僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――転―――――

8話「かわいい子が、好きですか?」㉓

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 そうして、練習を進め。

 最後のシーンに差しかかる。





「…僕と、結婚して下さい。」


良太が跪き、見上げてきて。


「…はい。喜んで。」


目が合わないままにセリフを言うと、
良太が、立ち上がり。


そうして、

互いに、詰め寄って。


持っている花束で、顔を隠して。


腰に、手を添えられて。


自分の口元を、手で覆うと、
良太も、自分の口元を隠し。



そして、

良太の手の甲に、
自分の手の甲を当てる。



「きゃー!!」と
大きな声が聞こえながら、

体育館内は暗くなっていき。


最後の照明が消えて。



真っ暗な中、
ナレーターの声が響いた後、

幕が下がった。






 そして、
いつものように、
後ろへ下がろうとして。



 でも、

 良太の手が、
 腰にまだ触れていて、

 下がれなくて。


照明が段々と点いて、
視界がハッキリしていき。


 良太と、
 近い距離で、目が合い。


腰に触れる手は、
離れた。




そして
互いに、後ろに下がり。

幕が上がっていって。


客席にいた大原達に、
いつもより強い音で、拍手される。


「すごーい!
 凪めっちゃ綺麗だった―!」

「ああ。
 演劇部に入ってほしいくらいだな。」


大原が顔をキラキラ輝かせ、
滝も、いつもより
少し楽しそうにしていた。













 そうして、
舞台の上のセットを片付け始め。





「ドレス着ると、すごい
 シンデレラ感が出るね~!」

「ねー!」



ふと、
クラスメイトの女子2人の、
盛り上がる声が、聞こえて。




「なんか、



 女の格好すると
 本当にカップルに見えるね!」



「うん!
 ドラマとかでいそう!」






そんな
楽しそうな声が、





ぼんやりと
耳に入ってきた。


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