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 ―――――エピローグ―――――

最終話「僕は、君の半分」⑦ー交ー

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 それから少しして、
ガチャっと玄関のドアが開く音が、
家中に響いた。



「ただいま~。
 ……あれっ?」

そして、いつものような
ふんわりした声がして。

開いている襖から、
桜が、顔を覗かせてくる。


「おかえり、桜。」

「…おかえり。」

ベッドの上に
少し距離を空けて座り、
テレビを観ていた俺たちは、
桜へ声をかけた。

「めずらしいね。襖開けてるの。」

中学のジャージを着た桜が、
俺たちを一瞥して、洗面所へ向かう。


「ちょっと空気の入れ替えしてて。」

「ふうん?」

そして洗面所から出て、
自室へ向かおうとする桜を見て。


「…桜。
 ……良かったら、一緒に遊ばないか?」

俺はぽそっと、言葉を向ける。


そうすると桜は、
嬉しそうに、表情を明るくした。


「うんっ!何する?ゲーム?」

そして声を弾ませながら、
俺の隣に腰かける。

「今日は俺、ゲーム機持って来てなくて…。」

「そっかぁ。じゃあトランプとか…
 あっ、絵しりとりする?
 この前友達とやって楽しかったんだ~!
 でも、私が描いたやつは、
 絶対にわかってもらえなかったけど…。」

「ああ…わかる。
 桜も絵、苦手だもんね。」

寂しげに話す桜に、良太が同意する。

「うん。柴犬描いたのに
 西郷隆盛に間違えられちゃった。
 でもお兄ちゃんほどじゃないよ~。
 この前お兄ちゃんが描いたリスなんて、
 冷蔵庫にしか見えなかったもん。」

「えっ。それはさすがに失礼だろ。
 父さんは、『これ白菜?』って
 同じ生物として認識したし。」

俺は、言い合う2人の声を
耳に通しつつ、
2人の描く絵が頭に浮かんできて、

「……ぷっ。…ふふ…。」

思わず笑ってしまった。


「…ふふっ!
 あっくんも賛成そうだし、
 絵しりとりやろっか~!」

「……あ、いや…
 面白そうだとは思うけど、俺の負担が…」

「…そうだ。
 さっき桜の好きなお菓子買ってきたんだ。
 一緒に食べよう。」

すると良太が、思い出したように言う。

「え!ほんと!やったぁ!」

「ちょっと持ってくるね。」

パーッと喜ぶ桜に、
良太はクスクス笑いながら、
部屋を出ていった。




 そして、部屋に桜と2人になり。



「……一緒にお買い物行ったの?」

桜が俺を見て、
面白そうに笑みを浮かべ、訊いてきた。


「……まあ…。」

「ふふっ。そっかぁ。」

ぽそりと答えると、
桜はにこにこと相槌を打ち。

「2人、ほんとにラブラブって感じだね。」

微笑ましげに言った。

「えっ?
 ……い、いや、そんな…」

「ラブラブだよ~。
 なんかすごい、幸せオーラ出てるし。
 …あ!こうゆうときあれだ!
 リア充爆発しろ!って言うんだよね!」

すると桜が、人差し指を立てて
キラキラと言う。

「……桜……
 …そんな風に…思ってたのか…?」

「あはは!冗談冗談!
 …でも、このセリフって、
 結構ひどいこと言ってるよね~。」

「…まあ…遠回しに死ねって言ってる
 ようなものだし…誹謗中傷には当たるな。」

「そうだよね~おちょくるなら
 もうちょっと他のセリフがいいよねー
 ……あ!
 リア充よ、打ち上げ花火になれ!
 とかどうかな?」

「…………印象は…
 きらびやかになったかもしれない…
 …かな…。」

「ほんと!
 もしこれを言うんだったら…
 口説き文句は…」

「お待たせー。」

丁度そのとき、開いた襖から
良太がお菓子の袋を持って、戻ってくる。


「……お兄ちゃん……
 私と一緒に…
 リア充という名の花火を、
 打ち上げないかい…?」

「…え。
 全く理解ができないんだけど、
 どういう流れ?」

「ああ…まあ、ざっくり言うと…
 リア充を新たな夏の風物詩にしたら、
 平和になるかも……的な…?」

「……どういうことなの…。」

「あ!この味初めて見た!
 …ん~!おいしい!」

桜が素早くお菓子の袋を開き、
包装されたそれを口に入れた。

「あっくんもお金出してくれたんだよ。」

「そうなんだ!
 ありがと、あっくん!お兄ちゃん!」

「ああ…。」

「……さて。
 じゃあお兄ちゃん、
 書くもの用意して!」

「え?結局絵しりとりやるの?」

「うん!やりたい!」

「……2人とやったら、
 カオスなことになるって…。」

「大丈夫!
 あっくんなら、私たちへの
 愛の力でわかってくれるって、
 私、信じてるから!」

「……桜、
 謎のプレッシャーかけるの
 やめなよ…。」





それから、夕飯前くらいまで
3人で遊んだ。


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