真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第六章 学園編 ──白銀の婚約者──

第255話 side.ザキ・チーム③ ──トカゲ擬きと酔っ払い──

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闇が、ざわりと息づいていた。

巨大な樹の内部──幹の奥深くを抉り取ったような空間は、自然物でありながら、どこか人工的な冷たさを帯びている。
年輪の重なりが壁となり、樹液の乾いた匂いが鼻を刺す。
その暗がりの中に、淡い緑光がいくつも浮かび上がっていた。

宙に並ぶそれらは、魔力で編まれた"視界"。
外界と接続された無数の視覚窓モニターだった。

それぞれの画面には、異なる角度から切り取られた戦場の光景が映し出されている。
揺れる密林。軋む根。
そして──二つの姿。

ディオニスと、ギュスターヴ。

二人は並び立ち、後方に控えるザキとロールを庇うように、自然と前へ出ていた。
剣を抜かずとも、構えずとも、そこに立つだけで“盾”となる立ち位置。
無意識の行動であるがゆえに、なおさら彼らの本質を物語っている。

だが。

その光景を、樹の闇の奥から見下ろす者の瞳に、感嘆の色はない。



「……ふん」



木製の玉座に腰掛けた男──ザイード・ジュナザーンは、鼻で笑った。
褐色の肌に浮かぶのは、退屈と侮蔑が入り混じった歪な表情。肘掛けに頬杖をつき、浮遊する視界の一つを指先でなぞる。



(あやつらは……確か、前回編入試験での合格者)



脳裏に浮かぶのは、事前に集めさせた情報の束。
名前。種族。スキル。
そして、数値。



(実技試験のスコアは……あの酔っ払いが一八〇〇、トカゲ擬きが二三〇〇、か)



口角がわずかに下がる。
ため息が、湿った木の内壁に吸い込まれた。



(合格ラインよりは、多少上……だが、それだけだ)



指先が、空を払う。
まるで、不要な塵を振り落とすかのように。



(取るに足らぬ。所詮は凡庸。我が配下に相応しい数値ではないな)



視線が、別の“窓”へと移る。

そこに映っていたのは──ザキ。

剣を携え、しかしまだ抜かぬ男。どこか飄々としながらも、場の中心に立てば空気が変わる存在。数値だけでは測れぬ、異物。

ザイードの目が、わずかに細まる。



(……やはり、欲しいのはあの男ただ一人)



胸の奥で、熱が蠢いた。



(前回実技試験、二四〇〇〇という異常値。
調べても、素性は出てこなんだ……)



不明。無名。
だが、だからこそ価値がある。



(さぞ素晴らしいスキルを持っておるに違いあるまい。余の下に置けば……どれほど美しい駒となるか)



想像に、喉が鳴る。
そして、最後に。
ザイードの視線は、さらに端の“窓”へと滑った。

そこに映るのは、目元を包帯で覆った女──ロール。

後方で静かに立ち、戦場全体を“見ている”存在。
動かず、語らず、しかし確実に索敵を続ける女。



(……あの醜女か)



唇が歪む。



(探知系の術は優秀なようだが、顔に傷ある女など……)



視線を、値踏みするように走らせ。



(余の側に立つ価値はない。……いらぬな)



ニヤリ、と笑みが浮かぶ。
それは快楽でもなく、楽しさでもない。
ただ、切り捨てることに慣れきった者の、冷たい笑みだった。



「……ルセリア中央大学、か」



低く呟いた声が、木の空間に反響する。



「大国エルディナの中枢を担う人物を、幾人も輩出した名門……“知識の坩堝るつぼ”と聞いていたが……」



ザイードは立ち上がる。
玉座の背後で、木の繊維が軋んだ。



「『学園内における、出自、身分による権力の行使は認めず』……だと?」



苛立ちが、声に滲む。



「何故、高貴なる余が、下民共と机を並べねばならぬのだ。くだらぬ……実に、くだらぬ」



吐き捨てるような言葉。
だが、その直後、ふっと口元が吊り上がる。



「……幸いだったのは」



声が、わずかに弾んだ。



「この学園が、“完全実力主義”を掲げていた事よ」



ザイードの胸に、誇りが満ちる。



「我がスキル――“豊穣神の加護アシュタロス”は、母国に繁栄を、敵国に滅亡をもたらして来た最強の力……!」



両腕を広げると、木のうろの内壁に走る魔力の脈動が、はっきりと可視化される。根がうねり、幹が鳴動する。



「“大賢者王子ウィザード・プリンス”ラグナ・ゼタ・エルディナスとて……」

「余が本気を出せば、ひれ伏すに違いあるまい……!」



苛立ちと自尊が、同時に噴き出す。

そして──

ザイードは、再び“視界”へと目を向けた。
ディオニス。ギュスターヴ。
守るように、前に立つ二人。



「……」



一瞬の沈黙の後、ザイードは嗤った。



「──ラグナ・ゼタ・エルディナスの“前菜”として」



声が、密林全体へと滲み出す。



「まずは、そこな無礼者どもを手打ちにしてくれよう」



指先が、ぎゅっと握られる。



「“巨樹人”の苗床にしてくれるわ」



その言葉を合図に。
木のうろの中に、ザイードの魔力が満ちていく。
豊穣の名を冠しながら、そこに宿るのは支配と歪み。
生命を育む力は、今この瞬間──
明確な“殺意”へと姿を変えた。

闇の中で、無数の“眼”が、ゆっくりと瞬いた。



 ◇◆◇



密林の空気が、重く沈んだ。

ギュスターヴは金棒を肩に担ぎ直し、爬虫類の瞳を細めて周囲を睨め回す。
黒い鱗の隙間を、粘つく魔力が這うような感覚が走っていた。
敵意は、もはや隠されていない。
四方八方から、確実に向けられている。



「……来るナ」



低く呟いた、その直後だった。

オオオオオ──、

まるで森そのものが呻くかのような、不気味な音が響き渡る。
ザキ・チームを取り囲んでいた“巨樹人”たちの身体が、一斉に軋み始めた。幹が捩れ、枝が折れ、葉が剥がれ落ちる。
植物で構成されたはずの巨体が、人の骨格をなぞるように再構築されていく。

木の腕が、肩となり。
節くれた幹が、胴体へと引き延ばされ。
枝の束が、指の形へと裂けていく。

数瞬のうちに、そこに立っていたのは──身長五メートル級の、人型。

冒険者風の装備を模した者。
魔法士のローブを纏った姿。
格闘家のように構えた体躯。

ただ一つ、共通しているのは。
顔の“目”の部分だけが、うろの穴のようにぽっかりと空洞になっていることだった。

ギュスターヴの喉が、わずかに鳴る。



「──なんダ……?
木偶人形達の姿が……!」



その異様な光景に、ザキも眉をひそめる。剣の柄に添えた手に、知らず力が籠もった。



「……それぞれが、別々の姿になっとるな。ひょっとしてやけど、これって……」



言葉を継ぐ前に、静かな声が答えを示した。



「……ええ」



ロールは包帯の上から、そっと目元を押さえる。視線は“見えないはずの何か”を捉え、密林の奥まで貫いていた。



「これは……核となった他の挑戦者達の姿を“巨樹人”が、模している様です」



淡々とした口調。
だが、その声音には、微かな嫌悪が滲んでいる。



「人を使い潰して……コピーして……
……とことん、悪趣味な皇子サマだな、こりゃよ」



ディオニスは肩をすくめ、手にしていた酒瓶を一気に煽る。喉を鳴らして飲み干すと、空になった瓶を無造作に放り捨てた。

その瞬間。



『──そこな酒カスと、トカゲ擬き』



どこからともなく、声が響いた。
密林全体が、共鳴するように震える。



「誰が酒カスだ!!」



即座に怒鳴り返すディオニス。



「いや、それはアンタやろ」



間髪入れず、ザキがツッコミを入れる。
緊張感を断ち切るような軽口だが、その視線は鋭いままだ。



『貴様らは、二人で余を倒すと申しておったな』



声は、嘲るように続く。



『特別に相手をしてやる。やれるものなら、やってみよ』



次の瞬間だった。
地面が──動いた。

ズズズズッ、と不気味な音を立てて、大地の下から無数の植物の根が盛り上がる。
太く、硬く、まるで巨大な蛇の群れのように蠢きながら、ディオニスとギュスターヴの足元を押し上げていく。



「チッ……!」



ギュスターヴが踏ん張る間もなく、二人の立つ地面だけが持ち上がる。
根は絡み合い、瞬く間に円形の高台を形作った。即席の“舞台”──逃げ場のない、決闘の場。

同時に、舞台の外では、別の根が暴れ出す。



「ロールちゃん!」



ザキは反射的にロールの腰に手を回し、小脇に抱え上げる。
盛り上がる根を軽やかに跳び越え、地面を転がるように回避していく。



「わっ……!?」


「大丈夫や。ちょい我慢してな」



ザキは息一つ乱さず、根の動きを読み切っていた。まるで最初から予測していたかのように、無駄のない動きで距離を取る。

やがて、安全圏に辿り着き、ザキはロールをそっと下ろそうとする。



「あ、ありがとうございます……で、でも、もう下ろして下さって結構ですよ……」



包帯の下、ロールの頬がうっすらと赤く染まっている。



「何やの、ロールちゃん。俺に抱き抱えられて、照れてもうた?」



軽い冗談。
だが、その声は柔らかい。



「そ、そんな事はありません!!
私は……“氷の心”を持つ女……!
と、殿方に優しく抱き抱えられたくらいで、決して心揺らいだりは……!」



言葉とは裏腹に、視線は泳ぎ、耳まで赤い。
ザキは小さく微笑み、何も言わずに視線を前へ戻した。

根で出来た高台の上。
ディオニスとギュスターヴが、背中合わせに立っている。



(……とは言え)



ザキの胸中に、冷静な思考が浮かぶ。



(俺も、あの二人の力は報告書で聞いただけや。
実際に、こうして目にするのは初めてやな)



視線が、舞台を取り囲む人型の“巨樹人”へと移る。



(──考え様によっちゃ、あの二人の実力を見る、ええ機会かも知れんな……これは)



ザキの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
舞台の上では、戦いの気配が、確実に膨れ上がっていた。



 ◇◆◇



植物の根が絡み合って作られた高台の舞台は、まるで密林そのものが闘技場へと姿を変えたかのようだった。
足元では太い根が脈打ち、生き物の心臓のように微かに震えている。四方は人型の“巨樹人”に囲まれ、逃げ道はない。

ディオニスは肩を鳴らし、隣に立つギュスターヴを横目で見た。口角を吊り上げ、やけに楽しそうに笑う。



「……やっと二人きりになれたね!」



場違いなほど明るい声。
ギュスターヴは視線を前に据えたまま、低く言い放つ。



「黙レ。酔っ払いガ」



次の瞬間だった。
オオオオッ、と地鳴りのような唸り声と共に、周囲の“巨樹人”が一斉に動く。
冒険者風の姿をした五メートル級の個体が、木で形作られた剣と斧を振りかぶり、ギュスターヴへ殺到した。重量と数に物を言わせた、押し潰すような一斉攻撃。

ギュスターヴは一歩も引かない。

太い尾で地面を強く叩いた瞬間、巨体が宙へと跳ね上がる。重力を置き去りにしたかのような跳躍。その空中で、金棒を大きく振りかぶった。



「──”鰐導落クロコ・ドロップ”」



短く、だが王の命令のような一言。
次の刹那、金棒が落ちた。

凄まじい速度で振り下ろされた一撃は、空気そのものを殴りつけ、衝撃波となって炸裂する。

ドォォォオオオオオンッ!!

轟音と共に、数体の“巨樹人”が一瞬で砕け散った。木片は塵となり、緑の破片が霧のように舞い散る。



『おお……』



密林のどこからともなく、ザイードの声が響いた。



『余の“巨樹人”が、人を核に成された物と知りながら、容赦無くほふるか』

『所詮、畜生の混じった亜人には、“慈悲”という概念は理解し難い様であるな』



嘲笑を含んだ声音。

ギュスターヴは着地と同時に、声のする方角へ鋭い視線を向けた。爬虫類の瞳が、冷たく光る。



「──経緯がどうであろうガ、我に牙を剥くなら敵に違いは無イ」

「それニ……この“ダンジョン・サバイバル”内で死亡した者ハ、蘇生され外に出されるだけダ」



淡々と、事実を述べるように。



「何を遠慮する事があろうカ」



一拍、言葉を切り。



「──だガ、一つ確信を得タ」



ギュスターヴの声音が、僅かに低くなる。



「ザイード・ジュナザーン……貴様は、王の器では無イ」


『……何だと?』



苛立ちを隠そうともしない声が返る。
ギュスターヴは金棒を肩に担ぎ、胸を張った。その姿は、舞台の中央に立つ“王”そのものだった。



「“王”とハ……先陣に立チ、民の指針となる者」

「身を隠シ、他者の犠牲の元に戦う貴様ヲ……誰が王と認めようカ……!」



断罪の言葉。
それに応えるように、密林全体が震えた。



『──言ってくれるな』



ザイードの声が、怒気を帯びて歪む。



『トカゲ擬き如きが……ッ!!』



次の瞬間、魔力が爆発する。



『”蔦縛鋼束オーク・バインド”!』



地面から、空から、四方八方から。無数の蔦が一斉にギュスターヴへと襲いかかる。
太く、硬く、鋼鉄のワイヤーを編み上げたかのような強度。両腕、両脚、胴、そして顔面までもが瞬時に絡め取られ、締め上げられる。

ギュスターヴの巨体が、強制的に動きを止められた。



『その蔦の強度は、鋼鉄製のワイヤーを編み上げた綱以上』

『最早、貴様の命は我が掌の内よ』



楽しげな声。



『ダンジョンの中で命拾いしたな』

『失格になるが良い。トカゲ擬き!』



だが──。

ザンッ。

ザンッ。

不自然な音が、連続して響いた。



『──何ッ!?』



驚愕の声が上がる。
ギュスターヴの顔と腕を縛っていた蔦が、力任せに引き千切られていた。
次の瞬間、ギュスターヴはペッ!と、口から何かを吐き出す。
地面に転がったのは、噛み砕かれた蔦の残骸だった。

ギュスターヴは低く唸り、金棒で足に絡みつく蔦を引きちぎる。拘束は、もはや意味を成していない。

ゆっくりと金棒を肩に担ぎ直し、堂々と宣言する。



「俺は……“トカゲ”では無イ」



その声は、重く、揺るぎない。



「俺は……”爬虫族リザードマン“の王」

「”牙顎王ファングキング“ギュスターヴ、ダ」



密林が、静まり返る。
その名が持つ“格”を、世界そのものが理解したかのように。



 ◇◆◇



ギュスターヴの宣言が密林に余韻を残す中、そのすぐ隣では、まるで別の温度の戦いが続いていた。



「おー、やるじゃねぇか、ギュスちゃんよ」



覚束ない足取りで後退しながら、ディオニスは楽しそうに笑った。
肩は揺れ、視線はどこか焦点が合っていない。だが、その身体は紙一重で“巨樹人”の攻撃をかわし続けている。

次の瞬間、格闘師の姿を模した五メートル級の“巨樹人”が、拳を大きく振りかぶった。木で形作られた拳が、風を切ってディオニスへと落ちてくる。



「っと」



軽い声と共に、ディオニスは跳んだ。

拳の直撃をかわし、そのまま落下する拳の甲の上に──スタッ、と、まるで足場であるかのように着地する。
木の拳が軋み、衝撃が伝わるが、ディオニスは気にも留めない。



「なんだぁ?」



酒焼けした声で、にやりと笑う。



「この木偶人形ども……核になった人間の戦闘スタイルを、そっくりそのままコピーしてやがんのかぁ?」



密林の奥から、ザイードの声が重なる。



『よく気付いたな、酒カスよ』

『“巨樹人”は、核となった人間のスキルや魔法を自在に扱える』

『さらに、人間の時とは比べものにならん膂力も得ているのだ』



誇示するような口調。



『クズスキルしか持たぬ者も、余の駒として使い潰せる』

『素晴らしい能力だとは思わぬか?』



ディオニスは、拳の上に立ったまま顔をしかめた。



「かー……」



深く息を吐く。



「聞くに耐えねぇな」



木の拳からひらりと飛び降りながら、ぼそりと呟く。



「ま、ダンジョン内じゃ死んでも蘇生されるって話だしよ」

「さっさと消して失格にしてやるのが……優しさってヤツかぁ?」



『出来るか、それが!?』



ザイードの怒声が響いた。



『貴様如きに!!』



合図でもあったかのように、周囲の“巨樹人”が一斉に動く。
剣、斧、槍、拳。木で模造されたあらゆる武器が、同時にディオニスへと振り下ろされた。

だが──。

ディオニスは、ひらりと宙に舞った。

酒に酔って紅潮した顔のまま、空中で身体を反転させ、右手を前に突き出す。



「──”焔酒ほむらざけ”」

「”朝朗明あさぼらけ”……!」



低く、だが確かな詠唱。

次の瞬間、ディオニスの右手から、陽光そのもののような熱線が迸った。白く、眩く、朝焼けの色を帯びた光。

直撃を受けた“巨樹人”は、悲鳴を上げる暇すらなく、瞬時に焼き尽くされる。木は炭化し、炭は砕け、塵となって霧散した。



『──何だと!?』



ザイードの声が、明確な動揺を帯びる。
だが、間髪入れず、別の“巨樹人”たちが動いた。腕が変形し、蔦が伸び、硬質な槍の形へと変わる。無数の蔦槍が、全方向からディオニスを貫こうと迫る。

完全なる包囲。

逃げ場なし。

だが、ディオニスは焦らない。
空中で両手を胸の前に引き寄せ、印を結ぶ。



「──”雪酒みぞれざけ”」

「”華雪洞はなぼんぼり”……!」



刹那、ディオニスの周囲に巨大な雪の結晶が咲いた。

一つではない。幾重にも、花が開くように連なり、結界となる。触れた蔦は、次々と白く染まり、凍りつき、内部から軋む音を立て──

パキィン!!

砕け散った。

残る“巨樹人”たちが、怒涛の勢いで突進してくる。数で押し潰すつもりだ。

ディオニスは着地すると、身体の前で両手をゆっくりと回す。酒場で杯を回すかのような、どこか軽い動作。



「──”雷酒あずまざけ”」

「”電鬼菩薩でんきぼさつ”……!!」



叫びと同時に、両手から凄まじい稲妻が噴き上がった。

青白い雷光が奔流となり、“巨樹人”たちを次々と呑み込む。木の身体は一瞬で焼け焦げ、黒煙を上げて崩れ落ち、やがて消滅していった。

静寂。

ディオニスは両手をぶらぶらと揺らしながら、地面に立つ。先ほどまでの赤ら顔は消え、目の焦点ははっきりしている。



「──チッ」



小さく舌打ち。



「すっかり酔いが覚めちまったじゃねぇか」



その声は、珍しく低く、静かだった。



『馬鹿な……ッ!?』



ザイードの声が、もはや隠しきれない驚愕を帯びる。



『何なのだ、貴様のその力は……ッ!?』



ディオニスは答えず、マジックバッグをゴソゴソと漁る。取り出した新しい酒瓶を、親指でボンッとへし折る。

ゴッ、ゴッ、と喉を鳴らし、一気に飲み干す。

深く息を吐き、酒臭い息と共に言った。



「──俺か?」



口角を少しだけ上げる。



「俺は……俺のスキルは……”酒精勇者バッカリオン”」



一拍置いて。



「──この世で一番しょうもねぇ、“勇者”の力だよ」



密林が、再びざわめいた。
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みんなの感想(52件)

スカイ
2025.12.29 スカイ
ネタバレ含む
解除
スカイ
2025.12.28 スカイ
ネタバレ含む
2025.12.29 難波一

ギュスターヴとディオニスがどう戦うのか、楽しみにお待ちください!

解除
スカイ
2025.12.25 スカイ

このチームヤバいなぁ、ジュラ姉も狙われてんのか

解除

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