〜幼馴染みの執着は甘く蕩ける〜私をフッた外交官が、結婚したら毎夜猛愛を貫いてきまして……?

みなつき菫

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五章 パリのデートと七年前のこと

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 懇親会から、ひと月が過ぎた。
 季節は柔らかな春からじめじめした空気がまとわりつく、六月の初旬を迎えていた。

 奏君は、相変わらず忙しい。先日の外相会談のときに比べればそうではないが、今は例のチャリティーイベント……もとい〝チャリティー音楽祭〟の準備に向けて奮闘中だと言っていた。とても力を入れているらしく、私も彼が少しでも安らげる空間を作ってあげたいと私も奮闘している。

 結婚生活も変わりはない。……というより、むしろ彼への気持ちを自覚してから、順調だと言ってもいいかもしれない。前よりも自然と彼からのハグやキスを受け入れられるようになったし、体を繋げれば素直に「もっともっと」と求められるようになった。結婚当初よりも、とても公私ともに充実していると思う。

『もう俺から離れるなよ』

 ふと蘇る、懇親会の夜の奏君の言葉。あれから何度も思い返している。
 正直……まだ、わからないこともあるけれど、今はしっかり奏君を支えて、そばにいたいと思う。
 事が動き出したのは、そんな穏やかな日が続いていた、ある夜このとだった。
 



「え? フランスの在日本大使公邸のパーティー?」


 就寝前、居間でくつろいでいると、奏君からお誘いがあった。


「あぁ、十日後なんだが、できたら楓もパートナーとして一緒に出席してもらえないか?」


 奏君は長年フランス領事館で一等書記官として、日仏関係の現場を支えてきた。その功績と現地で培った信頼関係は高く評価されており、「ぜひ来てほしい」と大使が主催する外交レセプションパーティへ非公式に招待されたそうだ。

 本省で任された新たなポジションは、 今後のEU関連や日仏関係を支えるキーパーソンとしての意味をもっているらしい。出席すれば、今後の関係構築にも繋がるだろう。そして、既婚者であれば、パートナーをこういったパーティーに同伴させるのは通常のことだ。


「もちろん、構わないよ。今は仕事も落ち着いているから、問題ないと思うし。明日部長に話してみる」
「ありがとう」


 私の返事を聞いて、奏君が安堵の笑みを浮かべる。私もふふっと笑みがこぼれる。
 ちなみに、浩太の件についても平穏を取り戻していた。
  噂を聞いた由香の話によると、私たちが去ったあと、浩太は警備員に厳しく注意されている最中に直属の上司に見つかったらしい。そこでさらに厳しく叱られ、すべてを白状させられたそうだ。それ以来、私に近づくことを禁じられ、数日前には地方へ異動させられていった。 正直、このような結果になってしまったのは残念だが、あの時の出来事を思うと、少しだけほっとしている自分もいる。
 奏君に報告したら不敵に笑っていた。

『ほう、それは大変だな。俺は警備員に『妻が元交際相手の絡まれているから引き離すのを手伝って欲しい』としか言ってないのにな~』

なんてニコニコしていて、とちょっとだけ怖かったけれど……


「それと可能だったらでいいんだが、パーティーの前日に渡仏して、ふたりでディナーをしながらのんびり過ごさないか?」


 ここ最近のことを振り返っていると、奏君がまた提案してくれる。
 ぴくんと肩を弾ませた。

 ――パリの夜、ふたりでのんびり⁉

 目を輝かせた私を見て、奏君がクスっと笑う。


「本当は休暇を取ってデートがしたかったが今回は難しそうでな……楓の都合が問題ないなら、少し早めに出て二人の時間を取りたいと考えてるんだが」


 胸の奥がじわりと温かくなる。
 仕事で何度かフランスに訪れた経験はあるが、常に時間に追われていて、美味しいものも観光名所も大して回ったことがない。なにより、いつでも私を思いやってくれる、奏君の気持ちがとても嬉しかった。


「ディナーしたい! ありがとう。忙しいなか、色々考えてくれたんだね」
「最高のレストラン、探しておく」
「なんだか新婚旅行みたい」
「おいおい、新婚旅行はきちんと長期休暇取って行かせてくれ。ゆっくり過ごしたいだろう」


 嬉しくなってついはしゃぐと、奏君が呆れ顔で私の頭に手を乗せた。
 ふたりで笑い合いながら、あーだこーだ意見を出し合って、十日後の詳細を話し合った。
 パーティーの参加は緊張するけれども、奏君とフランス行き。嬉しすぎる……!
 


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