真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

文字の大きさ
4 / 249
第一章 誕生、そして旅立ち編

第4話 変身魔法、習得してみた

しおりを挟む
 俺が星降りの宝庫に入り浸る様になって、数十年の時が流れた。多分。

 "多分"というのは、日数をカウントする手段が自分の脳内カウンターしか無いからだ。カレンダーとか時計とか何も無いからね。ここ。

 気づけば、読んだ本は一万冊を超えていた。知識が増えるたびに、世界の解像度が上がっていくような感覚があった。


 いつもの場所。
 魔導書の山のど真ん中に寝そべって、俺はまたページをめくっていた。

「ふむ……“変身魔法”の本質は、魔力の“配列”と“質量制御”か……」

 読み込むほどに、この魔法の理屈はシンプルだった。要は、自分の魔力を別の形へと“再構築”する、というだけの話。

 だが、その“イメージ”が問題らしい。

『魔力構成における形態変異は、施術者の精神イメージに依存する』

 ……つまり、変身先の“ビジュアル”は自分のイメージで決まるということだ。

「つまり……“理想の自分像”を思い描いて、それに魔力を当てはめれば、なれるってわけだよな」

 理屈は分かる。理屈は。

 問題は、その“イメージ”があやふや過ぎることだ。

「俺、そもそも“人間の自分”って、どんな顔だったっけ……?」

 前世の記憶はある。でも、それはもう曖昧で——会社のIDカードの写真ぐらいしか思い出せない。

 そもそも、写真写りって基本微妙じゃない?鏡で見ても、朝の寝癖で盛られた頭とむくみ顔がセットになってたし。

「……ダメだ、俺の理想像が、週末のコンビニ行くときのジャージ姿しか出てこない」

 さすがにそれじゃ夢がなさすぎる。“夢”を見てこその魔法だろ?人の夢は、終わらねェ!

「とりあえず、全力で“整ってる俺”を妄想してみるか……。」

 どうせ人に化けるなら、イケメンになりたいって思うのが、人のさがじゃない?

 元の顔をベースに、鼻筋通ってて、目元シュッとしてて、髪はさらさらストレート。ちょっとした知性と冷静さを感じさせる雰囲気。

 うん、これだ。絶対これ。

 まあ、転生してから人間に会った事無いから、この世界でイケメンとされる顔がどんな感じなのか全く知らないんだけど、とりあえず自分好みのアバターに仕上げるのがネトゲのキャラクリの基本だもんね。ネトゲじゃないけど。


 イメージを膨らませ、魔力を循環させる。身体の内側で、熱を帯びた魔力が渦巻きはじめる。

「……変身魔法、起動……いっけえええええええ!」

 全身の鱗が、ふわっと光の粒になって消えていく。

 骨の構造が変わる。筋肉が再構成される。目線が変わっていく——

 そして——俺はその日、初めて人間の姿になった。


 ◇◆◇


「……おおおおお……!できた!?変身できた!?これ、成功してる!?」

 反射的に近くの水鏡に駆け寄る。
 水面に映ったのは、紛れもなく“人間の俺”。

「…………えっ、誰?」

 そこに映っていたのは——

 シャツ姿の、白銀色のサラサラヘアー、整った顔立ちの少年。中性的なアイドル級のイケメン少年。クラスにいたらそりゃモテるだろうな!というレベル。

 容姿のパラメーターで言えば成長性A(超スゴイ)って感じだ。我ながら、ここからの成長が楽しみだ。

「いや、それはいいんだけど……なんか若くない?」

 見た目、どう見ても15歳前後。下手したら中学生でも通りそうなあどけなさ。
 これは竜としての成長段階が反映された結果か。

「そして、なんか……色白すぎるな。あと髪、サラサラだな……」

 自分で言うのもなんだが、ちょっとだけ鼻につくタイプの“美少年”になってしまった気がする。

 華奢だけど、身体つきはちゃんとバランスが取れてる。目元がやや鋭いせいか、どこか冷たく見えるが、整ってはいる。

「えーと、総評:非常に整ってるけど、理想より中性的すぎる……って感じか?」

 まあ、悪くはない。悪くはないが……

「俺の“理想の自分”って、こんなだったかなぁ……?」

 この変身魔法、やはりイメージと実態のギャップが強く出るらしい。

 でも——

「……すごいぞ、これは。」

 水面の中の自分が、瞬きをした。
 俺も、瞬きを返す。まるで、知らなかった他人と初めて目が合ったような、不思議な感覚だった。

「本当に……“なれた”んだ」

 人間に。前世ぶりの、人間の姿に。

 この姿で、人間の世界へ行ける。

 “動かない”この竜社会から、“動き続ける”外の世界へ——

「よし、次は……服だな!」

 全裸で旅立つわけにはいかない。新たな課題を前に、俺はワクワクしながら宝物庫の衣装棚を目指して歩き出した。


 ◇◆◇


 そんなわけで、星降りの宝庫の衣装棚を物色していた。

 

 「……ここに“人間の装備品”もあるってことは、昔の竜は変身して外に出てたってことだよな……?」

 

 竜社会では「人間に関わるな」が鉄の掟(※罰則は無い)のように扱われていたけど、その割にこの宝庫には人間由来と思われる品々が多すぎる。

 つまり、昔は“そういう時代”があったのかもしれない。

 過去の名残。それとも……捨てられた可能性のひとつ?

 

 「いやいや、感傷に浸ってる場合じゃない。まずは服を——」

 

 そう思って振り向いた瞬間、山積みにされた衣装棚に、ズザザッと崩れかけたコートの山が落ちてきた。

 

 「うおっ!? っととと……! ……あ、これ……」

 

 拾い上げたそれは、深い藍色の長コートだった。

 しっかりした革と布地の混合素材で、内側には魔力を流すための術式の糸が縫い込まれている。軽くて動きやすそうな作りのくせに、防御力も高そうだ。この身体にこれ以上の防御力が必要なのか?という問題はさて置いて。

 真祖竜の宝庫にあるお宝だ。恐らく何らかのマジックアイテムなのかも知れない。だが、そんな事より、俺はこのコートを気に入ってしまったのだ。
 

 なにより——見た目がカッコいい。

 転生ものの主人公の服装と言えば、ロングコートが基本だよね。あいつとか、あいつとか。



 「……これ、ちょっと着てみるか」

 

 宝庫の隅にあった、全身を映す古い鏡の前に立つ。

 服を羽織り、前を締める。ブーツも近くにあったサイズの合いそうな黒革のものを履いた。

 ベルトをひと巻き。腰には小さなポーチをいくつか。実用性重視の冒険者スタイルだ。

 

 「……」

 

 鏡に映った自分を、思わず見入ってしまった。

 

 これは——

 

 「……これ、“美少年主人公?”感あるな……」

 

 自画自賛とかじゃなく、客観的に見て。
 育ちの良さそうな感じすらある。内面は中身おっさんだけど。

 

 でも今は、背筋を伸ばすと自然と“冒険に出る少年”の顔になれる気がした。

 目の奥に燃えるのは、まだ見ぬ世界への好奇心。
 このコートの背に、まだ名もなき旅の風が吹く。

 

 「よし……これで行こう」

 

 服を選ぶだけのはずが、不思議と胸の奥が熱くなっていた。

 俺はもう、ただの“観測者”じゃない。

 

 この足で、“動く側”になるんだ。

 

 そして、この旅は——

 何もかもが“初めて”で、“誰も知らない”ものになる。

 

 鏡の中で、少年の瞳が静かに燃えていた。


「……じゃあ、行くか」


 俺は、鏡に背を向け、コートの裾を軽く払って歩き出した。
 星降りの宝庫の扉が、静かに、未来への音を立てて開いた。

しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い

☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。 「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」 そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。 スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。 これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

​【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~

月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化! ​【あらすじ紹介文】 「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」 それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。 ​日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。 コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった! ​元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。 この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する! ​「動きが単調ですね。Botですか?」 ​路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!? 本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる! ​見た目はチー牛、中身は魔王級。 勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...