僕が”僕”じゃなかったら

パれっと

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 ―――――転―――――

8話「かわいい子が、好きですか?」㊳

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「うわ!?」


              ドタッ








「…え!?
 凪と良太!?
 いたのか!
 電気ぐらいつけろよ~
 めっちゃビックリした~!」



突然開いたドアの音に、

反射的に
握っていた手を振りほどき。



入口へ目を向けると、

直己が、普段通りに
無邪気に笑って、立っていた。



そして、電気がつけられ、
教室が一気に明るくなる。



「…ってか、
 良太どうした?大丈夫か?」


直己は、
尻餅をついている良太に、
不思議そうに声をかけた。



「…あ…大丈夫。
 ちょっと滑った…。」


良太は口角を上げて苦笑いし、
ゆっくり立ち上がる。


「そうなのか…怪我ないか?」

「うん。ありがとう。」

「なら良かった!

 何してたんだ?花束持って。」


訊きながら、直己は
教室の中へ進んでいく。




「…劇の練習。
 直己は?」


俺は、ぼそりと
口をつぶやかせた。


「俺は、
 ジャケットの中に鍵入れてたの
 思い出して、慌てて戻ってきた。」


直己は、衣装箱をがさごそ漁り。

中から黒いジャケットを出して、
ポケットの中の物を取った。


そして、顔を上げ。


「もうすぐライブ始まるけど、
 行かないのか?」


俺達を振り返り、尋ねる。




「うん、

 もうちょっとしたら行こうかな。」



良太が、

さらりと答え。



「りょーかい!じゃ後でな~!」


直己は、元気に手を振って。

 開いていたドアから、
走って出て行った。


タタッという音が、廊下で響き。

どんどん、遠ざかっていくのが、
わかった。





「…直己は、いつでも元気だね。」


穏やかに、言いながら。

良太が、




入口へ、歩いて。




ドアの前に着き。


こっちに、


顔だけ、向けてきた。




「俺達も行こうよ。
 俺、ライブ見たかったんだよね。」




穏やかに笑う、その顔に。




「……りょ…」



思わず、

足が、前へ出て。




合わさっていた目が、



外れ。



良太は、
腕時計へ、目を落とす。




「…あ、
 もう始まっちゃいそう。


 先行ってるね。」



早口に言って。







 教室を出て行った。







タタタ…と


速い足音が、鳴るのが、

聞こえながら。



1人、残り。





さっき感じた、






良太の匂いや、



くっきり映った、



唇の線を、



思い出して。










目を

伏せて





自分の
唇を

指で、なぞった。


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