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 ―――――第4部―――――

7話「君が、離れないために。」④ー二ー

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 その数日後の、1時間目後の休み時間。


英語の教室へ、いつものように
将人と移動しようと、席へ歩み寄ると。


将人の、
マスクを着けていて気怠そうな
顔が見えた。




「よお凪。はよー。」

将人は俺に気付いて、机の中から
教科書を出しつつ、声をかけてくる。


「はよ…。
 すごい鼻声だな。感冒か?」

「…ああ…
 風邪の医学用語のことか…。
 そうだな。鼻がもうズルズルだ…。」

将人は鼻声で、
ものすごく怠そうに答える。

「今日学校来たのも遅かったよな…
 出欠確認で呼ばれる直前に来て…。」

「おお。
 朝、鼻血出ちまってよー。」

将人が教材を持って、立ち上がった。


「…将人…
 もしかしてそれ…
 体内の血小板が減少して、
 正常な血液凝固が行われなくなって
 出血したんじゃないか…?」


「……
 冬の乾燥とか鼻のかみすぎ疑ってくれよ…。
 なんで真っ先にそれ出てくんだよ…。」


そうやって、将人と並んで歩いていき。

将人が、

少し距離を空けて、
山中の後ろを、通り過ぎて行った。










「……将人。
 どうしたんだ?
 山中に声かけないのか?」

 廊下に出て、
俺は不審に思い、尋ねてみた。


「………ちょー……
 話しかけてぇんだけどよ…。
 俺の風邪移ってほしくねぇなーって。」

すると、
とてもとてもテンションの低い声で、
将人が返す。


「…マスクしてるし、
 別に大丈夫じゃないか?」


「いや、わかんねぇじゃん…。
 だってマスクって、
 隙間空いてるだろ…?」


「ああ…。
 じゃないと、
 お前はとっくに窒息してるな…。」


「だから、この隙間から
 菌が飛ぶんじゃねぇかって、
 不安なんだよ…。

 もし俺が、
 山中さんを苦しめる原因に
 なっちまったら、
 俺は……出家するぜ…?」


「……。
 その理屈で言ったら、俺
 将人に近付きたくないんだけど…。」

「おうおう、なんだよー凪―。
 親友の俺にそんな冷たいこと
 言ってんじゃねぇよー。」

「…なんで急に元気になるんだよ…。」


「…あ。
 てかおめー、
 招待したグループ入れよー。」

そうすると、
将人が思い出したように言った。


「…ああ…
 あの『珍獣遊園地』のやつか…。
 そもそも、あれは
 どういうグループなんだ。」


「え?
 中2んときのメンツで今度行こうって、
 約束したろ?」


「……初耳なんだけど…。」


「いやいや。
 昨日の5限の英語の後、
 凪に話したら
 『りょ』とか言ってただろ。」


「………ああ……。
 それ、完全に寝ぼけて返事したな…。」

「ま。でも、
 男に二言はねぇだろ?」


そう、ニヤニヤ鼻声で言う
将人を、見て。


「…そうだな。」


俺は、頷き。

また前へ、目線を向け。




「……二言は、しない。」



小さく、言葉を、落とした。


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