僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――起―――――

■3話「どうすれば、あなたの“1番”になれますか?」①ー幼ー

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※今回は、
 幼馴染への異性愛のお話に
 なっています。

 また、
 保健的な内容にも
 触れさせて頂きます。






















3話



【桐谷小春視点】






 昔を思い出そうとすると、
 私は最初に、

 お母さんの、掌の感触が、
 頬に、蘇ってくる。



私のお母さんは、
厳しい人だった。

ジュースをこぼしたり、
ご飯を残したり、
お絵かきをして、はみ出て
床にクレヨンを付けたり、

そんな風に、私が失敗すると、
お母さんは、決まって、

私の頬を、叩いた。



―――「何やってるのよ!」

―――「何でまた
    同じことするのよ!」

―――「あんたって、
    どうしてそんなに
    だめなのよ!」


叩いて、
お母さんはいつも、
私を、怒鳴った。

お母さんは、
いつも、
怒っていて。

いつも、
不機嫌そうな顔を、していて。

私は、
お母さんが、笑うのを、
見たことが、なかった。

手を繋いだり、
抱き締めてもらったりなんて
触れ合いを、
したことが、なかった。

お父さんもいつも、
仕事が忙しくて、家にいなくて。

どこか、家族でお出かけすることも、
なくて。

私は、いつも、
お母さんと、2人で、家にいて、

いつも、
お母さんの手に、ビクビクしていて。

怒らせないようにしなくちゃ
って、思うのに、
いつも、何かしら
やらかしてしまって。

その度に、

やっぱり、
頬を、叩かれて。


私は、
何かする度に、頬に向かってくる、
お母さんの、
手を、見て、



 ―――手は、

    人を、叩くものなんだ


 …と、
 思っていた。






保育園では、
周りの子が、

…羨ましかった。


お迎えが来たら、
「ママ~!」って、
駆け寄って、
抱き付いたり。

「ママのクッキー、
 おいしいんだよ!」、

「にちよう、ママとパパと
 ゆうえんちいったんだよ!」

…って、話したり。

そんな、
嬉しそうな姿を、見て、
私は、
すごく、

…苦しく、なって。



…どうして、

私のママは、
みんなのママみたいに、
…優しく、ないんだろう。


…どうして、

みんなは、
ママから、

…愛されることが、
 できているのだろう。



…いつも、
そんな疑問を、思っていた。





 みんなで、
 ママの似顔絵を描くことになったとき。

みんなは、
にこにこしたママの顔を描いているのに、
私は、
お母さんの、
怒った顔しか、描けなくて。

それを見た子が、

―――「こはるちゃんのママって、

      へんなの~。」

と、
無邪気に言って。

でも、私は、
それに、

…今まで
自分の中にあった
もやが、
噴き出したみたいに、
カーッとなって。


気付けば
私は、


 その子の頬を、

 叩いて、いた。




それから、
お母さんは、
その子のお母さんに怒られて、
謝って。

帰ってから、


私の頬を、



今まで、1番、

強く、
叩いた。





それからの私は、
なんだか、
もう、どうでも良くなって。

お母さんに、
叩かれないようにしようって、

思わなく、なった。











――なんで
  私のママは、変なの?



――なんで
  私は、叩かれるの?



――なんで
  みんなのママは、
  笑ってるの?



なんで?

どうして?



――どうして、
  ママは、



  …こはるのこと、
   きらいなの?




――どうして、
  ママは、





  こはるのこと、


  …すきじゃ、ないの?






ずっと、
色んな疑問が、浮かんできて。

イライラして。

全部、嫌になって。


苦しくて。

私は、
いつも、泣いていた。




誰かと喧嘩したり、
からかわれたり、
イライラしたら、

その子の頬を、
叩くように、なった。


そうしたら私は、
先生に、すごく怒られて。

そして、
その度に、

私は、
お母さんに、
頬を、叩かれていた。






…手は、
 人を叩くものなのに、

 どうして私は、
 怒られるんだろう。




 どうして、
 お母さんは、
 私を叩いて、良くて、


 私は、
 誰も叩いちゃ、
 いけないんだろう。



…なんで、
 私ばっかり。



…私が、





 …だめな子、だから?





私が、

だめだから、



他の人と、
同じことをしちゃ、
いけないのかな。











そうして。
私は、

お母さんから、怒られることが、

みんなから、怒られることが、

お母さんに、

…嫌われて、いることが、


どうしようもなく、

腹が立って、

気に入らなくて、

嫌になって、


…そんな自分が、



 …大嫌い、になった。

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