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 ―――――第3部―――――

5話「自分とじゃ、異質だ。」⑬ー鍋ー

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 そして料理が出来上がって。

テーブルの上に
ご飯をよそった茶碗を並べ。
真ん中に鍋敷きを置いて、
その上に鍋を置いた。


「じゃ、電気消すね。」

全員がテーブルに着くと、
司がリモコンを操作し、
リビングの電気を消す。


「…真っ暗だな…。」
俺は、思わずつぶやいた。

「まあそりゃな。
 じゃ、誰からいく?」

すると、将人のわくわくした声が、
真横から聞こえてくる。

「将人から時計回りでいいんじゃない?」

俺の正面から、司の声と、
鍋の蓋を開ける音がして。

温かい湯気と、
スパイシーなカレーの匂いが
部屋中に濃く広がっていった。


「よっし!じゃあ食うぜ~。」


そうして、ぽちゃっ…と、
おたまからお椀へ流れる音がし。

少しして、ごくっと鳴って。


「うめぇ!」
将人の嬉しそうな声がした。


「なんだった?」
直己のわくわくの声が右から聞こえる。

「まあ、とりあえず
 カレーの味が強いけど…
 こりゃ肉団子だな。」
将人が機嫌良く答えた。

「ああ。それ、俺のだな。」
俺が言った。

「えっ。
 あっくん、もやしじゃないんだ。」

すると良太の声が、遠くから聞こえてきた。

「ああ。
 俺ももやしだとばかり思ってた。」

滝の淡々とした声も、
鍋の向こうから聞こえてくる。

「…まあ…
 最初はそうしようと思ってたけど…
 鍋だったら肉団子の方がいいって、
 母さんに言われて…。」

「そうか…
 凪の母ちゃんナイスだわ…。」

将人が、具を飲み込んだ。


「それじゃ、次俺いくね。」

良太の声と、
ちゃぷっと、汁の入った具材の音が
鳴ってから。


「…あ、餅巾着だ。」
良太がぽつりと言った。


「おっ!それ俺!」
そうしたら、将人が楽しそうに喋り。

「…おでんかよ。」
俺は、思わずつぶやく。

「細かいこと気にすんなよ。
 うまいし、腹たまるだろ?」

「うん。
 カレー味の餅巾着おいしい。」


「じゃあ次は俺だな。」

そして、滝の淡々とした声が続き。

段々と目が慣れてきて、
滝がおたまですくうところが、
ぼんやりと見えた。


「…水餃子だな。」
滝が淡々と言う。

「あっ、それ俺だ!」
すると、直己が明るく話す。

「そうか。うまいな。
 カレー味で。」
滝が淡々と言う。


「…じゃあ……僕か…。」

司が、渋るような声を出し。


「………あ。ウインナーだ。」

その声が、いつものトーンに戻る。


「それ俺の。」
良太の穏やかな声が聞こえた。

「そっか。
 良かった、おいしいよ。
 カレー味のウインナー。」


「んじゃ俺だな~………
 タラか?」
食べて、直己が疑問っぽく言う。


「そう。僕が入れたよ。」
司が爽やかに答えた。

「そうか!
 カレー味のタラ初めてだけど、
 うまいな!」
直己が、嬉しそうに喋る。












 そうして、鍋の中がなくなり。


司が、部屋の電気をつけた。



「うあーチカチカする。」
将人が大げさに目を瞑る。

「うまかったな!闇鍋!」
直己がみんなを見て、明るく笑う。

「そうだね。みんな
 ちゃんとした物持って来てくれて
 良かったよ。」
司が爽やかに笑う。

「そうだね。
 …まあ、だから、
 闇鍋と言うより……」

そこで、
良太がぽつりと、声を落とし。


「……結論として、
 カレーは最高ってことだな。」

滝が、うんうんと頷いた。


「………確かに…
 …なんか、鍋の感想、
 カレー!…って感じだったわ…。」


将人がぼそりとつぶやいて。

俺もそれに、つい頷いていた。


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