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 ―――――第2部―――――

3話「君のものに、なりたい。」(51)

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 あっくんが部屋の襖を開けると、

部屋から、
暖かい空気が、流れてくるのを感じ。


いつも、茶色いテーブルが
置かれている、部屋の真ん中に、

布団が敷かれているのが目に入った。



「あれ。布団?」

襖を後ろ手に閉めながら、訊いた。


「……今日、寝坊して…
 布団片付けずにバイト行って…。」


あっくんは答えながら、部屋の壁に
かけてあるハンガーを手に取る。

そのまま、掌を出してきて。

俺は、着ていたパーカーを
脱いで、あっくんに渡した。


「ありがと。」

「…別に…。」


 そこで、ふと、
エアコンが、目に入り。


暖房の、オレンジ色の光が
ついていることに気付いた。


「あっくん、暖房つけてるの?」


「……ああ。
 今日は…
 …薄着だと、寒いと思って…。」


あっくんは、こちらを見ないで、
パーカーをハンガーにかけつつ答える。


「でも、あっくんっていつも、
 部屋の温度が冷蔵庫並みになっても
 暖房つけないで、
 ウインドブレーカー着たりして
 寒さ凌いでるのに…。」

「……今日は…つけたい気分なんだよ…。」

「別に俺、パーカー着てれば寒くないし、
 つけなくても平気だよ?」


そう言うと、
あっくんはチラリと、俺を見て。


「……いいから。」


首を横に振り、
ハンガーを、壁のフックにかけた。



「…あ、俺、布団畳もうか。」


俺は、少し手持ち無沙汰に感じて、
布団の端へ手を伸ばす。



 そのとき。



 カチッと音が鳴り。



 部屋の中が、




 暗い、

 オレンジ色の、薄明かりになった。


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