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しおりを挟む東京での華やかな生活に憧れて、高校卒業してすぐに美希と共に上京し、難関都立大学へ進んだ。
そして早十年。現在二十八歳になる私は、国内でも五本指に入るくらいの大企業と言われる・タケモトホールディングに勤めている。
カフェを出ると、ビジネス街の街路樹にはイルミネーションの設置が進められていて、昼でもどこか年末らしい光景が広がっていた。
肩丈のダークブラウンのストレートヘアーをひとつに束ね、スーツは動きやすさ重視のパンツタイプをいつも着ている。
……と言いつつ、身長百六十八センチの私は、スカートだと短くなりがちで、風貌もクールにみられることから似合わないと思い、避けているのだ
こじんまりとした顔には、切れ長の二重の目と、通った鼻に薄情そうな薄い唇。
美希の言う「整った顔」――というよりは、クールで素っ気ない面立ちというほうがしっくりくる。
恋人もかれこれ三年ぼどおらず、仕事に明け暮れる毎日を送っている。
……まぁ、ちょっとした過去の経験から、恋愛が怖くなっているというのも原因である。
ランチしていたカフェから中央区のビジネス街までは徒歩数分。大通り沿いに太陽の光を反射して煌めく、地上五十八階建ての自社ビルが、私の勤務地――タケモトホールディングだ。
化粧室で軽くメイクを直し、入社六年になる十四階・PR戦略部のドアを潜る。
◇◇◇
「お、やっと戻ってきたか……」
待ちくたびれたような声が、人のまだ少ないフロアの日当たりのいい私のデスクから上がった。
もちろん座っているのは私ではない。
「新、あれ? 出張行ってたんじゃないの?」
二日前から地方の支社に出張していたはずの、同期入社・伊師川 新。
同じ部署に所属する彼は、この部署一の出世頭であり、また最大のライバルでもある。
名前呼びなのは、苗字より呼びやすいと同期の間で浸透しているからだ。
「今帰ってきた。神山に、俺の勇姿を伝えておこうと思ってな」
「また夕方から移動で直帰でしょう? そんな暇あるなら早く帰って休んだほうがいいんじゃない?」
「お前……そこは興味津々になってあげるところだろうがよ……」
いつものように軽口を言い始めた新を押し退け、構わず午後の仕事の手筈を整えた。
そんな私の前に、紙袋がスッと差し出される。
「ゴホンッ……まあ、本当のことを言うとな、ここに寄ったのは、お前に土産置いてこうと思ったからだよ――」
「土産?」
ちょっとだけ声を潜めて近づいてきた端正な面立ち。
後輩たちがきゃあきゃあと騒ぐ、今人気の爽やかな若手俳優に似ているモデル顔負けの顔は、間近で見ると破壊力がすごい。
内心ドキッとしてしまった。
身長は百九十センチ近く。私よりも余裕で高い。気さくで陽気な性格も相まって、部署きってのムードメーカーという存在でもある。
しかし……私にとっては、恋愛が怖くなった根源とも言える、大嫌いな、いけ好かない同期だった。
「土産はわかったけど、それなら別の人に渡してもらってもいい……? 私、今から会議なんだ」
申し訳ないが、せっかくの土産なのだ。今から席を立つ私よりも、休み時間のうちに他の人からみんなに配布してもらった方がだろうと思った。もちろん、彼とこれ以上話していたくない気持ちもあるけれど。
上がった心拍数を隠すように、必要な資料を揃えながら肩を竦める。
「お前あてのだよ。お前が好きな酒のつまみに合う漬物なんだけど……?」
そう言われて、無理やり紙袋を押し付けられる。
力強い腕に、私はどうすることも出来ずに、思わず受け取ってしまった。
――なっ……。
「今夜のあてにでもしろよ? どうせひとりなんだろう? じゃあな~しっかり働けよ~」
疑問を口にする前に、新はとんでもない嫌味を置き土産にして帰っていった。
――……なんでこうも私に構うのよ……あんなことを言っていたくせに。
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