真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第69話 穏やかな修行と、見守る瞳

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 ──空は高く、風は澄んでいた。

 

 フォルティア荒野の奥地。

 かつて“フェンリルの里”と呼ばれた地の名残をとどめる岩場の合間に、その広場はあった。

 木々のざわめきが耳に心地よく、虫の音も鳥の囀りも一切聞こえない。

 静寂と、時折吹き抜ける乾いた風だけが支配する空間。

 

 その中央に、ひときわ異彩を放つ男が立っていた。

 

 黒髪に赤のメッシュ。

 右の側頭部を刈り上げ、左から流れるウェーブのかかった長髪が片目を隠す。

 サングラスに、胸元の開いた白シャツ。

 赤茶のロングコートを袖を通さず肩に掛け──その風をはらんだ姿は、まるでアニメから飛び出してきたかのような“チャラ男感”を放っている。

 

 "色欲の魔王"、ヴァレン・グランツ。

 

 その彼の前に、四つの姿が並んでいた。

 

 一人──金髪の美しい少女、ブリジット・ノエリア。

 今日の彼女は珍しく、長い金髪を三つ編みにした姿に、スポーティなランニングシャツとスウェットパンツ。

 普段の冒険者然とした姿とは打って変わって、どこかあどけない雰囲気をまとっている。

 

 そして三匹──フェンリル族の若き王フレキ、父である先王・銀狼マナガルム、そして弟グェル。

 フレキは縮小スキルでミニチュアダックスほどの大きさになっており、他の二匹は本来の巨体のまま、神妙な顔つきで“おすわり”していた。

 
 1人と3匹は、世界最強の一角と言われる"大罪魔王"の一柱、ヴァレン・グランツから指導を受け、修行の最中だった。



 ヴァレンが、ゆっくりと口を開く。

 

 「さて、ブリジットさん。君のスキル、"真祖竜の加護"のコントロールを習得するうえで、最も重要なことは何だと思う?」

 

 目を閉じて座禅を組むブリジットが、はっとして顔を上げる。

 

 「えっと……魂、ですか?」

 

 「正解。君の魂の“形”を自覚すること──それが鍵だよ」

 

 ヴァレンは飄々と笑いながら、長い前髪の奥から片目を細めた。

 

 「心を沈めて、自分の魂の気配を感じるんだ。そのうえで、そっとスキルを発動してごらん」

 

 ブリジットはこくりと頷き、目を閉じ直す。

 深く、静かに息を吸い──ゆっくりと吐き出す。

 体の奥、胸の中心あたりにある“何か”を、感じ取ろうとするように。

 

 (……集中……)

 

 (私の魂……私の、形……)

 

 風が止んだ。

 その瞬間、ブリジットの額から──銀色の“ツノ”が、ゆっくりと生え始めた。

 

 シュウゥウ……

 

 透明感のある光沢を帯びた2本のツノが、彼女の前髪を押し上げながら、真っ直ぐに天を指す。

 フレキが目を開けてちらりと視線を送る。

 

 「出ました……ツノ、ですね……」

 

 「うむ、久々に見たが、相変わらず凄まじい力を感じる……」

 

 マナガルムの低く響く声が重なる。

 

 ヴァレンは満足げに頷いた。

 

 「よし、その調子。そのツノが出ている間、君のスキルは発動状態にある。」

 「──だが、注意するんだ。心が乱れれば、ツノは制御できなくなる。今はただ、一定の長さを維持することを目指してごらん」

 

 「は、はい……!」

 

 額に浮かぶ汗をそのままに、ブリジットは再び目を閉じる。

 

 (集中……ツノを、これ以上伸ばさない……)

 

 心を落ち着けるように深呼吸しながら、彼女は己の“魂のカタチ”と向き合っていた。

 ツノの成長は、止まりかけていた。まさに、絶妙なバランス。

 

 ──そのとき。

 

 「おっ!いいとこに来たな、相棒!」

 

 突然、ヴァレンが広場の外れに向かって声を上げた。

 

 「えっ!?アルドくん!?」

 

 ブリジットの目がぱちりと開かれた。顔が一気に赤くなる。

 

 「ど、どこ!?あ、あの……!」

 

 キョロキョロと周囲を見渡す。だが、どこにもアルドの姿はない。

 

 「え、いない……?え?ええっ?」

 

 次の瞬間。

 

 ズゴゴゴゴゴ……

 

 ツノがニョキニョキと伸び始めた。

 

 「ああっ!?!?ちょ、ちょっと待ってツノさん!?ストップストップ!!」

 

 慌てて両手でツノを抑えようとするも、成長は止まらない。

 ヴァレンはその様子を見て、肩を揺らして笑った。

 

 (うっひゃあ、分かりやすいなぁブリジットさん。完全に意識してんじゃん相棒のこと……!)

 

 「ほら~、"好きピ"が来たと思って心が乱れるから、コントロールも乱れるんだよ~?」

 

 「な、なに言ってるんですかっ!?ヴァレンさんっ!」


  ヴァレンの揶揄う様な口調に、ブリジットの顔がますます赤みを帯びていく。
 


 「まだまだ、完全制御の道は遠いねぇ」

 

 その途端、ブリジットが真っ赤になって立ち上がり──


 「もうっ!!ヴァレンさんったら!!」
 


 ドゴォォッ!!!

 

 ヴァレンの頭を平手で叩いた。

 

 「グエッ」

 

 ヴァレンの身体が、ハンマーで打ち込まれた釘の様に、豪快に地面へと埋まっていく。

 

 「わあああっ!?ご、ごめんなさいっ!!力がまだコントロールできてなくて、つい……!」

 

 慌てて駆け寄るブリジット。

 地中からくぐもった声が返ってきた。

 

 「ククク……今のは、俺が悪い……。
 でも……俺とリュナと相棒以外にやったら……
 たぶんその人、死ぬから……
 気をつけて、マジで……」

 

 その言葉に、フレキ・マナガルム・グェルの三匹が無言でゾゾゾッと震える。


 ミニチュアサイズのフレキが、足元でぷるぷると震えながら小声で呟いた。

 

 「ぶ、ブリジットさん……相変わらず、ツノが生えてる時は、凄まじいパワーです……」

 

 マナガルムもブルブルと身体を震わせながら同意する。


 「う、うむ……我も、かつてブリジット殿と対峙した時のトラウマ……もとい、記憶が呼び起こされる気分だ……」

 
 グェルもパグ顔を引き攣らせながらその様子を見ていた。


 「……ボクも、ブリジット様を怒らせないように、気をつけよ……」

 

 こうして、フォルティア荒野の広場には、魂との対話と愛の暴走が交差する、奇妙な静寂が再び戻ってきたのだった──。



 ◇◆◇



 ブリジットの渾身のツッコミによって地面に頭までめり込んでいたヴァレンは、ゆっくりと地を割るようにして這い出してきた。

 

 「いや~……なかなか強烈だったぜ、ブリジットさん……。やっぱ相棒のこと、意識しまくりなんだね~……ククク」

 

 軽口を叩きながら、ヒョイと土ぼこりを払い、髪をかき上げて立ち上がる。

 コートの裾がふわりと風に揺れ、いつの間にかまた絵になるポーズに戻っているのが、憎たらしいほど様になっていた。

 

 そのまま、彼は目の前に並んだ三匹──フェンリルの王族たちへと向き直る。

 

 「さて──改めて、次は君達の番だ。」

 

 声のトーンが、ほんの少しだけ真剣なものへと変わる。

 

 「フェンリルの王族である君たちには、まだまだ“魂”の奥に、未開の力が眠ってる。
 自分の内側と向き合えば、きっと今よりもっと……強くなれるはずだ」

 

 彼の言葉に、フレキがパッと耳を立てた。

 

 「ボクは……“神獣化”のスキルをもっと磨けば、もっと強くなれる……ですよね?ヴァレンさん!」

 

 期待と決意を宿した目で、ミニチュアサイズのその瞳がキラキラと輝く。

 尻尾もわかりやすくパタパタと揺れていた。

 

 ヴァレンは指を立ててニカッと笑った。

 

 「その通り!さすがフレキくん、理解が早いね」

 

 「やったーっ……!」

 

 小さな声で、でも確かに喜びを噛みしめるように、フレキは呟いた。

 

 続いてヴァレンは、どっしりと構える銀狼──マナガルムの方へと目を向けた。

 

 「マナガルムパパ。貴方は……すでに"フェンリル・ロード"として、完成された強さを持ってる」

 

 「……過分なお言葉」

 

 マナガルムは静かに首を垂れた。どこか品格と威厳を漂わせる動き。

 

 「だけどね、それでも俺には見えるんだ。貴方の中に、まだ“変化”の可能性が」

 

 その言葉に、マナガルムの目がわずかに細くなった。

 

 「進化ではなく、変化……か」

 

 「そう。完成されている者ほど、変わることで“次の地平”に辿り着ける。
 だからまずは、心と向き合ってみてほしい。そこに、きっと答えがあるはずだよ」

 

 しばしの沈黙の後──

 

 マナガルムは、地を這うような重々しい声で応じた。

 

 「“大罪魔王”自らの御指導……痛み入ります」

 

 そして、大きく頭を下げる。

 

 「我も……さらなる力を得るため、尽力いたします」

 

 その姿に、年長者としての覚悟がにじんでいた。

 

 ヴァレンは満足げに笑み、最後の一匹へと視線を送る。

 

 「さて、グェルくん。君の番だ」

 

 少しばかり大きめな体をきゅっと引き締めながら、グェルは「はい……」と返事をした。だが、目線はやや伏し目がち。

 

 「君は──正直に言うと、フレキくんやマナガルムパパに比べると……魔力量ではちょっと、劣ってる」

 

 その言葉に、グェルの耳がしゅんと垂れた。

 

 「……はい。分かってます。ボクは……」

 

 声は小さく、どこか自分を責めているような響き。

 だが──

 

 「まあ待ちなって」

 

 ヴァレンが、パチンと指を鳴らすように声を切り替えた。

 

 「確かに君の魔力量は控えめだ。でもね──“魔力コントロールの精度”は、君が一番優れてるんだよ。
……それはね、立派な“才能”だ」

 

 グェルが顔を上げる。大きな瞳が、ヴァレンの言葉を探るように見つめていた。

 

 「聞いたよ?君、かつて“百の牙”の隊長だったんだろ?あのフェンリル部隊の連携魔法をまとめ上げてたのが、君だったって。」

 

 「……っ」

 

 グェルの瞳が見開かれ、口元がわずかに震えた。

 

 「合体魔法のコントロールってのは、雑にやっていいもんじゃない。タイミング、出力、エネルギーの位相──どれか一つでもズレたら、仲間ごと自爆するような難易度の代物さ。」

 

 ヴァレンは、そのままグェルの鼻先に指先をポンと置いた。

 

 「君の強みは、“量”じゃない。“質”で戦え。君のその繊細な魔力コントロールは、間違いなく武器になる。」

 

 グェルは、まっすぐにヴァレンを見上げていた。

 その目に、先ほどまでの不安や自信のなさはなかった。

 

 「……ボク……」

 

 「……リュナを守れるくらい、強い"オス"になるんだろ?」

 

 そう言われた瞬間、グェルの尻尾がバサッと跳ね上がった。

 頬を紅潮させながら、前足をきゅっと揃え──

 

 「は、はいッ!ヴァレン様……ボク、頑張りますッ!!」

 

 口で「ハッハッハッ」と息を漏らしながら、嬉しそうに笑った。

 

 その笑顔は、どこか子犬のような無垢さを湛えながらも──確かに、戦士としての決意を帯びていた。

 

 ヴァレンは、三匹と一人の姿をゆっくりと眺める。

 

 (そうだ……それでいい)

 

 (グラディウスの言ってた通りなら、あの“帝国”が本格的に動く可能性がある)

 

 (もちろん、相棒がいれば──安心はしてるさ)

 

 だが彼は、遠くを見つめながら、思考の底で“その存在”の気配を思い起こす。

 

 (……けど、ベルゼリアにはがいる)

 

 鋭く切り裂くような、紅く煌めく灼熱の残像が脳裏をかすめた。

 

 (あれは……一度見たら、忘れられねぇ)

 

 (ブリジットさん。フレキくん。マナガルムさん。グェルくん──)

 

 (君たちはまだ、伸びる。今のうちに、鍛えておかなくちゃな)

 

 そして、ふっと視線を戻し──

 冗談のような笑顔を再びその顔に浮かべた。

 

 「じゃ、休憩入れよっか~。魂の修行って、めちゃくちゃエネルギー使うからね?」

 

 「「「「はいっ!」」」」

 

 声を揃えて返事をした三匹と一人に、ヴァレンは心の中で小さく頷くのだった。

 

 ──戦いは、まだ遠く。

 ──だが、備えは始まっている。



 ◇◆◇



 ──乾いた空気が、ほのかに夕暮れの匂いを運んでいた。

 

 ヴァレン、ブリジット、そしてフレキは、修行を終えた帰り道を並んで歩いていた。

 広がるフォルティアの大地は、岩肌と新緑のせめぎあいが美しい。

 復興中の元・フェンリルの里には、今日も魔法で強化された杭や足場が少しずつ組まれていく。

 

 「……にしても、今日は充実してたな。」

 

 ヴァレンが軽く伸びをしながら言う。

 

 「はいっ!ツノのコントロール、明日はもう少し長く安定させられるように頑張りますっ!」

 

 ブリジットが両手でギュッと拳を握りしめて言う。三つ編みの先がふわりと跳ねた。

 

 「ボクも、神獣化の時にもっとカッコよく吠えられるように……いや、ちゃんと制御できるようにがんばります……!」

 

 フレキもフリフリと小さく尻尾を揺らしながら前足で地面を踏みしめる。

 

 「うんうん。いいねいいねぇ、こういう青春の汗ってやつは──」

 

 そう言いかけたヴァレンの目に、目的地の建物が映った。

 

 ──カクカクハウス。

 

 木と石を組み合わせた、大きな“カクカクした”直角造りの家。

 ブリジットの開拓団の拠点となっているこの場所は、今や仲間たちの帰る場所だった。

 

 玄関を開けた瞬間、ふわりと香ばしいスパイスの香りが鼻をくすぐった。

 

 「ん、これは……」

 

 「……カレーの匂いっ!?」

 

 ブリジットとヴァレンが顔を見合わせた次の瞬間──

 

 「おかえりっすー! 姉さん、フレキっち~」

 

 ソファの方から、けだるげで甘ったるい声が飛んできた。

 

 そこにいたのは、黒いラメのボディコンミニスカスーツに身を包み、ソファにダラリと寝転ぶ──金茶のロングヘアーと褐色肌の美女。

 ジト目、ギザ歯、耳にかけた黒マスクは顎まで下げられ、手元には皿に山盛りのポテトチップ。

 

 ──リュナ。

 ザグリュナ。

 その正体は、かつて"咆哮竜"と呼ばれた存在である。

 

 だが今は──

 

 「この“恋するカフェラテメモリー”ってやつ、兄さんに"漫画"の読み方教わったら、メチャ面白れーじゃん……ヴァレンのクセに、やるっすねー……。」

 

 ヴァレンが描いたラブコメ漫画を片手に、もっさりポテチを咀嚼しているただのだらけ黒ギャルである。

 

 「……一応、帰ってきた俺にも挨拶とかないんですかねぇ……?」

 

 ヴァレンが片手を上げて呆れたように言うと、リュナはちらりと視線を向けて──

 

 「……あ~、ヴァレンも一応、おっつー」

 

 棒読み。やる気ゼロ。

 

 「……一応ってなんだよ!?」

 

 「いやいや、感謝してますって~? 漫画、めちゃイケてるっす。ヒカル先生~。」

 

 口だけ笑って、表情は一ミリも変わらない。

 

 そんなリュナに、ブリジットが苦笑しながら声をかけた。

 

 「ただいま、リュナちゃん」

 

 「おかえりっすー! ほら見て姉さん! 兄さんの作ったこのポテチ、ま~じで神レベルっすよ!」

 

 皿を抱えたまま、リュナがブリジットにぐいっともたれかかってくる。

 

 「わっ……ほんとだ、いい匂い。サクサクしてそう!」

 

 「でしょでしょ!? あーしと一緒に食べましょーよ!」

 

 ソファの隣にずりずりと引きずられて、座らされるブリジット。

 いつのまにか姉妹のような距離感になっていた。

 

 そこへ、ちょっと離れた台所から声が飛ぶ。

 

 「……あのー、リュナちゃん?今、カレー煮込み中なんだけど、ポテチ食べたらご飯入らなくならない?作った俺が言うのもアレだけども。」

 

 落ち着いた声。

 その声の主──台所で鍋をかき混ぜる少年こそが、真祖竜・アルドである。

 

 「えー!? でも兄さん、ポテチは別腹っすよ~?」

 

 「そんな概念ある!?」

 

 「じゃあさ~、兄さん~? あーしと姉さんと、フレキっちにも~。なんかこう、飲み物的なものとか、持ってきてくれませんか~?」

 

 「……ええ!? 俺、ちょっと今、手が離せないんだけど……!」

 

 「そこをなんとか~~♡ 可愛い“しもべ”からのお願いっす~!」

 

 クネクネと上体を揺らしながら、手を合わせて上目遣いで迫るリュナ。

 その全力甘えモードに、ブリジットが「ちょ、ちょっとリュナちゃん……!」と顔を赤らめながらツッコむが──

 

 「もー……しょうがないなぁ……」

 

 苦笑しながらも、アルドはケトルに手を伸ばした。

 

 「やったーっ! 兄さん、大好きー!」

 

 リュナは満面の笑みでピースサイン。

 

 ブリジットも照れながら、笑顔で言った。

 

 「ありがとう、アルドくん!」

 

 そして──ソファの脇でその様子を眺めていたヴァレンは、天井を見上げ、深々と溜め息をついた。

 

 (……ったく)

 

 (こいつ、王都ルセリアから帰ってきてからというもの、相棒とブリジットさんに……甘えに甘えてやがる……)

 

 (いや、いいんだよ? 甘えられる相手ができたのは良いことだよ? 千年近く孤独だったお姫様が、やっと"人間味"を獲得したんだから)

 

 (……でもなぁ……)

 

 チラリと視線を向ける。

 “主人”にお茶の用意を頼み、満面の笑顔でギャルピースしてる“しもべ”。

 

 (主人にお茶入れさせて、満面の笑みの“しもべ”って──どこの世界にいるんだよ……!)

 

 ヴァレンは眉間を押さえた。

 笑える日常が、ここにあった。

 それはどこか──戦いの嵐の前にしか存在しない、“嵐の目”のような静けさでもあった。
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