真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一

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第五章 魔導帝国ベルゼリア編

第87話 バトル勃発!!アルド、ちょっと怒る。

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……あの一発。


もし俺がここにいなかったら——

 

「……グェルくん、死んでたかもな」

 

低く呟いてから、舌の奥に微かな熱を感じた。

喉の奥が、じり……と焼けるような感覚。怒りだ。

 

対物ライフル。

俺がいた世界でさえ、軍用のそれは扱いが難しく、命を狩るために設計された代物だ。

その弾丸が、音もなくグェルくんの頭部を貫こうとしていたわけだ。

 

俺が立ってなければ、あの子は一瞬で頭蓋骨に穴を開けられて倒れていた。

そう思うと、笑えなかった。

 

グェルくんは今、地面に座り込んだまま、しきりに尻尾を小刻みに揺らしている。

ポメちゃんはその隣で、彼の背を守るように立っているが……あの一撃が彼ら二匹をワンショットツーキル狙いだった事には、まだ気づいていないようだ。

 

「……いきなりぶっ放してくるとか、間違い無く敵、だよね。」

 

足音がした。

 

静かな、けれどやけに重い足音。

トンネルの奥から、規則的なリズムでこちらに近づいてくる。

響きは低く、地面を這うような反響があった。

ずしりずしりと、重金属の塊が揃って歩いてくるような、あの音——

 

……ああ、これは。まさかとは思ったけど。

 

俺の視界の奥、トンネルの暗がりの中から、最初に赤い光点が浮かび上がった。

まるで、誰かの瞳が、暗闇にぎらりと灯るように。

 

そのあとだった。光点が、次から次へと現れた。

二つ、三つ……いや、十……いや、それ以上。

 

……なんか、本当にザクみたいなやつが出てきたんだけど。

 

そこに現れたのは、緑色の軍服に身を包んだ人型兵士たち。

気配が人じゃない。わかる。

 

頭部はフルフェイスの金属製ヘルメットの様な形状で、中央のモノアイが赤く光っている。

全員が無言のまま、脚を揃えてザッ、ザッ、と迫ってくる。

 

その背には、魔導ライフル。

手にした者は、やたら近未来的なフォルムの剣や斧などの近接兵器を携え、全体で一分の隙もないような進軍だった。

 

確かに、『このトンネル、ア・バ◯ア・クーの内部みたいだなぁ』とは思ったけども。

……まさか、本当に小さいモビルスーツ的なヤツが出現するなんてね!(テンション↑↑)

いや、テンション上げてる場合じゃないな。

敵だし。多分。



俺は、トンネルの上部にある柱や配管が歪みかけてるのを見上げた。

人工構造物、地下施設、旧時代の遺物とおぼしきその空間は、どこか懐かしい。

 

(……本当に出てきたよ、小さめのザクみたいなやつが八十体くらい。)

 

笑いは出なかった。

多少のワクワク感はあったけど、ワクワクしてる場合じゃない事は分かる。

 

地面が揺れた。

魔導機兵たちが、最前列で足を止める。

 

それは、戦闘開始の合図のようだった。

 

──八十体の、モノアイの赤い兵士たちが、俺たちを見下ろしていた。



 ◇◆◇



「ねぇ、グェルくん、ポメちゃん」

 

俺は、後ろで震えている二人に、できるだけ穏やかな声で問いかけた。

今すぐ戦闘になるような緊迫感はあったが、まずは情報確認だ。

 

「……あれ、何だか分かる? フォルティア荒野の地下に出現する、野生のザクとか?」

 

自分でも何を言ってるんだと思った。

けど、そうとしか思えなかったのよ。

この圧倒的ザク感!!

緑色のボディに赤のモノアイ!!

先頭に赤いツノつき隊長機がいれば完璧だったね!

いや、そんな事言ってる場合じゃないんだけど。

 

「ざ、ザクって何ですか~……っ!」

 

ポメちゃん、ことポルメレフが、ぶるぶると震えながら、グェルくんの背後にきゅっと身を縮めた。

まあ、そらそう言うよね!ごめんね、混乱させて!

耳も尻尾もぺったんこで、露骨にびびってる。

正直、かわいい。だが、そんな場合じゃあない。

 

「……あれは……魔導帝国ベルゼリアの、魔導機兵隊……っ!?」

 

グェルくんの声はかすれていた。

息も上ずり、肩が上下に揺れている。

瞳が見開かれ、脳内で過去の記憶を必死に引き出しているような顔。

 

「ベルゼリア……? 確か、フォルティア荒野から大分西の方にある国だよね?」

 

俺の問いに、グェルくんは首をガクガクと縦に振る。

 

「そ、そうですッ! ベルゼリアは……“魔導工学”を主軸にした、機械文明国家です……ッ! あんな……正規の魔導機兵部隊がここに現れるなんて……!」

 

(……ベルゼリアねぇ。地図で見た事あるけど、位置的にここから遠すぎる。明らかに、あんな部隊がこんな場所にいるのは、おかしいよな。)



 つーか、他国の魔導兵器だっていうなら、尚更よその領地でいきなり発砲してくるとか、普通に大問題じゃない?

 こっちの法律とかあんま詳しくないけど、明らかに何らかの国際法とかに触れるでしょ。たぶん。



俺は静かに息を吸って、意識を集中させる。

手のひらに魔力を流し込み、魔力探知魔法を起動。

 

——視界の内外に、“気配”が広がる。

 

濃淡、温度、揺らぎ。

周囲半径およそ1キロメートルの空間内にある“生命の火”を、脳が瞬時に認識していく。

 

(……機兵たちからは、反応が……ない)

 

ゼロではない。けど、あまりにも淡く、ノイズにも等しい。つまり——

 

「やっぱり、本当にメカ的な存在……ってわけか」

 

知らず、息が漏れた。

ちょっとワクワクしている自分がいる。

 

あんなに整った隊列、無駄のない動き、人のような武装と装備。

だというのに、中身は“魂を持たぬ人形”。

 

(すごいな……魔法によるゴーレム技術とアンドロイド技術の融合みたいな感じかな。)

 

だが、問題はそれだけじゃない。

 

(……トンネルの奥。あの闇の向こう——)

 

探知の網が、さらなる“火”を捉えた。

 

(生命反応が……八つ。いや……)

 

一瞬、脳がノイズのような違和感を拾った。

八じゃない。もっと微弱な、かすかな灯りが、もうひとつ。

 

(……九つ……?)

 

何だ、これ——人の気配か? でも、異様に薄い。

まるで霧の中の小さな炎みたいに、つかみどころがない。

 

(奥にいるのは……あの機兵たちの指揮官か? それとも別勢力……)

 

額に手を当てる。探知スキルは正常だ。嘘はつかない。

 

(でも、この"9人目"は………ありえない程の気配の薄さ……やっぱ、気のせいか……?)

 

まるで、“そこにいない”かのような存在。

一瞬でも気を抜くと、見失い、その存在すら忘れてしまいそうになる。

 

(……何だ?この違和感──)

 

考えた瞬間、頭の奥にざわりと風が吹いた。

けれど、それが何を意味するのかは、まだ思い出せない。

 

俺はそっと、探知を解除した。

 

「……数で来るなら、こちらもそれなりに応じる必要があるよね」

 

冗談めかして言っても、声にはもう、戦闘前の熱が滲んでいた。

 

ただ一つ。まだ言葉にできない違和感が、背中の奥にじっとりと残る——

その“九つ目”の気配が、何を意味しているのかも分からぬまま。

 

俺は、じっとトンネルの奥を見据えた。



 ◇◆◇



 「──あー……そこのロボット三等兵ども。言葉、通じる?」


 俺はやや語気を強め、目前に迫った機械兵たちへ声を投げた。

 言いながら、じり……と一歩、前に出る。

 対物ライフルでの狙撃を受けた直後だった。

 俺が庇っていなきゃ、グェルくんは今ここにいなかったかもしれない。


 だからこそ、少しだけ声が荒くなった。


 「いきなり対物ライフルぶっ放してくるとか……どういうつもりなの?」


 すると。

 ズズ……と全機が一斉に赤いモノアイを点灯させた。


 《対象ヲ──「魔物」と識別。攻撃ヲ──開始シマス》


 乾いた、無機質な機械音声。

 感情のかけらもない。

 アレクサだって、もう少しハートフルな声色してるよ。

 すぐさま、八十体の魔導機兵が一斉に武器を構えた。

 剣。斧。ライフル。

 それぞれが一分の隙もないフォーメーションで展開し、俺たちを包囲する形で進軍を始める。


 「て、敵襲ですかぁ~っ!?」


 ポメちゃんが声を上げ、ぶるぶる震えながら毛を逆立てた。

 あのふわふわの耳も尻尾も、完全に“警戒モード”に突入してる。


 「こ……攻撃してくるのかッ!」


 グェルくんも即座に前へ出て、ポメちゃんを庇うように身構えた。

 四本の足が地を掴み、体表に雷の光がバチッと弾ける。

 ……うん。2人とも頼もしい。頼もしいんだけど。



 「──ああ、いいよいいよ。2人とも」



 俺は手を軽く振って制した。



 「攻撃してきたのは向こうが先だし、何より……これ、どう見ても生き物じゃないからね。」

 「──なら、俺が壊しちゃっても、問題ないよね」



 声のトーンは落としたけど、その分だけ重さを込める。

 2人が何か言いかける前に、俺は"竜泡"を発動した。

 ふわり、と空中に生まれた大きなシャボン玉が、2人を優しく包み込む。

 魔法の膜は外からの物理干渉と魔力を遮断する、強固な結界。

 完全防御ってわけじゃないけど、まあ、"大罪魔王の奥義クラスの攻撃"でも無ければ、割れる事は無いと思う。

 大罪魔王の一柱であるヴァレンの通常技っぽいヤツも、これで防げたしね。


 「えっ……こ、これ、さっきの泡のやつですか~っ!?」


 ポメちゃんが泡の中でジタバタしてる。


 「あ、アルド坊っちゃん、大丈夫なんですか!?」


 泡の壁越しに響く声が、ほんの少しだけ心に染みた。


 「大丈夫。俺が、やるからさ。中でちょっと見学しててよ」


 笑って言った。……でも、内心はちょっと違う。


 (さっきの狙撃が、また来ないとも限らない。むしろ、こっちが交戦態勢に入った今こそ──撃ってくる可能性がある)


 魔導機兵は無言のまま、動き続けている。

 赤いモノアイの輝きが、どこか怒っているように見えたのは……きっと気のせいじゃない。


 「…………」


 グェルくんは、何も言わずに泡の内側からこちらを見ていた。

 真剣なまなざしだった。

 (……つ、ついに、アルド坊ちゃんの戦う姿を、この目で見れる時がきたぞ……!)

 きっとそんなことを思ってるに違いない。その気迫が伝わってくる。


 よし──なら、少しだけ見せてあげるか。


 俺は、魔導機兵の軍勢へと視線を向けた。

 敵の数、およそ八十。

 精密な隊列。統率の取れた武器構え。

 ゴーレムとアンドロイドの融合体。

 感情の無い殺戮兵器。



 その全てを──圧倒的に、蹴散らす。



 「じゃあ……ちょっとだけ、"お人形遊び"といきますかね。」



 口の端を、少しだけ持ち上げた。



 ◇◆◇



 八十の魔導機兵が、整然と武器を構えたまま待機している。


 その陣形の中心に向かって、俺は──ポケットに両手を突っ込んだまま、のんびりと歩き出した。



 「…………」



 脚取りはゆったりとしたものだった。まるで、森の中を散歩でもしているかのように。


 敵の威圧? 緊迫した空気? 関係無いね。


 魔導機兵たちは、こちらが動いたことで全身の関節を僅かにきしませ、警戒態勢を強める。

 しかし、俺はそんな反応を一瞥するでもなく、真っ直ぐに歩を進めた。


 前列の一体。拳銃型の魔導銃を構えた個体の、すぐ目の前で立ち止まる。


 ──俺と、その機兵との距離は、もう数十センチもない。

 赤いモノアイが、俺の顔を正確に捉えている。

 機兵の金属製の右腕が微かに揺れた。銃口が──俺の額に向けられた。



 「…………」



 俺は、表情を変えずに銃口を見つめた。ただ、じっと。

 ──それだけの、沈黙。

 泡の中では、すでに阿鼻叫喚の騒ぎが起きていた。



 「ひ、ひぃいっっ!!あ、アルドさんっ!!?」



 ポメちゃんが、前足で目を覆って叫び声を上げる。



 「アルド坊ちゃん!! 危ないッ!!」



 グェルくんの叫びが、泡の内側から響いた。


 ──次の瞬間。


 ダァン!


 鋭い銃声が空気を裂いた。

 拳銃から放たれた弾丸が、一直線に俺の顔へと飛んでくる。


 そして──



 「んが。」



 キィィィィンッ!!!

 弾丸が俺の顔面に直撃……した、かに思われたその瞬間。

 銃声にかき消されそうになった高音が、澄んだ鐘のように空間を震わせる。


 ……弾は、止まっていた。


 俺の──上下の歯の間で。



 「…………ふーん。意外と柔らかいんだね。弾丸って。」



 噛んでみた感触を確かめるように、グニグニと顎を動かす。

 口の中で、金属製の弾丸がキャラメルの様に形を歪めていく。

 拳銃を構えていた魔導機兵のモノアイが、一瞬だけ明滅した。

 まるで、混乱しているように。

 でも、それもほんの一瞬のことだった。



 「──ぷっ!」



 軽く息を吐き込む。そして、口の中で咀嚼していた弾丸を口から強烈に──吹き飛ばした。


 バシュッッ!!


 放たれた弾丸は、空気を裂いて一直線に機兵の顔面へ。

 次の瞬間、赤いモノアイが爆ぜた。


 ドォォン!!!


 顔面部が爆発し、金属の破片が四散する。

 火花を撒き散らしながら、機兵はその場で膝をつき、ゆっくりと崩れ落ちた。


 ──動かない。完全に機能停止したらしい。


 「……す、すっごい……」


 泡の中のポメちゃんが、指の間からこっそりこちらを覗いて呟く。

 グェルくんは息を呑んだまま、固まっている。


 数瞬の沈黙。


 そして。


 ズギャアアアアアアアン!!


 全方向から、武器が一斉に構え直された。

 銃。剣。槍。斧。

 魔導機兵たちが、まるでプログラムを書き換えられたかのように、一斉に俺を“排除対象”として認識しなおしたのが分かる。


 ま、当然だよね。


 俺は、右手をポケットから抜いた。

 そして、あたりの魔導機兵たちをぐるりと見渡して──静かに、呟く。



 「……なんかよく分からないけどさ」

 「ウチのおりこうワンちゃんズを撃とうとした、悪い人形は──」

 「──とりあえず、全部ぶっ壊しておこうかな」



 口調は穏やか。

 でも、その声の奥に潜ませたのは、確かな怒り。

 その瞬間、空気の温度が変わった。

 風が止まり、木々がざわめきを失う。

 この“静寂”の正体を、機械人形たちは知らない。

 だが、もうすぐ──嫌でも理解させられることになる。


 俺の、“怒った時のやり方”を。
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