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しおりを挟む冬の寒さが増し十二月下旬に差し掛かるころ。
はじまりは、親友からの思ってもみない依頼からだった。
「はぁ? 婚活パーティーのさくら……?」
最近できた西洋インテリアの揃うオシャレなカフェは、クリスマスの飾りつけが始まったばかりで、赤と金のオーナメントが差す光に揺れていた。そんな華やいだ空気の中で、私――神山みすずは、信じられない依頼を受けた。
「そう! 頼んでた後輩が来られなくなっちゃって……あんたちょうど彼氏もいないし、顔も整っているし、若くもないし、一流企業勤めだし、ちょうどいいのよ!」
昼休みに私を呼び出した親友・大川美希は、食べ終えたランチセットを前に、ド失礼なことを連呼しながら頭を下げた。
十五分前の「たすけてー」のしおらしい電話が、こんな理由だったなんて……私の心中は呆れでいっぱいだ。
「もう、彼氏と何かあったのかと思ったじゃん! 心配して損した」
「損なんて言わないでよー! 慎吾とおんなじくらい大切なことなんだから! 今回、私が初めて主導するイベントなのよ! しかもクリスマスで参加者も多いの!」
「はいはいー」
「ほんとに困ってんだよ~?」
高校からの親友である美希は、大手イベント会社・向坂インターナショナルへ就職し、企業や地域活性化などからの依頼で多くのパーティーやイベントの主催を担当している。それも今回は初めて主導を任されたらしく、いつもに増して気合が入っていたことは、先日の差し飲みで聞いていた。
嘆きながらも、しっかり結婚間近の彼との惚気を口にする美希を視界の端に、テーブルに置いてあったチラシを手に取る。
日付は四日後に迫る、週末のクリスマスイブ。
店内のスピーカーからは、ちょうどクリスマスソングが小さく流れている。
場所は都内のラグジュアリーホテルで、イベント名は『運命の人はここに~ときめきナイト』
……名前、怪しすぎでしょ。
「で、その婚活パーティーでサクラをやる予定だった同僚の後輩が、急遽彼氏との間に『できちゃった』から、代わりにやってほしい、と?」
私たちのような参加側からは知られていないが、そういったイベントの際には盛り上げ役ともなる一組のカップル――サクラ、を彼女の企画する婚活イベントでは手配しているらしい。
男性側はすでに決まっていて、急遽女性のほうがキャンセルになったそうだ。
「そ。悪阻で会社も来れなくなっちゃって」
「他にいるでしょう? 美希の会社、私たちと同年代多いし、可愛い子だっていっぱい……」
「いるけどね、みんな相手がいるの。結婚してたり、恋人いたり。さすがにもう恋人いる子にお願いできないと思わない~? クリスマスって、既婚者も未婚も予定でいっぱいなのよ」
ぐっと口籠る……。確かに。互いに同意していようとも相手がいながらそういったイベントに出るのは世間体というものがあるし、クリスマスは恋人や家族にとって一大イベントである。こんな直前ともなれば、当然だ。
「お相手も私の上司でイケメンだし、なにとぞ! 少しパーティーを楽しんで、ラストに相手役と並んで笑って立っていればいいから!」
口籠った途端、ここぞとばかりにパシン! と両手を合わせ、ぐぐっと詰め寄る親友。
さすが、私の“断れない性分”をよくわかっていらっしゃる。扱い方を心得ているな……?
ふわふわの綿あめみたいなボブヘア。スラリとしたモデルのような体型と美脚。おまけに顔なんて、大きな目がチワワみたいに潤んでいる。
ちょっとだけあざとさを感じつつも、共に地方から上京して仕事に励んできた親友の晴れ舞台。
――はぁ……仕方ない。
「わかった……出てあげる」
私は時計を確認しながら、了承して立ち上がる。
「え?! 本当に?!」
「もう昼休み終わりだし。美希の言うとおり彼氏いないし、若くないし、その日空いてるし。仕方ないから行ってあげる」
若干嫌味を交えつつ、スーツのシワを伸ばし、隣に置いてあった黒革のバッグを肩にかけた。
まるでクリスマス前の奇跡でも起きたかのように、美希はたちまち目を輝かせる。
「ありがとう~!! みすず! ほんと神! 愛してる!」
「じゃ、昼休みもう終わりだから行くね。詳細は今夜電話して?」
「お詫びに奢るから!」と支払いを申し出た親友にお会計をお願いして、私はカフェをあとにした。
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