上 下
302 / 323
 ―――――エピローグ―――――

最終話「僕は、君の半分」③ー店ー

しおりを挟む




 そうして、駅の近くの
ショッピングセンターの3階にある、
手芸用品店に着いた。



「あっくん、手芸屋来たかったんだ?」

訊いてくる良太に、頷き、
中を見ていって。

そして、少し歩いたところで、
目当ての物を見つける。


「……これ、欲しかったんだ。」

「革紐?」

良太は、並んでいる革紐に
目をやり、小さく首をかしげた。

「……学校とか…
 …着けられないとき…あるだろ…。」

ぽつりとつぶやくと、

「ああ、そっか。」

良太は、理解したというように
相槌を打って、
それから、目を細めて微笑む。

「結構カラーがあるね。どれにしようか。」

俺はその良太の声を聞きつつ、
1つ、手に取った。

「……これがいい。」

「え?オレンジ色?」

「………だめか?」

「いや、いいんだけど…
 なんか意外で。
 あっくん、オレンジ色の物
 持ってるイメージないから。」

「…まあ…。
 でも…もう大丈夫だから…」

つぶやき、それを掴んで
レジの方へ足を向ける。

「…これは、俺が買う。」

「え?俺も出すよ。」

「いい。
 …いつも、もらってばっかだし…」

良太の顔を、見上げて。

「……俺も、…なんか、あげたい。」

良太にしか聞こえない、小さな声で
言うと、

良太は、嬉しそうに笑った。








 それから、革紐を買い、
手芸用品店を出て。

足の向きを変えようとしたところで、
通路の奥に、小さな店が見えた。


「……良太。
 あんな所に、店なんてあったか?」

そこを指さすと、
良太は、「ああ」と軽く笑う。

「あそこ、桜の行きつけの雑貨屋だ。
 目立たないから、知る人ぞ知るって
 感じらしいよ。
 俺も行ったことないや。」

「…へえ…。」

俺は行きつけの雑貨屋と聞いて、
スッと、もやしやカレーのキャラが
頭に蘇る。


「……ちょっと、行ってみないか?」

「いいけど…
 あっくんもそういうの好きなんだ?」

「そういうわけじゃないけど…
 …もうすぐ、桜の誕生日だろ。」

「あ、それでか。了解。」

そして俺達は、その店へと歩き出した。







 店に入ると、なかなかに
個性的なキャラの、文房具やぬいぐるみ
などが棚に並んでいた。


「あっくん見て。もやしの
 携帯クリーナーがあったよ。」
良太がクスクスと指さす。

「ああ…ほんとだ。
 …桜は、どんなのが好きだと思う?」

「桜は…猫とかかな…?」


そうやって商品を見て回っていくと、
ふと、先に、

よく知っている、背の高い男が、
目に入る。


「あれ、滝?」

良太が声をかけたら、
振り向いて、滝の顔がこちらを向いた。

「おう、お前ら。奇遇だな。」

滝はモノトーンな装いで、淡々と喋る。

「滝はカレーくんのグッズ買いに?」

「『カレーちゃん太郎』だ。まあな。」

見ると、滝の目の前の棚には
『カレーちゃん太郎』グッズが並んでおり、
滝は丁度、そのノートを手に取っていた。

「…それ…買うのか?」
俺はおずおずと尋ねる。

「良さそうだとは思ってるんだが…。」
滝は真剣に悩んでいる。

「フフッ…
 滝がそれ学校で使ってるの見たら、
 面白くて、授業どころじゃなくなるな。」

おかしそうに笑う良太を見て、
俺も、滝がそのファンシーなノートを、
机の上に広げているところを想像して、

「…ふふっ。」
思わず、笑いが漏れた。


「…ふっ。これはとりま保留だ。
 このメガネケースは買いだな。」

滝が小さく笑いつつ、メガネケースを掴む。

「お前らもなんか買いに来たのか?」

「俺の妹の誕プレ買いに来たんだ。」
良太が答える。

「なるほどな…。それだったら新作の
 『カル美さん』とかいいんじゃないか?」

「…あ、すごい…焼き肉みたい…。
 でも…焼き肉好きだし…喜ぶかも…。」

良太は、滝が指さす物を見て、
複雑そうにつぶやいた。


しおりを挟む

処理中です...