僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――転―――――

8話「かわいい子が、好きですか?」⑥

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「つーか凪、
 おめー金持ってんのかよ。」

 将人が、焼きそばのパックを持って、
こちらに戻って来た。

その後ろには、
直己と司が、チョコバナナを
買おうとしているのが見えた。


「…それぐらいの金はある。」

「そうか?
 凪ん家って、金ないイメージあるからよー。
 今日もてっきり、
 服買う金がないから
 制服で来るかと思ったぜー。」

「…それはバカにしすぎだ…。
 だいたい、
 私服でお前と遊んだことあるだろ。」

「はっは!冗談冗談!」

将人が、笑って焼きそばを食べ始め。


 そうして、直己達が戻ってきた。




「あ、そういや。
 私服で思い出したけど、
 凪っていつもリュックだよな。」

俺のしょっているリュックを見ながら、
将人が言う。

「こんな夏祭りでもリュックって、
 女子かよー。」

「…うるさい。」

からかうように言うので、軽く睨んだ。


「そういうのに女子とか関係ないでしょ。
 ちなみに、何入ってるの?」

司が爽やかに言いつつ、俺のリュックを見た。


「…別に、
 普通の物しか入ってないぞ。」

俺は、リュックを前に回し、
チャックを開け、中の物を確認する。


「えっと…
 財布に…ケータイに…
 タオルに…ティッシュに…
 手鏡に…防犯スプレーに…
 前ポケットには防犯ブザー…」


「…
 いや、絶対普通じゃねぇもん入ってるって。
 まず、なんだよ手鏡って。」

将人が、呆れたような顔で見てくる。


「…中学のとき、
 部活で毎回
 口の大きさチェックしてたから、
 つい、そのときの癖で入れちゃうんだ…。」


「…いやいや、入れちゃうなよ…
 荷物になるぜ、それ。」


「防犯系のグッズは、どうしたの?」

司が爽やかに尋ねる。


「世の中物騒だろ。」

俺は即答した。


「でも、
 凪ってなんか武道習ってたよな。
 悪い奴とか倒せねぇの?」


「…将人。
 この世において、
 武力で解決しようとしてはいけない。
 まず、
 そんな状況にならないように
 危険を回避し、
 悪に遭ったら逃げることが
 大事なんだ。」

「お?おお……
 そんな饒舌ってことは、凪にとって
 譲れないポリシーなんだな…。」

「なんでブザーは
 ポケットにしまってるんだ?
 出しといた方が、早く引けるんじゃないか?」

直己が、チョコバナナを食べながら
訊いてくる。


「最初は出してたけど…
 ブザーって、
 すぐに色んな所に引っかかって、
 その度に鳴って…
 近所迷惑になるから、しまうことにした。」

「…なんか…小学校を思い出すね…。」

司は、つぶやいて、
直己からチョコバナナを受け取る。


「あ、それも2人でシェアするんだ。」

良太がそれを見て言った。


「うん。
 僕達もそんなにお金
 あるわけじゃないからね。」


司がチョコバナナを食べ始め、

あっという間に食べ終わった。


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