僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――起―――――

■2話「こんな気持ち悪い“僕”じゃ、君に嫌われてしまうから。」①

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2話




【凪碧視点】




 僕の1番昔の記憶は、3歳のときの記憶で。

 あの日僕は、
 父さんと、住宅の敷地内の公園で、
 遊んでいたんだ。





「パパー、なーに?」

「え?
 …ああ、それは、たんぽぽって言うんだよ。」

「たんぽぽ…?たんぽぽ!
 ふわふわ、かわいい!」


僕はそのとき、
初めて見るたんぽぽに、わくわくしていて。

しばらくそれを眺めていると、
少し離れた先に、
たんぽぽがたくさん生えている場所が、見えて。
僕は嬉しくなって、そこへ走っていった。

追いかけようとした父さんは、
そのとき、
人から道を尋ねられていて。

僕は父さんが来ていないことに、
気付かないで、
夢中になって、そこのたんぽぽを摘んだり、
綿毛を触っていたりした。




 そのときだった。







 急に、



   ―――口を、塞がれた。




視界が、急に高くなって、

誰かに抱えられていることを、感じて。


あまりに一瞬のことで、
何が起きているのか、わからなくて。

ビックリして、
掴んでいた、たんぽぽも
落としてしまって。

そのまま、
すごい勢いで、体が揺れて、

見える景色が、
どんどん、変わっていって。



…何が起きているのか。
この腕は、誰のものなのか。
わからなくて、

たまらなく、
怖く、なって。

泣き出してしまいそうだった、




 そのとき、


後ろから、
小さな呻き声が聞こえた。


小さかった僕は、
何が起こっているのか
わからなかったから、
その辺りの記憶は曖昧だけど、

気付けば僕は、その腕から離れていて。


 違う腕に、抱き締められた。


 大きくて、硬くて、
 スッキリした匂いがして。

 …父さんの腕だと、すぐにわかって。

僕は、
すごく、ほっとして、

父さんに抱き付いて、
声を荒げて、泣いた。

父さんは、
僕を、優しく抱き締めて、
頭を撫でて、
「ごめん」と、ずっと、謝った。



 その後。
母さんや、同じ住宅の大人達の話で、

 僕は、連れ去られそうになったんだ、と。
 父さんに道を尋ねていた人も、
 共犯だったらしい、と、知った。

大人達は僕に、
「かわいそう」と同情して、

…「碧くんは、
  “かわいい”から、
  こんな事件に遭ったのかもね」

 と、言った。


それまでもずっと、
「“女の子”みたいにかわいい」と、
色々な人に、言われていて。

僕は、“男の子”なんだけどな、と
思いつつも、
そこまで、気になっていなかった。


…でも、

 この外見のせいで、
 こんな目に遭ったんだ、
と、知って。

…自分の、
 “女”みたいな外見が、
 すごく、
 …怖くなった。



 それから僕は、
外に出ることが、
家族以外の人間が、…怖くなった。
特に、大人の男が、怖くなって。

家族と一緒じゃなければ、
 どこにも行けなくなって、
 誰かと話すことも、できなくなった。

幼稚園でも、怖くて、
母さんに、ずっと一緒にいてもらっていた。





 そして、
 その次の、春。


  僕は、




   …良太に、出会った。

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