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第五章 魔導帝国ベルゼリア編
第86話 ゲーム感覚の襲撃者たち
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トンネル内の、ひんやりと湿った空気を切り裂いた魔弾の余韻は、まだ壁のどこかで反響している。
その地点から約一キロ、トンネルの金属壁の凹みに張られた光学迷彩ネットの陰──そこに、ひとつの魔導スコープが沈黙を破った。
「……おっかしいなぁ。確実に当たったと思ったんだけど」
肩に構えられているのは、対物ライフル──それも、久賀レンジのスキル"魔導設計"によって生み出された、異世界における一種の“兵器”。
スコープ越しに虚空を睨みながら、レンジは眉をひそめていた。
「お前、何外してんだよレンジ!ああいうデカいモンスターは“経験値”ウマいってのにさぁ!」
隣でしゃがんでいた西條ケイスケが、膝をバンバン叩きながら苛立たしげに言う。
ケイスケは手元の携行端末を操作し、レンジのライフルに魔力充填をかけていた。
“魔力増幅装置”──ケイスケの強化スキルによって、ライフルは通常の三倍以上の威力を誇っていたはずだった。
「弾が反れた?空気抵抗?いやいや、魔導安定化装置も入れてたし……マジで謎なんだけど……」
「謎じゃねえよ、下手くそなんだよお前!」
「うるせぇなぁ!」
二人が口論しているそのすぐ後ろ。
緑の軍服──だが、あちこちに缶バッジやアニメパッチが縫いつけられ、制服の原型をかろうじて保っている──を着たオタク四天王の残り二人が、半ば野営気分でくつろいでいた。
その中央、石田ユウマはしゃがみ込みながら、ふと前方を凝視したまま黙り込んでいる。
「……おーいユウマー、どうした?お前もバカにしていいぞ?レンジの命中率!」
「いや……ちょっと待ってくれ。今、天啓眼使ってる」
そう言って、ユウマはギラリと瞳を光らせた。
「……何だ……? あのデカい犬のモンスター……だけじゃ……ないのか……?」
それを聞いてかきかないでか、後方からキャッキャと笑い声が響いた。
「え~~?マジで外しちゃったの~?レンジくん、うっけるんですけど~!」
トンネルの少し奥、ベルゼリア式軍服を大胆にアレンジしたギャル三人組が、腰に手を当てて笑っていた。
茶髪を緩く巻いたの高崎ミサキは胸元を大胆に開けた制服をゆらゆら揺らし、内田ミオはスカートをミニにしてサイハイソックスを自慢げに見せている。
佐倉サチコは制服の袖をちぎって網タイツに変えたようなセンスでキメている。
「レンジ、ウチらの前でカッコつけたのにさ~、ぜんっぜん当たってなかったし~」
「ヤバくない?てか、そのスコープ、ガチャで出たハズレ品じゃね?(笑)」
「ねー、ユウマくーん?あたしらのこと守ってくれる人、ちゃんと選びたいんだけど~?」
ユウマはスキルを解除し、チラと彼女たちを見たが、苦笑で誤魔化した。
一方で、藤野マコトはというと、その笑い声に完全にやられていた。
「はわ……は、はは、そうだよなぁ!やっぱギャルの笑いは正義……!」
「マコト!落ち着け、鼻の下伸びてるぞ!」
西條ケイスケがツッコミを入れるが、どこかそれすらも“この騒がしさこそ俺たちの現実”といった空気を纏っていた。
藤野とケイスケは、言葉の応酬というより、むしろギャルズに認知されることに全神経を注いでいる。
「くっそ……今度は絶対に当ててやる!どけケイスケ!俺がやる!狙い撃つぜ!!」
「いやいや、今度は俺が撃つ番だろ!何発連続で外す気だよ!」
レンジとケイスケがまた対物ライフルを取り合い始め、ギャルズの笑い声がさらに響く。
石田ユウマはその背で、何かひとり感じ取ったまま、口を閉じた。
(──さっきの違和感……何だ……?)
だが、誰もその予感に耳を貸そうとはしなかった。
彼らにとってこの戦場は、現実ではなく“ゲームのイベント”の延長。
トンネルの奥で待つ“何か”の気配など、まだ遠く、霧の中だった。
◇◆◇
トンネルの遠く、漆黒に包まれたその一点を、石田ユウマはじっと見つめていた。
その瞳はわずかに青白く発光し、虹彩の奥に精密な情報処理のスキャンパターンが浮かび上がっている。
スキル"天啓眼"。
対象の構造、状態、挙動、エネルギー波長すらも解析し、“見えないもの”すら透かし見る特殊視界。
「……今の、弾丸……」
ユウマは小さく呟き、視線を逸らさず眉間に皺を寄せた。
「……外れたんじゃないかも……」
「──誰かに、"止められた"気がする……」
その言葉に、横でダベっていたレンジとケイスケが一瞬だけ固まる。
だが次の瞬間、揃って吹き出した。
「いやいやいやいや、ないないない!」
レンジが爆笑しながら手を振る。
「対物ライフルの弾を受け止めた!? この世界にスタープ◯チナでも来てんのか!?」
「スタプラどころじゃねーよ! スタプラでも無理だわ、あんなスピード!」
ケイスケが肩を揺らしながらツッコミを入れる。
レンジが、今さっき発射した自作の魔導対物ライフルをトントンと軽く叩きながら言う。
「俺とお前でカスタムした魔導ライフルだぞ? 対魔獣用の鉛芯に魔力鋼コーティングで、魔力障壁も物理装甲もぶち抜く仕様。大型のグリュプスすら一撃で爆散するってのに……それを、素手で? なぁ?」
「いるわけねーだろ!!"悟空さ"かよ!?いたら俺、逆に握手してぇわ!」
ケイスケが肩をすくめた。
ユウマは、苦笑する二人の横で、何も返さなかった。
(……本当に、そうか?)
彼の視界には、微かに歪んだ空間の残滓。
音速を超える衝撃が、周囲の空気を瞬間的に圧縮し、撓ませ、熱波を残して消えていった……その“痕跡”が、確かに存在していた。
(俺のスキルでも、弾速を完全に視認するのは無理だ。マッハ3超の弾丸なんて、普通は“見えた”と思う前に消えてる)
(けど、あの痕跡は……何かが、そこに“割って入って”、止めた……)
かすかに、手のひらに汗が滲む。
口元をきゅっと引き結び、眼差しを再び先へと向けた。
(……まさか、偶然じゃない。あれは……意図的に、“守られた”)
その瞬間、視界の端に、わずかな揺らぎが映った。
直線の闇。その奥に、“誰か”が立っていた気がした。
「……あそこに……誰か、いる」
ユウマの小さな声に、レンジとケイスケは再び顔を見合わせた。
「え、まじ? 見間違いじゃなくて?」
「まじで言ってる?」
ユウマは答えず、ただスコープを覗くレンジの手元へ視線をやり、その銃口の先を見据えた。
(この世界には、“俺たちの常識”じゃ計れない存在がいるのかもしれない。だとしたら、俺たちは──)
その予感が、冷たい汗となって、背中を這い上がってくるのを感じながら──
石田ユウマは黙ってその視線を向け続けた。
◇◆◇
トンネルの奥。薄闇が沈殿したその先に、誰もが見えていない“何か”がある気がしていた。
一条雷人は、無言で佇んでいた。
肩にかかる制服の上着、その裾を風がわずかに揺らす。
その下で彼は、帽子のツバを指先で静かになぞりながら、じっと奥を見据えていた。
目の奥に宿るのは、他の誰よりも冷静な光。
「……スレヴェルドの戦いにおいても、久賀の対物ライフルを回避できた魔物など、いなかった。」
低く、感情の波を抑えた声が、周囲の空気を微かに引き締めた。
オタク四天王のメンバーが、一瞬だけ手を止めて、彼の方を見やる。
「……あの大型の犬のような魔物、油断はできないぞ。」
トンネルの先。空間そのものが歪んでいるかのような、見通しの悪いその奥。
その闇の中を、雷人はしばらく観察していた。
「ここからでは、よく見えないが……」
と、彼は少しだけ眉を寄せた。
「……僕にも、石田の言う通りに思える。あそこには、犬型の魔物が二匹、確かにいる。」
間を置いて、さらに言葉を重ねる。
「だが……そのどちらでもない、もう一つの“存在”が……見え隠れしている。」
一瞬、空気が静まり返る。
だが、すぐにそれを破ったのは、久賀レンジのいつもの軽口だった。
「お、おいおい……やめろって一条。なんか、そういうのリアルに怖ぇから!」
「そうだぞー、俺たちのチートスキルで倒せない魔物なんて、いるわけねーだろ!」
西條ケイスケが笑いながら肩をすくめる。
空気を重くしたくない、という意図が滲んでいた。
「ちょっとぉー!カシコの一条がそんな事言うと、マジで怖くなってくるんですけど!大丈夫だってぇー!」
ギャルズの一人、ミサキも場を和ませる様に声を上げる。
けれど、一条雷人はそのやり取りにも頷くことなく、淡々とした調子で返す。
「……根拠のない楽観は、最も愚かな死因の一つだよ。」
三人が一瞬だけ口を噤んだ。
雷人は、帽子を軽く深くかぶり直すと、再びトンネルの先に視線を向ける。
「……どちらにしろ、僕たちが元の世界に帰るには、"この先にあるモノ”が必要だ。」
「……念の為、魔導機兵隊を先行させよう。その上で、いざとなれば──僕たちが出るしかないな。」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
雷人はゆっくりと、まるで迷いなど一度も存在しなかったかのように、トンネルの奥へと歩を進める。
コツ、コツ、と硬い石の床を踏む音が、静かに響く。
後ろで石田ユウマが、一歩、また一歩と続いた。
「……しょ、しょうがねぇな。行くか」
レンジが軽く肩をすくめ、最後にケイスケが呟く。
「ま……まぁ、帰るには進むしかねぇってのは、同感だわ……」
こうして、オタク四天王の4人、ギャルズの3人、そして、ベルゼリア魔導機兵による一個中隊は、暗いトンネルの先──
真祖竜アルドたちのいる、未知なる戦場へと、ゆっくりと進み始めた。
その歩みの奥には、誰もがまだ気づいていない“力”が、ただ静かに──待っていた。
その地点から約一キロ、トンネルの金属壁の凹みに張られた光学迷彩ネットの陰──そこに、ひとつの魔導スコープが沈黙を破った。
「……おっかしいなぁ。確実に当たったと思ったんだけど」
肩に構えられているのは、対物ライフル──それも、久賀レンジのスキル"魔導設計"によって生み出された、異世界における一種の“兵器”。
スコープ越しに虚空を睨みながら、レンジは眉をひそめていた。
「お前、何外してんだよレンジ!ああいうデカいモンスターは“経験値”ウマいってのにさぁ!」
隣でしゃがんでいた西條ケイスケが、膝をバンバン叩きながら苛立たしげに言う。
ケイスケは手元の携行端末を操作し、レンジのライフルに魔力充填をかけていた。
“魔力増幅装置”──ケイスケの強化スキルによって、ライフルは通常の三倍以上の威力を誇っていたはずだった。
「弾が反れた?空気抵抗?いやいや、魔導安定化装置も入れてたし……マジで謎なんだけど……」
「謎じゃねえよ、下手くそなんだよお前!」
「うるせぇなぁ!」
二人が口論しているそのすぐ後ろ。
緑の軍服──だが、あちこちに缶バッジやアニメパッチが縫いつけられ、制服の原型をかろうじて保っている──を着たオタク四天王の残り二人が、半ば野営気分でくつろいでいた。
その中央、石田ユウマはしゃがみ込みながら、ふと前方を凝視したまま黙り込んでいる。
「……おーいユウマー、どうした?お前もバカにしていいぞ?レンジの命中率!」
「いや……ちょっと待ってくれ。今、天啓眼使ってる」
そう言って、ユウマはギラリと瞳を光らせた。
「……何だ……? あのデカい犬のモンスター……だけじゃ……ないのか……?」
それを聞いてかきかないでか、後方からキャッキャと笑い声が響いた。
「え~~?マジで外しちゃったの~?レンジくん、うっけるんですけど~!」
トンネルの少し奥、ベルゼリア式軍服を大胆にアレンジしたギャル三人組が、腰に手を当てて笑っていた。
茶髪を緩く巻いたの高崎ミサキは胸元を大胆に開けた制服をゆらゆら揺らし、内田ミオはスカートをミニにしてサイハイソックスを自慢げに見せている。
佐倉サチコは制服の袖をちぎって網タイツに変えたようなセンスでキメている。
「レンジ、ウチらの前でカッコつけたのにさ~、ぜんっぜん当たってなかったし~」
「ヤバくない?てか、そのスコープ、ガチャで出たハズレ品じゃね?(笑)」
「ねー、ユウマくーん?あたしらのこと守ってくれる人、ちゃんと選びたいんだけど~?」
ユウマはスキルを解除し、チラと彼女たちを見たが、苦笑で誤魔化した。
一方で、藤野マコトはというと、その笑い声に完全にやられていた。
「はわ……は、はは、そうだよなぁ!やっぱギャルの笑いは正義……!」
「マコト!落ち着け、鼻の下伸びてるぞ!」
西條ケイスケがツッコミを入れるが、どこかそれすらも“この騒がしさこそ俺たちの現実”といった空気を纏っていた。
藤野とケイスケは、言葉の応酬というより、むしろギャルズに認知されることに全神経を注いでいる。
「くっそ……今度は絶対に当ててやる!どけケイスケ!俺がやる!狙い撃つぜ!!」
「いやいや、今度は俺が撃つ番だろ!何発連続で外す気だよ!」
レンジとケイスケがまた対物ライフルを取り合い始め、ギャルズの笑い声がさらに響く。
石田ユウマはその背で、何かひとり感じ取ったまま、口を閉じた。
(──さっきの違和感……何だ……?)
だが、誰もその予感に耳を貸そうとはしなかった。
彼らにとってこの戦場は、現実ではなく“ゲームのイベント”の延長。
トンネルの奥で待つ“何か”の気配など、まだ遠く、霧の中だった。
◇◆◇
トンネルの遠く、漆黒に包まれたその一点を、石田ユウマはじっと見つめていた。
その瞳はわずかに青白く発光し、虹彩の奥に精密な情報処理のスキャンパターンが浮かび上がっている。
スキル"天啓眼"。
対象の構造、状態、挙動、エネルギー波長すらも解析し、“見えないもの”すら透かし見る特殊視界。
「……今の、弾丸……」
ユウマは小さく呟き、視線を逸らさず眉間に皺を寄せた。
「……外れたんじゃないかも……」
「──誰かに、"止められた"気がする……」
その言葉に、横でダベっていたレンジとケイスケが一瞬だけ固まる。
だが次の瞬間、揃って吹き出した。
「いやいやいやいや、ないないない!」
レンジが爆笑しながら手を振る。
「対物ライフルの弾を受け止めた!? この世界にスタープ◯チナでも来てんのか!?」
「スタプラどころじゃねーよ! スタプラでも無理だわ、あんなスピード!」
ケイスケが肩を揺らしながらツッコミを入れる。
レンジが、今さっき発射した自作の魔導対物ライフルをトントンと軽く叩きながら言う。
「俺とお前でカスタムした魔導ライフルだぞ? 対魔獣用の鉛芯に魔力鋼コーティングで、魔力障壁も物理装甲もぶち抜く仕様。大型のグリュプスすら一撃で爆散するってのに……それを、素手で? なぁ?」
「いるわけねーだろ!!"悟空さ"かよ!?いたら俺、逆に握手してぇわ!」
ケイスケが肩をすくめた。
ユウマは、苦笑する二人の横で、何も返さなかった。
(……本当に、そうか?)
彼の視界には、微かに歪んだ空間の残滓。
音速を超える衝撃が、周囲の空気を瞬間的に圧縮し、撓ませ、熱波を残して消えていった……その“痕跡”が、確かに存在していた。
(俺のスキルでも、弾速を完全に視認するのは無理だ。マッハ3超の弾丸なんて、普通は“見えた”と思う前に消えてる)
(けど、あの痕跡は……何かが、そこに“割って入って”、止めた……)
かすかに、手のひらに汗が滲む。
口元をきゅっと引き結び、眼差しを再び先へと向けた。
(……まさか、偶然じゃない。あれは……意図的に、“守られた”)
その瞬間、視界の端に、わずかな揺らぎが映った。
直線の闇。その奥に、“誰か”が立っていた気がした。
「……あそこに……誰か、いる」
ユウマの小さな声に、レンジとケイスケは再び顔を見合わせた。
「え、まじ? 見間違いじゃなくて?」
「まじで言ってる?」
ユウマは答えず、ただスコープを覗くレンジの手元へ視線をやり、その銃口の先を見据えた。
(この世界には、“俺たちの常識”じゃ計れない存在がいるのかもしれない。だとしたら、俺たちは──)
その予感が、冷たい汗となって、背中を這い上がってくるのを感じながら──
石田ユウマは黙ってその視線を向け続けた。
◇◆◇
トンネルの奥。薄闇が沈殿したその先に、誰もが見えていない“何か”がある気がしていた。
一条雷人は、無言で佇んでいた。
肩にかかる制服の上着、その裾を風がわずかに揺らす。
その下で彼は、帽子のツバを指先で静かになぞりながら、じっと奥を見据えていた。
目の奥に宿るのは、他の誰よりも冷静な光。
「……スレヴェルドの戦いにおいても、久賀の対物ライフルを回避できた魔物など、いなかった。」
低く、感情の波を抑えた声が、周囲の空気を微かに引き締めた。
オタク四天王のメンバーが、一瞬だけ手を止めて、彼の方を見やる。
「……あの大型の犬のような魔物、油断はできないぞ。」
トンネルの先。空間そのものが歪んでいるかのような、見通しの悪いその奥。
その闇の中を、雷人はしばらく観察していた。
「ここからでは、よく見えないが……」
と、彼は少しだけ眉を寄せた。
「……僕にも、石田の言う通りに思える。あそこには、犬型の魔物が二匹、確かにいる。」
間を置いて、さらに言葉を重ねる。
「だが……そのどちらでもない、もう一つの“存在”が……見え隠れしている。」
一瞬、空気が静まり返る。
だが、すぐにそれを破ったのは、久賀レンジのいつもの軽口だった。
「お、おいおい……やめろって一条。なんか、そういうのリアルに怖ぇから!」
「そうだぞー、俺たちのチートスキルで倒せない魔物なんて、いるわけねーだろ!」
西條ケイスケが笑いながら肩をすくめる。
空気を重くしたくない、という意図が滲んでいた。
「ちょっとぉー!カシコの一条がそんな事言うと、マジで怖くなってくるんですけど!大丈夫だってぇー!」
ギャルズの一人、ミサキも場を和ませる様に声を上げる。
けれど、一条雷人はそのやり取りにも頷くことなく、淡々とした調子で返す。
「……根拠のない楽観は、最も愚かな死因の一つだよ。」
三人が一瞬だけ口を噤んだ。
雷人は、帽子を軽く深くかぶり直すと、再びトンネルの先に視線を向ける。
「……どちらにしろ、僕たちが元の世界に帰るには、"この先にあるモノ”が必要だ。」
「……念の為、魔導機兵隊を先行させよう。その上で、いざとなれば──僕たちが出るしかないな。」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
雷人はゆっくりと、まるで迷いなど一度も存在しなかったかのように、トンネルの奥へと歩を進める。
コツ、コツ、と硬い石の床を踏む音が、静かに響く。
後ろで石田ユウマが、一歩、また一歩と続いた。
「……しょ、しょうがねぇな。行くか」
レンジが軽く肩をすくめ、最後にケイスケが呟く。
「ま……まぁ、帰るには進むしかねぇってのは、同感だわ……」
こうして、オタク四天王の4人、ギャルズの3人、そして、ベルゼリア魔導機兵による一個中隊は、暗いトンネルの先──
真祖竜アルドたちのいる、未知なる戦場へと、ゆっくりと進み始めた。
その歩みの奥には、誰もがまだ気づいていない“力”が、ただ静かに──待っていた。
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