不仲の同期が私の婚活を邪魔しにきた件について!

みなつき菫

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心配しているのだろうけれど、可愛くて前向きな美希は、私にはたまに眩しすぎる。
 
 美希の言ったように、三年前、先輩と深いりする前にうちに別れておいてよかったと思うし、次の恋愛をしたくないわけではない。
 けれど、どうしても三年前の一連の出来事が尾を引いていて、なかなか前向きになれないのだ。

【~~~♪】

 そんなことを思いながら、残りの缶ビールを煽ったとき、話し終えたばかりのスマートフォンがまた着信を刻んだ。

 ――美希、なにか言い忘れかな……?

 私は確認せずにタップしてスマートフォンを耳に当てた。

「もしもし、美希?」

【……あ、いや、伊師川だけど】
「――っ!?」

 何を言い忘れたのかと聞こうとした私の声を遮ったのは、美希とは似つかない……お腹に響くような、少し甘みがかった低い声だった。

 ――な、何で……新っ!?

 距離が出来てからは、内線以外で電話なんてすることはなかった。
 久しぶりの声に、思わず胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
 
 「急に、どうしたの……?」
 
 彼は確か、私に土産を押し付けたあと、また地方出張に向かい、今夜は地方に宿泊しているはずだ。

 私の声は少し震えていた。
 新の低く落ち着いた声も、普段よりも少しだけ緊張を含んでいるように聞こえた。

【いきなり悪い。出先でちょっとトラブルがあって、神山に相談したくて】

 思いがけず真面目な口調で、彼は説明する。

 内容は些細なことだったが、電話越しでも伝わる真剣さに、私はしっかり耳を傾けた。
 
 私たちPR戦略部の仕事は、イベントを通して企業や商品の魅力を伝え、ブランド力や購買意欲を高めることだ。

 メディアやインフルエンサーと連携し、記者発表会やプレスイベントを企画・運営するほか、公式SNSでの情報発信やキャンペーンも手がけている。大変だけど計画がうまくいき、関係者の反応を直接感じられる瞬間が何より楽しい。
 
 そして、新の相談というものは、
 新は担当企画の打ち合わせで地方に出張中だが、相手側の日程変更で、本来明日に帰社する予定が、四日後になってしまったとのことだ。
 その影響で、本来社内対応する予定だった案件を、代わりにやってほしいとのことだった。
 
 新のこうした仕事に対し真面目で真摯なところは好感が持てる。
 三年前にあんなことが無ければ、今だって変わらず良き同期・ライバルとして、そして親友として過ごしていただろう。
 そう思うたびに、新と過ごした時間へ思いを馳せてしまいそうになるが、慌てて留める。
 
 快く引き受けると新は【助かった。ありがとう】と安堵の言葉を吐いた。
 
 私も安心し「じゃあ――」と電話を切ろうとしたところで、電話の向こう側で新が慌てたように口を開いた。

【――と、ところで、神山! ……その四日後のクリスマスイブの夜って、なんか予定あるか……?】

 唐突な、それも、一見仕事とは無関係のように聞こえる質問に、私は目を瞬いた。

 ――い、イブの夜……? なんで、そんなことを私に聞くの……!?
 
 意図が分からず、咄嗟に言葉に詰まる。
  
 同時に、美希の言葉が頭をよぎった。

『――迷惑してるんでしょう? 婚活に専念するから、これ以上構ってくるんじゃないわよ! ってさりげなく意思表示してみるのよ』

 美希の言うように、新が私に気があるとは思わないけれど、
 もしかしたら私が前に進めないのは、あんなことがあったと言うのに、新が他人とは言い切れない、微妙な距離感の延長にいるせいかもしれない。

 私は少し躊躇したあと、思い切って口を開いた。

「……その日は、婚活パーティーに参加するから都内のホテルに行く予定があるけど……?」

 新が電話の向こう側で息を呑むのが伝わってきた。

【は……っ⁉ こ、婚活……⁉】

 一瞬の沈黙のあと、少し動揺したように震える声。
 私は頷いて平然を装い続けた。
 
「そう。私ももういい年だし、思い切って参加してみることにして――」
【ちょっと待て。なんで、いきなり婚活なんて――】
 
「だから、申し訳ないけれど……何か頼みたい仕事があったら、他を当たってもらえるかな? じゃあ――」
【え? おい、神山――!】
 
 言いたいことだけ言った私は、急いで電話を切ってしまった。
 
 予定を聞いてきたのは、仕事関係のことで何かをお願いしたかったのだろう。
 打ち合せはイブの日の夕方頃までかかるかもと言っていたし、新が帰社するのはきっとイブの夜遅く。
 そんな時間に何の仕事を頼みたいんだ? と疑問に思わないでもないけれど、新が私に予定を尋ねる理由なんで仕事しか考えられない。

 よって、すでに美希の頼みを引き受けてしまった私では対応できない。他を当たってもらうしかないのだ。
 
 ……なにより、婚活なんてプライベートなことを話して、また三年前のように、傷つくようなことを言われるんじゃないかって思うと……と怖くなるのだ。
 
 それでも、どうしてだろう……

 電話の向こうで、私が婚活に参加すると聞いた新が、少し焦ったような、もどかしそうな息遣いが聞こえたとき、胸が熱くなったような気がした――
 
 私は心で頭をふりながら、晩酌の片づけをしたのだった。

 
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