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―――――承【1】―――――
5話「君は、知らない。」⑰
しおりを挟む「………きりが…」
「…霧?」
「……今、
……キリが、……悪い…から……」
掴む手の力を、
少し、強めて。
「……まだ…
………帰り…たく………ない…。」
段々、
弱くなる声を、紡いだ。
そのまま、
少し、目を合わせていると、
良太の、茶色い瞳が、
フッと、
細くなった。
「…うん。わかった。」
良太は、口角を上げて微笑み、
椅子に、座り直し。
俺、は、
掴んでいた手を、離した。
そして、
昇降口を出ると、
もう日が沈み、
景色は、黒く染まっていた。
「すっかり暗くなっちゃったねー。」
「そうだな…。」
俺達は、
駐輪場へと、並んで歩く。
「大丈夫?ご飯の支度とか。」
「…試験期間は、母さんが作るって…。」
「そっか、なら良かった。
…あっくん、英語わかった?」
「…範囲のところは、
わかった…
かもしれない…ような…気も…」
「…すごい自信ないね…。」
「…お前は大丈夫なのかよ。
……国語、苦手だろ。」
「うーん…
まあ…ノート見て頑張るよ…
…あ。」
歩いていると、良太が声を上げて。
「星が出てる。」
そう言って、空を指をさした。
良太の指をさす先を、見上げると、
黒い空の中に、
小さな星が、散らばっていた。
「…ほんとだ…。」
「綺麗だね。」
良太が、穏やかに笑みを浮かべる。
それを見て、
「…そうだな。」
小さく、相槌を打って。
良太の目を、見たまま。
「………星が、
……綺麗ですね。」
小さく、口を動かした。
「…フフッ。
なんで急に敬語なの。」
良太は
おかしそうに、口角を上げて笑い。
「……星に、敬意を払って……。」
俺、は、
目を横に向けて、つぶやいた。
「何それ。」
良太は、クスクス笑いながら歩いて、
少し離れた先に停めてある、
自分の自転車へ、向かっていった。
その後ろ姿を、見て、
少し、
肩の力が、緩んで。
目を、
地面へ、落とした。
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