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【ああ、懐かしいわね。初デートにヒールにスカートで気合を入れて行ったら、先輩よりも十センチ以上も大きくなっちゃって、相手が自信をなくしてその日のうちにフラれた……忌々しき事件ね】
その夜。電話口の美希が、嫌な過去をはっきり思い出させてきて、がっくりとうなだれる。
――ううっ……なんとも胸が痛い過去……
帰宅後、約束通り私は四日後の婚活パーティーの確認を美希と電話でしていた。
途中から話は脱線し、いつものようにお互いの進捗報告からはじまり、私の唯一の過去の恋愛に至っていた。
美希は、隙あらばこの話に流れ着き、私に次の恋愛を勧めるのが好きだ。
三年前の心の傷が浮き彫りになり、思わずため息がこぼれる。
「……もう、このことはいいから」
初デートは、予定通りとても気合を入れて行った。
だけど、別れ際、先輩は申し訳なさそうに口にしたのだ。
『ごめん……神山さん、やっぱりお付き合いの件、無かったことにしてくれないかな? 俺、今日一日神山さんの隣にいて見上げてばかりで、何か自信なくなっちゃって――』
その日、私は、自分の体形でも着こなしやすいロング丈のAラインのスカートと、少しでも足が綺麗に見えるようにと、高いヒールのブーツをチョイスしていた。
まさかそれが先輩を見下ろす形になってしまうとは、予測していなかった。
まあ、あれだ。これは、新への反抗心から、先輩への気遣いをうっかり忘れてしまった私への罰なのだ。
その後、ほどなくして先輩は地方へ転勤となり気まずい雰囲気は避けられたが、なんとも苦い思い出だ。
『俺は、あいつに先輩とのデートで、可愛い格好とかして欲しくないですね~。考えたくないです』
新の声が蘇る。
あのとき、素直に新の言うことを聞いておけばよかったんだ。
私に似合わないとでも言いたげなあの声は、きっとこうなることを予測していたのだろう。
似合わないだけではなく、こういう事態になって相手を不快にさせることになり兼ねないって。
缶ビールをぐっとあおり、新からもらったお土産の漬物をポリポリと口にする。
――ん、漬物は美味しい……。新っていまだに私の好み、ちゃん覚えているんだよね……。
【でも、そんなちっぽけなプライド大切にする男、早いうちに別れておいてよかったんじゃない? 次の恋愛で傷を癒やせばいいのに、なかなか進まないし……だから、今回誘ったっていうのもあるんだからね?】
美希がフォローしながら、今回のイベントを誘った理由について補足してくる。
若干無理矢理のような気もしたが、彼女の言うことも間違ってはいない。私はこういうことでもない限り、男性と関わりを持つことはないだろう。あの一件以来、仕事以外で男性との関わりをなんとなく避けているから。
彼女の気遣いを受け取り、ひとまず「心配ありがとう」と笑っておく。
【――で、その漬物をくれた、イケメン同期のことは、まだ嫌いなわけ?】
美希は話題を一転し、尋ねてくる。
私はその急な話題変換に、怪訝そうな声が出てしまった。
「何でそんなこと聞くの……?」
美希には先輩とのことはもちろん、新とのこれまでのことも、話していた。
別に新のせいで破局したわけではないが……
あの一言を聞いて以降、それまで同志だと……親友みたいに仲が良かった新から、私はそっと距離を置いてしまった。
なんていうか、心が、今まで通りに接することが出来なかった。
けれども新は、私が距離を置いていることにすぐ気づいただろうに、昼間に社内で土産を渡してきたときみたいに態度を変えずに接してくる。
私が避けるせいで、ふたりで飲みに行くことも、電話をすることも、昼休みに一緒に過ごすことも、会話も自然と減っていったが、彼のほうから距離を取ろうとする様子はなかった。理由はわからないけれど。
それを聞いている美希は、いつも過去の恋愛話のあとは、決まって新の話を持ち出して私をからかうのだ
【だって、みすずはいつも文句ばかり言ってるけど、あからさまに避けられているのに、向こうはずっと変わらず接してくるんでしょう? それも出張の土産買ってくるなんて、絶対気があると思うのよね
「あるわけないでしょう」
やっぱりおかしなことを言う美希に、呆れて肩を竦める。
そもそも、好意があるなら、あんなことを言うはずがない。
まぁ、押し付けられるからといって、つい土産を受け取っちゃった私も私なんだけれど――
【ふふっ……ならさ、彼に週末の婚活パーティーのこと言ってみない?】
「はあ?」
美希のぶっとんだ提案に、呆れておかしな声が出た。
【だって、みすず、迷惑してるんでしょう? 気まずくて距離置きたいんでしょう? なら婚活に専念するから、これ以上構ってくるんじゃないわよ! ってさりげなく意思表示してみるのよ】
「わざわざ、そんなこと――」
確かに、いい加減構うのをやめて欲しい気持ちはある。
でも、話すようなことではないし、服装の件であんなバッサリと私の心を痛めつけ奴だ。
〝構う〟〝構わない〟問題以前に、バカにされそうな気がしてならない。
新にとっての私は、可愛らしい衣装を着た姿を想像したくもないような相手なのだから。
【みすずは本っ当~になんの可能性も考えてないのね……なんだか同期くんが可哀想になってきちゃった】
「? 何言ってるの?」
可哀想って、意味がわからない。
【いーから、反撃するつもりで言ってみようよ~! 私はそのイケメン同期、面白い反応してくれそうな気がするけどなぁ~】
美希は楽しそうにしているが、私はどんどんげんなりしてくる。
「はぁ……言うわけないでしょう、じゃあそろそろ寝るから電話切るよ? おやすみ」
【はいはい~、週末よろしくね! 相手はうちの鶴岡っていう課長なんだけど、ちょっと抜けてるけど顔は良いしお人好しだから! 次の恋愛にでもどうぞ~!】
美希は呆れてため息つく私に構わず、さらりと週末のことを念押してきて(プラス聞いてもない情報まで入れてきて)、そのまま電話を切っていった。
……もう、隙あらば、恋愛させようとしてくるんだから。
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