12 / 17
Quest:オークの里
しおりを挟む
「しっかし良い物作ってもらったな。」
アレックがそう言ったのは金砕棒等をドゥーム氏から引き取り数日たった時のことだ。
領都の解放された鍛錬場でランディウスの金砕棒を見ながらアレックはそう言った。
「うん。 ズシリと重いけど、不思議と取り回しが良い。 重量配分が飛びぬけて良いんだ。 凄いよコレ。」
振り上げ、振り下ろし、振り回し。 行動はこの三つだが、目で追いきれないほど高速で回しても体幹がぶれない。
「重量配分っていうか、それ振って体が小動もしないってとんでもねぇな。」
呆れた様な心強いようなそんな声でアレックが言った。
「まぁすっげぇ頼りになるってことで、嬉しいなっと。」
そう結論付けると、アレックもロックバスターを取り出した。
ロックバスターに使われるボルトは2種類ある。 刃の付いた矢じりと付いてない矢じりだ。 ついてない矢じりは先が球状になって言る。 名前の元になった岩砕きは矢じりの無い矢で起こしたものだ。
その刃のないボルトを装填する。 ガチャリと大きな音を立てて装填させると、腰だめに構えた。 狙うのは100mは先にある標的の鎧だ。 ボロい鎧だがフルプレートのその鎧は生半可な攻撃を跳ね返す防御力を持っている。
「ッシィッ!」
超強力なロックバスターは反動も超強力だ。 馬車や架台に取り付けてその衝撃を逃がすなら兎も角、人の身で受けるのならそれなりの覚悟をしなければ受け止められない。
”バゴム”という大きな音が聞こえ、的の方を見てみるとフルプレートの中央に大きな穴が開き後ろの砂山にボルトが突き刺さっていた。
「はぇー。 すっごい。」
思わずそんな声をランディウスが漏らす。 あそこまでの破壊力はロックバスターでなければ出せない。 正確性では弓でも競えるが破壊力は真似できないだろう。
続けてアレックはスティンガーを取り出す。 連射機構の付いたスティンガーは通常のクロスボウと比べて多少大ぶりな物の取り回しは悪くない。 反動はアレックなら片手で撃てるほどで、弦を曳く機構も手早く曳ける。
見る間に的へ幾つものボルトが突き刺さる。
「これなら行けそうだな。 ランディウス。 仕事の話だ。」
◇
「ってことは魔物の里があるってこと?」
いつもの噴水前に戻り依頼の話を聞く。
「そうだ。 この間のゴブリンじゃあないぞ。 オークのだ。」
魔物としてのオークの特徴は生態はゴブリンとあまり変わらないがゴブリンよりも背が高く力が強いこと。 それと無視できない火の魔術を使う個体もいる。 本来であれば火魔法を使う個体も多いが瘴気に侵され狂気に沈んだオークでは魔法を使うことは出来ない。 いくつかの上位種が魔術を使う。
脅威ではあるが依頼を受けたのなら熟さなければならない。
「んじゃ準備しよっかね。 出るのは明日でしょ?」
そうアレックに訪ねるとアレックは頷いた。
「んじゃ、解散!」
そう言ってその場は解散した。
◇
小規模から中規模の集団に対応するためには、圧倒的な火力と奇襲を仕掛けるための小細工が必要だ。 人材豊富な軍隊なら火力も小細工もマンパワーでどうとでもなる。 つまり人の数が重要ということ。
二人しかいないのなら魔導具に頼るしかない。 強化した発火筒とランチャーがあれば構造物を燃やし的確にダメージと相手の気を惹けるだろう。
用意した発火筒に魔導インクで激化の魔導文字を刻む。 森の中に里はあるから延焼が怖いが里の中心に放てば効果的に気を惹けるだろう。
火力は手に持って振り回したり撃ったりするだけでなく、罠もその中に入る。 落し穴は原始的で非常に有効な手だが人手と時間がかかる。 爆雷を埋める埋火なら落し穴ほど労力を支払わなくても仕掛けることができる。 さらに仕掛ける埋火を魔導具にすれば、仕掛ける労力も時間も限りなくゼロに近づけることができる。
先を尖らした竹筒に”潜”の魔導文字を刻み、筒の中に魔導文字の燃料にする魔石粉と一回り小さい青銅筒を入れる。 青銅筒の中には”見”と”爆”の文字を刻んだ青銅芯を仕込み、その周りに青銅で作られた釘や螺子と中挽きの魔石粉を入れれば埋火の完成。
「こんな所かな。」
次に剣を取り出してメンテナンスを開始する。 と言ってもあまりやる事は無い。 魔力を通して最適な状態に戻すだけだ。 弓も金砕棒も取り出し順繰りに魔力を通す。 買ったばかりなこともあり特に修復も起らず終わった。
「そりゃそうだ。」
あまりにも無意味な行動に笑ってしまう。
恐らく自分は今浮かれているんだろう。 そうランディウスは感じた。
◇
「天気は曇天ッ! 襲撃日和だな!」
そう言いながらいつもの噴水前にやってきたアレックが声をかけてきた。
「やな日和だね。」
困ったように笑いながらランディウスが返す。
「まぁ確かに感じは悪いが、晴天の時よりは良いだろ。 ポジティブポジティブ!」
「ネガティブよりは良いか。 で、仕事の内容をお浚いしよう。」
「あぁ。 ある冒険者が西の森で活動中にオークにやられてな。 攫われはしなかったんだが重傷だ。 複数のオークが連携して活動していたこともあり上位種の存在が予想される。」
「厄介だ。」
「全くだ。 近隣の村にさらわれた人がいるという情報は無いが、襲撃の際には一度確かめた方が良いな。」
「最悪腰振ってるオークとご対面? 嫌だねぇ。」
「ま、そうならない為にも早めに行こうぜ。 捕まってるのがいれば早く解放するに越したことはないだろう。」
そんなことを話しながら西門から外に出て森の中を進む。
軟膏タイプの虫よけを露出部に塗るが虫が多い。 虫にとっては有毒な成分を塗っているから虫が近づくことは無いが、それでも気になる。
突然アレックがナイフを取り出し木へと投げつける。
「毒蛇だ。 こういうのにも気を付けないとな。」
虫よけ軟膏は虫にしか効かない。 こういった動物は自分で対処する必要があった。
「しかし、オークを見かけないな。」
ナイフを引き抜くために亜空間に仕舞ったスティンガーを再び出して構えなおしながらアレックがこぼす。
「攫われてるのがいるかもって話、あるかもね。」
「なるべく急ぐか。 こっちだな。」
地面を眺めながらアレックが言う。 オークの痕跡を追っているのだ。
オークの痕跡を追うのはゴブリンのそれを追うより簡単。 体重が重いとか足跡がでかいとかそう言った問題ではなく、オークは縄張りを示すためか木に傷をつけたり意味のない飾りを付けたりするからだ。 その飾りつけ次第で集落の規模が判る。 派手であればあるほど規模が大きく、そして醜悪であればあるほど上位種が多い。
「あったぞ。 オークの”飾りつけ”だ。」
動物の骨を高く積み上げ、その周りに何某かの腸が巻かれているのをアレックが見つけた。 動物の頭蓋骨にはゴブリンの物と思われる皮が貼り付けられ、言いようのない匂いが辺りを包んでいる。
「こりゃまた・・・。 魔物の腸だってのが救いか。」
ホッとしたようにアレックがこぼす。
魔物の里が存在するということは犠牲になる存在がそばにいるということだ。 近隣にある里に被害が出る。 近場にあるのが魔物の里なら問題ないが人間の里なら目も当てられない。 そうでない様に祈るしかない。 縄張り行為に使われている”素材”が人の物でなければ一安心という所。 人間の”素材”を手に入れれば奴らはそれをもとに”飾りつけ”を行うからだ。
「一安心といったところだけど、ここから縄張りなんだろ? 警戒しなきゃね。」
「あぁ、気を付けていこう。」
歩いていくと次第に木に付けられた傷が増えてくる。 多くのオークがこの周辺を歩き回っているようだ。
すると。
「里だ・・・。 オークの里だ。 偵察に出る。 ここで待っててくれ。」
警戒を強めた声でアレックがそう言った。
◇
「最悪だ。 数人捕らわれている奴がいる。 里の中央だ。 男も女もいる。」
ランディウスも絶対に居ないと思うほど楽観的ではなかったが、実際にいると聞くとクルものがある。 目を閉じ上を見上げる。
「助けなきゃ。」
過程はとりあえずやりたいことを口に出す。 話し合いには意思表示が大事だ。
「相手はオークの群れだ。 正面から行って蹴散らすといったって囲まれるし、攫われたのが殺されるかもしれん。」
アレックがネガティブで現実的な予想を立てる。 どんなことが起きるか予測を立ててもらえばそれに対する対応も考えられる。
「なら陽動を仕掛けよう。 中央に固まっているのならこちらから見て反対側の建物に火を放つ。」
発火筒とランチャーを取り出しアレックに見せる。
「火に気を取られて火元にオークが集まったら捕虜を救い出す。 ・・・よし、それでいこう。 俺が中央の建物に隠れて近づく。 ランディウスはここから援護してくれ。」
「任せてくれ。」
そうアレックに答えると、アレックはしゃがみ存在が希薄になる。 ハイディングのスキルだ。
スルスルと建物の入り口まで近づきこちらに手を上げる。
作戦開始だ。
奥の建物を狙い発火筒を投射する。 サイレンサーチップをリムに付けられたランチャーは驚くほど音が鳴らない。 射程距離が短くなるのが玉に瑕だが、打ち出すパワーを上げる魔導文字を刻めば魔石粉がある限り射程は短くなるどころか伸ばすことができる。
パンッと空気の入った袋をつぶしたような音が聞こえると建物に火が降り注ぎ勢い良く燃え始めた。
(もう数棟燃やそう。)
乾いた音が数発響き音ともに建物が燃え上がる。 オークが建物の反対側から出て火元に集まってきた。
建物の入り口で待機するアレックに手を大きく振り合図する。
その合図を見てアレックは建物の中に入っていった。
埋火と弓矢を亜空間から取り出し矢と埋火を粘度と紐で固縛する。
少し待つとアレックが建物の中から出てきた。 血にまみれているが手に持った短剣の事を考えると中に居たオークを処理してきたという所だろうか。 アレックの後ろからは裸同然の男女が5人走ってアレックについてくる。
「来たか!」
弓に矢をつがえる。
「Guooooooooo!」
「バレたか! 急げ! 敵数50ッ!」
敵の数を叫びながらアレックは後続の5人を励ます。
矢を引き絞り放つ。
山なりに飛んだ矢はアレック達の後方の地面に突き刺さった。
”潜”の魔導文字が発動し魔道具が深く地面に突き刺さる。 発動した魔道具が内部の魔石粉を喰い荒らし、中の青銅芯の蓋が閉まる。 回路が繋がり”見”の魔導文字が発動。 爆雷が起動待機状態になった。
それを道を挟むように計5本打ち込む。 最後の1本は中央だ。 爆雷の残弾はまだ5本ある。
「Ga! Goooooo!」
オークが逃げた捕虜を視界にとらえた。 狂相に塗れたオークの顔がさらに怒りに歪む。 怒りをコントロールできない様で、地団駄を踏む。
その怒りの声に気が付いた他のオークが一斉に捕虜たちを追いかけ始めた。
閃光と爆発音が辺りを包む。
最初に追いかけ始めた5匹が爆雷に引っかかった。 激しい爆発は中に仕込んだ釘と螺子を勢いよく飛び立たせ、それでもってオークたちの肉体を削る。 オークの肌は硬く、ナマクラでは傷をつけることすらできないが、爆風に乗った釘や螺子なら話は別。 いともたやすくオークの肌を引き裂き、まるで狼の群れに襲われたかのような傷跡を残した。
「やったな! 正義の勝利だ!」
捕虜たちと走り抜けてきたアレックが興奮しながらランディウスへと話しかける。
振り返り呆けた顔をする捕虜たちに亜空間から革を取り出し渡す。
「裸足じゃキツイでしょ? 足に巻いときなよ。」
「あ、有難うございます・・・。」
捕虜になっていた人達は声をかけても驚きが抜けないようで、何処か呆然とした声で革を受け取った。
三度爆音が響くとオークの数は約半数まで減っていた。
「くそっまだ多いな。」
「ならお替わりいっとこう。」
再び弓を引き絞り爆雷を撒く。 今度は道に沿って撒くのではなくオーク達の周りに撒いた。
「Go! Gaaaaaaa!」
中央にいる一際大きいオークが吼える。
「キ、キングだ! キングが戻っていたんだ!」
捕虜の一人が絶望に塗れた声を出した。
オークキングが手を振るうと周りのオーク達は1匹ずつ連なって走り始めた。
「不味いな。 あれじゃ突破されるぞ。」
「なら最後はコレの出番だね。」
「やっぱコイツに限るな。」
ランディウスが亜空間から金砕棒を引き抜きながら言うとアレックもロックバスターを取り出しながらお道化るように言った。
「オラァッ!」
ドカンと爆ぜるような音と共に刃の無いボルトが飛ぶ。 高速で打ち出されたそれはオークの中心を捉え吹き飛ばした。
「刃付にするか。」
刃の付いたボルトを装填しなおし、再び爆ぜる音を響かせ放つ。 数発はよけられてしまったが、5体倒すことができた。 ロックバスターを収納しスティンガーを取り出した。
「よし、ランディ! 前衛よろしく!」
「うっし、じゃあ行きますか!」
亜空間から金砕棒を引き抜くとヌラリと黒光りした。
「え? でっか・・・。」
金砕棒に映る空と自身の顔を見て思わずと言った感じで捕虜だった女が呟いた。
どんなことであれ自身の武器を評価されるというのは嬉しいものだ。 剣の切れ味とか弓の射程距離だとかボウガンの威力だとか。 ランディウスは自身の口角がニヤリと上がるのを感じた。
こちらへと迫るオークに勢いよく走り寄る。
「Gaaaaaaaa!」
オークはランディウスを両断せんと手に持った大剣を振り上げる。
「ッラァッ!」
走り寄った勢いそのままに金砕棒を振ると、オークが慌てて防御しようと引き寄せた大剣をいともたやすく圧し折りオークの体を”ゴイン”と殴り飛ばした。
オークの体は数mほど上に跳ね上げられ、頭から地面に墜落する。
ピクリとも動かないその体は、その場の時が止まったかのような錯覚を起こさせた。
「う、うおぉぉぉぉぉ!」
捕虜だった男がその様子に雄叫びを上げる。
男にとってオークとは力の象徴のような物だった。 魔物と化して無いオークもそうだが基本的にオークの膂力は他の精霊族や人間に比べて突出している。
男もオークの捕虜になる前に剣を手に取り戦ったが、その圧倒的な力の前に屈したものだった。
そのオークをいともたやすく空へと跳ね上げ斃して見せたランディウスを見た男が興奮し雄叫びを上げたとしても仕方のないことだろう。
「Ga!」
斧を振り上げたオークがランディウスに走り寄るが、走り寄る前にアレックの放ったスティンガーのボルトに斃される。
「急所を狙えば十分斃せるな。 よっしゃこの調子だ! 雑魚は任せとけ!」
「それじゃちょっと頼むよ!」
「おう!」
亜空間から手投矢を取り出しオークキングへと投げつける。
それはオークキングの大斧にいとも簡単に弾かれたがキングの意識を惹くのには十分だったようだ。
「Gurrrraaaaaaaaa!」
キングはいきり立ってランディウスの方へと飛び出し大斧を叩き付ける。
それをランディウスは爪先を軸に回転し避け、その回転を腕に伝えて金砕棒を振り上げる。
金砕棒を紙一重でキングは避けてみせたが、金砕棒に付けられた星がキングを浅く切った。
「Gurrrrrrr・・・Ga!。」
奇策のつもりだろうか、キングは大斧をランディウスへと投げつけるがランディウスはそれを回避する。
その回避した隙を突くようにキングは素早く走り寄りランディウスを掴もうと手を伸ばした。
瘴気の影響もあるがオークの膂力は非常に強い。 魔物のオークは自らの巣を自身の体だけで立てる。 素手で木を圧し折り、柱を大地に突き立て、丸太で壁を作り屋根を伏せる。 それらを可能にする力で掴まれれば簡単に体を引き裂かれてしまうだろう。
「あぁ!」
誰かがそう思わず叫んだ。
ランディウスは金砕棒をこちらに伸ばしてきた腕の側面に添えると渦を巻くように腕に絡める。
さながら鉄で作られた茨の渦と化した金砕棒の星はキングの腕に食い込み、次に引き抜くように動かされた金砕棒は伸ばしてきたキングの腕をズタズタに引き裂いた。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaa!」
その痛みに耐えかねた様にキングは咆哮する。
「貰った!」
その頭に向けて叩き付けるようにランディウスは金砕棒を振り切るとキングの頭は弾け飛んだ。
間欠泉のように首から血が噴き出て辺りを血で浸していく。
その様子をみたオーク達は棒立ちになった。
「お疲れさん!」
最後のオークの首から短剣を抜き取りアレックはランディウスに声をかけた。
「それで最後か。」
「あぁ。 何とかうまくいって良かったぜ。」
一息ついていると捕虜になっていた人達が近づいてきた。
代表者なのだろう女が一歩前に出た。
「あのっ有難うございました! あのままだったら何れ私たちは食べられていたでしょう。 本当にありがとうございました。」
「なに、良いってことよ。 言っちゃあなんだが、偶然だしな。 後でエールでも奢ってくれればいい。」
礼を言う女にアレックがそう返す。
「それでも。 です。 僅かですが証人となって討伐証を発行してもらいます。 後程受け取ってください。」
「ありがとうよ。 遠慮なく頂いておくぜ。」
「んじゃ、帰ろうか。 皆を領都まで送ろう。 ちゃんとした靴じゃなくて悪いけどな。」
「そんなことないですよ。 今の私たちにとっては黄金で出来た靴よりも大切な物ですとも。」
元捕虜たちは安堵の顔を浮かべランディウス達と共に魔物の里を後にした。
アレックがそう言ったのは金砕棒等をドゥーム氏から引き取り数日たった時のことだ。
領都の解放された鍛錬場でランディウスの金砕棒を見ながらアレックはそう言った。
「うん。 ズシリと重いけど、不思議と取り回しが良い。 重量配分が飛びぬけて良いんだ。 凄いよコレ。」
振り上げ、振り下ろし、振り回し。 行動はこの三つだが、目で追いきれないほど高速で回しても体幹がぶれない。
「重量配分っていうか、それ振って体が小動もしないってとんでもねぇな。」
呆れた様な心強いようなそんな声でアレックが言った。
「まぁすっげぇ頼りになるってことで、嬉しいなっと。」
そう結論付けると、アレックもロックバスターを取り出した。
ロックバスターに使われるボルトは2種類ある。 刃の付いた矢じりと付いてない矢じりだ。 ついてない矢じりは先が球状になって言る。 名前の元になった岩砕きは矢じりの無い矢で起こしたものだ。
その刃のないボルトを装填する。 ガチャリと大きな音を立てて装填させると、腰だめに構えた。 狙うのは100mは先にある標的の鎧だ。 ボロい鎧だがフルプレートのその鎧は生半可な攻撃を跳ね返す防御力を持っている。
「ッシィッ!」
超強力なロックバスターは反動も超強力だ。 馬車や架台に取り付けてその衝撃を逃がすなら兎も角、人の身で受けるのならそれなりの覚悟をしなければ受け止められない。
”バゴム”という大きな音が聞こえ、的の方を見てみるとフルプレートの中央に大きな穴が開き後ろの砂山にボルトが突き刺さっていた。
「はぇー。 すっごい。」
思わずそんな声をランディウスが漏らす。 あそこまでの破壊力はロックバスターでなければ出せない。 正確性では弓でも競えるが破壊力は真似できないだろう。
続けてアレックはスティンガーを取り出す。 連射機構の付いたスティンガーは通常のクロスボウと比べて多少大ぶりな物の取り回しは悪くない。 反動はアレックなら片手で撃てるほどで、弦を曳く機構も手早く曳ける。
見る間に的へ幾つものボルトが突き刺さる。
「これなら行けそうだな。 ランディウス。 仕事の話だ。」
◇
「ってことは魔物の里があるってこと?」
いつもの噴水前に戻り依頼の話を聞く。
「そうだ。 この間のゴブリンじゃあないぞ。 オークのだ。」
魔物としてのオークの特徴は生態はゴブリンとあまり変わらないがゴブリンよりも背が高く力が強いこと。 それと無視できない火の魔術を使う個体もいる。 本来であれば火魔法を使う個体も多いが瘴気に侵され狂気に沈んだオークでは魔法を使うことは出来ない。 いくつかの上位種が魔術を使う。
脅威ではあるが依頼を受けたのなら熟さなければならない。
「んじゃ準備しよっかね。 出るのは明日でしょ?」
そうアレックに訪ねるとアレックは頷いた。
「んじゃ、解散!」
そう言ってその場は解散した。
◇
小規模から中規模の集団に対応するためには、圧倒的な火力と奇襲を仕掛けるための小細工が必要だ。 人材豊富な軍隊なら火力も小細工もマンパワーでどうとでもなる。 つまり人の数が重要ということ。
二人しかいないのなら魔導具に頼るしかない。 強化した発火筒とランチャーがあれば構造物を燃やし的確にダメージと相手の気を惹けるだろう。
用意した発火筒に魔導インクで激化の魔導文字を刻む。 森の中に里はあるから延焼が怖いが里の中心に放てば効果的に気を惹けるだろう。
火力は手に持って振り回したり撃ったりするだけでなく、罠もその中に入る。 落し穴は原始的で非常に有効な手だが人手と時間がかかる。 爆雷を埋める埋火なら落し穴ほど労力を支払わなくても仕掛けることができる。 さらに仕掛ける埋火を魔導具にすれば、仕掛ける労力も時間も限りなくゼロに近づけることができる。
先を尖らした竹筒に”潜”の魔導文字を刻み、筒の中に魔導文字の燃料にする魔石粉と一回り小さい青銅筒を入れる。 青銅筒の中には”見”と”爆”の文字を刻んだ青銅芯を仕込み、その周りに青銅で作られた釘や螺子と中挽きの魔石粉を入れれば埋火の完成。
「こんな所かな。」
次に剣を取り出してメンテナンスを開始する。 と言ってもあまりやる事は無い。 魔力を通して最適な状態に戻すだけだ。 弓も金砕棒も取り出し順繰りに魔力を通す。 買ったばかりなこともあり特に修復も起らず終わった。
「そりゃそうだ。」
あまりにも無意味な行動に笑ってしまう。
恐らく自分は今浮かれているんだろう。 そうランディウスは感じた。
◇
「天気は曇天ッ! 襲撃日和だな!」
そう言いながらいつもの噴水前にやってきたアレックが声をかけてきた。
「やな日和だね。」
困ったように笑いながらランディウスが返す。
「まぁ確かに感じは悪いが、晴天の時よりは良いだろ。 ポジティブポジティブ!」
「ネガティブよりは良いか。 で、仕事の内容をお浚いしよう。」
「あぁ。 ある冒険者が西の森で活動中にオークにやられてな。 攫われはしなかったんだが重傷だ。 複数のオークが連携して活動していたこともあり上位種の存在が予想される。」
「厄介だ。」
「全くだ。 近隣の村にさらわれた人がいるという情報は無いが、襲撃の際には一度確かめた方が良いな。」
「最悪腰振ってるオークとご対面? 嫌だねぇ。」
「ま、そうならない為にも早めに行こうぜ。 捕まってるのがいれば早く解放するに越したことはないだろう。」
そんなことを話しながら西門から外に出て森の中を進む。
軟膏タイプの虫よけを露出部に塗るが虫が多い。 虫にとっては有毒な成分を塗っているから虫が近づくことは無いが、それでも気になる。
突然アレックがナイフを取り出し木へと投げつける。
「毒蛇だ。 こういうのにも気を付けないとな。」
虫よけ軟膏は虫にしか効かない。 こういった動物は自分で対処する必要があった。
「しかし、オークを見かけないな。」
ナイフを引き抜くために亜空間に仕舞ったスティンガーを再び出して構えなおしながらアレックがこぼす。
「攫われてるのがいるかもって話、あるかもね。」
「なるべく急ぐか。 こっちだな。」
地面を眺めながらアレックが言う。 オークの痕跡を追っているのだ。
オークの痕跡を追うのはゴブリンのそれを追うより簡単。 体重が重いとか足跡がでかいとかそう言った問題ではなく、オークは縄張りを示すためか木に傷をつけたり意味のない飾りを付けたりするからだ。 その飾りつけ次第で集落の規模が判る。 派手であればあるほど規模が大きく、そして醜悪であればあるほど上位種が多い。
「あったぞ。 オークの”飾りつけ”だ。」
動物の骨を高く積み上げ、その周りに何某かの腸が巻かれているのをアレックが見つけた。 動物の頭蓋骨にはゴブリンの物と思われる皮が貼り付けられ、言いようのない匂いが辺りを包んでいる。
「こりゃまた・・・。 魔物の腸だってのが救いか。」
ホッとしたようにアレックがこぼす。
魔物の里が存在するということは犠牲になる存在がそばにいるということだ。 近隣にある里に被害が出る。 近場にあるのが魔物の里なら問題ないが人間の里なら目も当てられない。 そうでない様に祈るしかない。 縄張り行為に使われている”素材”が人の物でなければ一安心という所。 人間の”素材”を手に入れれば奴らはそれをもとに”飾りつけ”を行うからだ。
「一安心といったところだけど、ここから縄張りなんだろ? 警戒しなきゃね。」
「あぁ、気を付けていこう。」
歩いていくと次第に木に付けられた傷が増えてくる。 多くのオークがこの周辺を歩き回っているようだ。
すると。
「里だ・・・。 オークの里だ。 偵察に出る。 ここで待っててくれ。」
警戒を強めた声でアレックがそう言った。
◇
「最悪だ。 数人捕らわれている奴がいる。 里の中央だ。 男も女もいる。」
ランディウスも絶対に居ないと思うほど楽観的ではなかったが、実際にいると聞くとクルものがある。 目を閉じ上を見上げる。
「助けなきゃ。」
過程はとりあえずやりたいことを口に出す。 話し合いには意思表示が大事だ。
「相手はオークの群れだ。 正面から行って蹴散らすといったって囲まれるし、攫われたのが殺されるかもしれん。」
アレックがネガティブで現実的な予想を立てる。 どんなことが起きるか予測を立ててもらえばそれに対する対応も考えられる。
「なら陽動を仕掛けよう。 中央に固まっているのならこちらから見て反対側の建物に火を放つ。」
発火筒とランチャーを取り出しアレックに見せる。
「火に気を取られて火元にオークが集まったら捕虜を救い出す。 ・・・よし、それでいこう。 俺が中央の建物に隠れて近づく。 ランディウスはここから援護してくれ。」
「任せてくれ。」
そうアレックに答えると、アレックはしゃがみ存在が希薄になる。 ハイディングのスキルだ。
スルスルと建物の入り口まで近づきこちらに手を上げる。
作戦開始だ。
奥の建物を狙い発火筒を投射する。 サイレンサーチップをリムに付けられたランチャーは驚くほど音が鳴らない。 射程距離が短くなるのが玉に瑕だが、打ち出すパワーを上げる魔導文字を刻めば魔石粉がある限り射程は短くなるどころか伸ばすことができる。
パンッと空気の入った袋をつぶしたような音が聞こえると建物に火が降り注ぎ勢い良く燃え始めた。
(もう数棟燃やそう。)
乾いた音が数発響き音ともに建物が燃え上がる。 オークが建物の反対側から出て火元に集まってきた。
建物の入り口で待機するアレックに手を大きく振り合図する。
その合図を見てアレックは建物の中に入っていった。
埋火と弓矢を亜空間から取り出し矢と埋火を粘度と紐で固縛する。
少し待つとアレックが建物の中から出てきた。 血にまみれているが手に持った短剣の事を考えると中に居たオークを処理してきたという所だろうか。 アレックの後ろからは裸同然の男女が5人走ってアレックについてくる。
「来たか!」
弓に矢をつがえる。
「Guooooooooo!」
「バレたか! 急げ! 敵数50ッ!」
敵の数を叫びながらアレックは後続の5人を励ます。
矢を引き絞り放つ。
山なりに飛んだ矢はアレック達の後方の地面に突き刺さった。
”潜”の魔導文字が発動し魔道具が深く地面に突き刺さる。 発動した魔道具が内部の魔石粉を喰い荒らし、中の青銅芯の蓋が閉まる。 回路が繋がり”見”の魔導文字が発動。 爆雷が起動待機状態になった。
それを道を挟むように計5本打ち込む。 最後の1本は中央だ。 爆雷の残弾はまだ5本ある。
「Ga! Goooooo!」
オークが逃げた捕虜を視界にとらえた。 狂相に塗れたオークの顔がさらに怒りに歪む。 怒りをコントロールできない様で、地団駄を踏む。
その怒りの声に気が付いた他のオークが一斉に捕虜たちを追いかけ始めた。
閃光と爆発音が辺りを包む。
最初に追いかけ始めた5匹が爆雷に引っかかった。 激しい爆発は中に仕込んだ釘と螺子を勢いよく飛び立たせ、それでもってオークたちの肉体を削る。 オークの肌は硬く、ナマクラでは傷をつけることすらできないが、爆風に乗った釘や螺子なら話は別。 いともたやすくオークの肌を引き裂き、まるで狼の群れに襲われたかのような傷跡を残した。
「やったな! 正義の勝利だ!」
捕虜たちと走り抜けてきたアレックが興奮しながらランディウスへと話しかける。
振り返り呆けた顔をする捕虜たちに亜空間から革を取り出し渡す。
「裸足じゃキツイでしょ? 足に巻いときなよ。」
「あ、有難うございます・・・。」
捕虜になっていた人達は声をかけても驚きが抜けないようで、何処か呆然とした声で革を受け取った。
三度爆音が響くとオークの数は約半数まで減っていた。
「くそっまだ多いな。」
「ならお替わりいっとこう。」
再び弓を引き絞り爆雷を撒く。 今度は道に沿って撒くのではなくオーク達の周りに撒いた。
「Go! Gaaaaaaa!」
中央にいる一際大きいオークが吼える。
「キ、キングだ! キングが戻っていたんだ!」
捕虜の一人が絶望に塗れた声を出した。
オークキングが手を振るうと周りのオーク達は1匹ずつ連なって走り始めた。
「不味いな。 あれじゃ突破されるぞ。」
「なら最後はコレの出番だね。」
「やっぱコイツに限るな。」
ランディウスが亜空間から金砕棒を引き抜きながら言うとアレックもロックバスターを取り出しながらお道化るように言った。
「オラァッ!」
ドカンと爆ぜるような音と共に刃の無いボルトが飛ぶ。 高速で打ち出されたそれはオークの中心を捉え吹き飛ばした。
「刃付にするか。」
刃の付いたボルトを装填しなおし、再び爆ぜる音を響かせ放つ。 数発はよけられてしまったが、5体倒すことができた。 ロックバスターを収納しスティンガーを取り出した。
「よし、ランディ! 前衛よろしく!」
「うっし、じゃあ行きますか!」
亜空間から金砕棒を引き抜くとヌラリと黒光りした。
「え? でっか・・・。」
金砕棒に映る空と自身の顔を見て思わずと言った感じで捕虜だった女が呟いた。
どんなことであれ自身の武器を評価されるというのは嬉しいものだ。 剣の切れ味とか弓の射程距離だとかボウガンの威力だとか。 ランディウスは自身の口角がニヤリと上がるのを感じた。
こちらへと迫るオークに勢いよく走り寄る。
「Gaaaaaaaa!」
オークはランディウスを両断せんと手に持った大剣を振り上げる。
「ッラァッ!」
走り寄った勢いそのままに金砕棒を振ると、オークが慌てて防御しようと引き寄せた大剣をいともたやすく圧し折りオークの体を”ゴイン”と殴り飛ばした。
オークの体は数mほど上に跳ね上げられ、頭から地面に墜落する。
ピクリとも動かないその体は、その場の時が止まったかのような錯覚を起こさせた。
「う、うおぉぉぉぉぉ!」
捕虜だった男がその様子に雄叫びを上げる。
男にとってオークとは力の象徴のような物だった。 魔物と化して無いオークもそうだが基本的にオークの膂力は他の精霊族や人間に比べて突出している。
男もオークの捕虜になる前に剣を手に取り戦ったが、その圧倒的な力の前に屈したものだった。
そのオークをいともたやすく空へと跳ね上げ斃して見せたランディウスを見た男が興奮し雄叫びを上げたとしても仕方のないことだろう。
「Ga!」
斧を振り上げたオークがランディウスに走り寄るが、走り寄る前にアレックの放ったスティンガーのボルトに斃される。
「急所を狙えば十分斃せるな。 よっしゃこの調子だ! 雑魚は任せとけ!」
「それじゃちょっと頼むよ!」
「おう!」
亜空間から手投矢を取り出しオークキングへと投げつける。
それはオークキングの大斧にいとも簡単に弾かれたがキングの意識を惹くのには十分だったようだ。
「Gurrrraaaaaaaaa!」
キングはいきり立ってランディウスの方へと飛び出し大斧を叩き付ける。
それをランディウスは爪先を軸に回転し避け、その回転を腕に伝えて金砕棒を振り上げる。
金砕棒を紙一重でキングは避けてみせたが、金砕棒に付けられた星がキングを浅く切った。
「Gurrrrrrr・・・Ga!。」
奇策のつもりだろうか、キングは大斧をランディウスへと投げつけるがランディウスはそれを回避する。
その回避した隙を突くようにキングは素早く走り寄りランディウスを掴もうと手を伸ばした。
瘴気の影響もあるがオークの膂力は非常に強い。 魔物のオークは自らの巣を自身の体だけで立てる。 素手で木を圧し折り、柱を大地に突き立て、丸太で壁を作り屋根を伏せる。 それらを可能にする力で掴まれれば簡単に体を引き裂かれてしまうだろう。
「あぁ!」
誰かがそう思わず叫んだ。
ランディウスは金砕棒をこちらに伸ばしてきた腕の側面に添えると渦を巻くように腕に絡める。
さながら鉄で作られた茨の渦と化した金砕棒の星はキングの腕に食い込み、次に引き抜くように動かされた金砕棒は伸ばしてきたキングの腕をズタズタに引き裂いた。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaa!」
その痛みに耐えかねた様にキングは咆哮する。
「貰った!」
その頭に向けて叩き付けるようにランディウスは金砕棒を振り切るとキングの頭は弾け飛んだ。
間欠泉のように首から血が噴き出て辺りを血で浸していく。
その様子をみたオーク達は棒立ちになった。
「お疲れさん!」
最後のオークの首から短剣を抜き取りアレックはランディウスに声をかけた。
「それで最後か。」
「あぁ。 何とかうまくいって良かったぜ。」
一息ついていると捕虜になっていた人達が近づいてきた。
代表者なのだろう女が一歩前に出た。
「あのっ有難うございました! あのままだったら何れ私たちは食べられていたでしょう。 本当にありがとうございました。」
「なに、良いってことよ。 言っちゃあなんだが、偶然だしな。 後でエールでも奢ってくれればいい。」
礼を言う女にアレックがそう返す。
「それでも。 です。 僅かですが証人となって討伐証を発行してもらいます。 後程受け取ってください。」
「ありがとうよ。 遠慮なく頂いておくぜ。」
「んじゃ、帰ろうか。 皆を領都まで送ろう。 ちゃんとした靴じゃなくて悪いけどな。」
「そんなことないですよ。 今の私たちにとっては黄金で出来た靴よりも大切な物ですとも。」
元捕虜たちは安堵の顔を浮かべランディウス達と共に魔物の里を後にした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる