて“吸われていく”のが、肌越しに分かった。

痩せ細った“巨樹人”は、ついに立っていることすらできなくなり──

ガサッ、と音を立てて崩れ落ちる。

崩れ落ちたと思った瞬間、その身体は灰のように散り、消えた。



『ネームプレート破壊、クリア。ザイード・チーム、10×9=90pt獲得』



無機質なアナウンスが響く。
ザキが、すっと目を細めた。



「なんやて? まさか、あの皇子……」



“核”にした挑戦者を、捨て駒として切り捨てた──それもポイントとして換算される形で。発想の歪みが、はっきりと“形”になった瞬間だった。

舞台の上ではギュスターヴが、さらに構えを低くする。周囲を見回し、音の方向を探る。

ディオニスは「ふーん」とだけ呟き、酒を飲み続けた。感情の温度を下げるように。

そのとき。

密林の奥。一体だけ、異様に沈黙していた“巨樹人”が、ゆっくりと、だが確実に“膨れた”。

ググググ……という音が、地鳴りのように響く。

幹が太り、枝が骨格に変わり、葉が剥がれ落ち、樹皮が鎧のように重なっていく。根が絡み合い、筋肉の繊維みたいに締まり──

十メートルを超える、禍々しい魔神の姿へ。

その存在感だけで、周囲の空気が押し潰される。密林の湿り気が、一瞬で乾いた気さえした。

ザイードの声が、密林全体に響いた。



『──まさか、貴様ら如きにこれを使うことになるとは思わなかったぞ』



その声は、怒りと同時に“焦り”を隠しきれていない。自分で自分を鼓舞しているような、虚勢の匂い。



『これが、余の切り札……“世界樹人ユグドラシル”……!』



舞台の上で、ディオニスが小さく肩を揺らした。
くっくっと笑う。笑い声は低い。



(底が知れたな、皇子サマ)

(こっちの力の底が見えないうちから切り札切るたぁ、勝負を焦り過ぎだぜ)

(所詮、“どん底”を経験した事のないお坊ちゃんは甘ぇな)



内心の毒が、口元の笑みに滲む。

ディオニスの指が、ゆっくりと宙をなぞる。掌の内側で、体内の酒精が“圧”として練り上げられていく感覚。熱が、骨の内側で唸る。



『“世界樹人ユグドラシル”よ……余に逆らう敵を、誅殺せよ!!』



命令が落ちた瞬間、“世界樹人”は巨大とは思えぬ速さで動いた。

──ドンッ。

地面が沈む。根の舞台がきしむ。

その拳が、ギュスターヴを狙って振り下ろされる。

ギュスターヴは金棒を鋭く振り上げた。衝撃を逃がす角度。受け流しではなく、打ち上げ。

ガァンッ!!

金属ではないはずの拳が、金属のような音を鳴らす。空気が割れ、舞台の根が弾け飛ぶ。

だが──砕けない。

ギュスターヴの腕が、わずかに震えた。



「固イ……!」



思わず漏れた声が、自分でも信じられないようだった。あの金棒で叩いて砕けぬものなど、そう多くない。

ザイードが愉快そうに笑う声が重なる。



『バカめ!“世界樹人ユグドラシル”の密度は、他の“巨樹人”の比では無いわ!』



ディオニスが口の端を上げる。



「へぇ……優勝候補第3位は伊達じゃ無ぇ、ってか!」



軽口と同時に、両手が忙しなく動く。手印が走り、空気中に熱が立ち上った。



「──“焔酒ほむらざけ”」

「“炎魔えんま”……!」



ディオニスの頭上に、二本の巨大な炎の腕が現れた。炎はただ燃えるのではない。指の関節まで形を持ち、筋肉のようにうねり、熱の圧が視界を歪める。

炎の腕が“世界樹人”へ掴み掛かる。

しかし──



『“防火林ファイアブレイク”!!』



ザイードの声が落ちると同時に、“世界樹人”の両手の表面が、ぞわりと変質した。樹皮が、別の質感に。油分を含むような、炭化しにくい木質へ。火が、表面を舐めても、燃え移らない。

ディオニスが舌打ち混じりに呟く。



「……っと! 植物にゃ炎……って簡単にゃいかねぇか、流石に……!」



『バカめ!世界の始まりは炎に包まれ、“世界樹ユグドラシル”は焼けた大地に根を張り育つ……!』

『貴様のチンケな炎など、通用せぬ!』



虚勢のようでいて、知識を振りかざす言葉。ザイードは“語る”ことで、自分の優位を確かめたいのだ。

だが、語りは続かない。



『──“粘枝縛ドロソフィルム”!!』



その叫びとともに、“世界樹人”の全身から、緑の触手が一斉に噴き出した。

赤い粒々──獣の目のように光る胞子のようなものがびっしりと付いた触手。空を裂く速度で、ギュスターヴとディオニスへ突き出される。

ギュスターヴは金棒で払い落とそうとした。

──だが、触れた瞬間。

ぬちゃり。

嫌な音。粘液が金棒に絡みつき、まるで“吸い付く”ように離れない。ギュスターヴが力任せに引くより早く、触手が逆に引き込んだ。



「何ッ!?」



金棒が、奪われた。

一瞬の空白が生まれる。王としての矜持が、喉の奥で火花を散らす。

一方、ディオニスは炎の腕で触手を焼き払う。焼け落ちるものもあるが、数が多すぎる。抜け目なく、数本がディオニスの手首と足首に巻き付いた。



「──あらぁー!?」



間抜けな声と共に、ディオニスの身体が宙へ引き上げられる。触手が吊り上げ、根の舞台の上で、ぷらんと宙吊りになる。

舞台下のロールが、思わず声を上げた。



「ああっ!? ディオニスさんが……!」



焦りが、声色に滲む。

だが、その隣──ザキは、動かなかった。
薄く口元を吊り上げ、空中のディオニスを眺める。



(──どうする? 助けるか?)

(……いや、ディオニスくん。アレは、何か狙っとるな?)



ザキの目が、わずかに細まる。仲間を見捨てる目ではない。獲物の“癖”を見抜く猟犬の目だ。



(お手並み拝見と行こか)



密林の湿った風が流れ、触手がきしみ、宙吊りのディオニスがわずかに揺れる。

その揺れすら──まるで、次の一手へ向けた“合図”のように見えた。
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