僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――起―――――

3話「どうすれば、あなたの“1番”になれますか?」⑧ー母ー

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そうしたら、

涙が、
どんどん、流れてきた。

「…え?
 こはるちゃん、どうしたの?」
「わっ。ティッシュ、ティッシュ!」

2人の慌てる声が聞こえて、
ティッシュの箱が目の前に差し出されて。

私は、
私を心配してくれている、2人に、



「……こはる、


  …ママのこと、

   …こわくて…」



 自分の気持ちを、出した。




「ママ…
 いつも…こはるのこと…
 …おこるの……

 …いっつも……
 こはるのほっぺ……
 たたくの……」


「…こはるは……

  …だめなこ、…だ……って…」


「……つぎ…お、…おこられちゃう
 こと…し、たらっ…
 もっ…もう、うっ…ちの…こじゃ…
 ……ないっ……て……
 お、おうち…いれてっ…
 …も、らえなく…っなっちゃ…っ…」


ぼろぼろ涙が溢れて、
しゃくり上がって、
鼻もズルズルで、
ひどい顔だったと思う。


でも、

良ちゃんは、
また、
私の頭を、撫でてくれて。

あっくんは、
私の背中を、撫でてくれた。









 私が落ち着いてくると、


 「……かなしかったね。」

 あっくんが、ぽそりと、言った。


「…ぼくも、
 おかあさんに、
 そんなこといわれたら、

 …すごい、
 ……かなしくなっちゃう…。」

背中を撫でてくれながら、
自分のことみたいに、
悲しそうにした。


そんな、あっくんの言葉に、

…私は、
ずっと、
 …悲しかったんだ

…っていうことを、知った。



「…こはるちゃんのおかあさんって、
 いま、おうちいるの?」

良ちゃんが、話しかけてきて。

「う、うん…。…いる……。」

答えると、
良ちゃんは、立ち上がって。

「…じゃあ、
 おかあさんに、いいにいこう。
 ほっぺ、たたかないで、って。
 おこらないで、って。」

しっかりした声で、言い切って、

私の手を、握った。


「えっ!?
 い、いいよ…!」

私は、
その言葉にビックリして、
…怖くなって、
引いてくる手を、拒んだ。

「…でも、
 もしかしたら、
 こはるちゃんのおかあさん、
 こはるちゃんが…
 かなしいって、
 しらないで、やってるのかも。
 …いっかい、いってみようよ。」

良ちゃんは、それでも、
小さな力で、私の手を引いてきた。

良ちゃんに、
ぶんぶん首を横に振っていると、



 「…ぼくも、
  いっしょにいくから。」


 良ちゃんの、優しい声が、した。


「こはるちゃんが、
 おうち、
 いれてもらえなくなっちゃったら、
 …ぼく、たすけるよ。」

 ギュッと、
 握る手の力が、強くなって。


「…ぼ、ぼくも…いくよ。」

あっくんも、立ち上がって、
私の、
もう片方の手を、握った。

「…いこう、こはるちゃん。」

あっくんが、
少し、声を揺らしながら、
私を見つめて。


私は、

そんな2人の、手に、



キュッと、
胸が、温かくなって。


自然と、

2人に、頷いていた。


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