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第一章 最後の戦い、始まりの戦い
第2話 終末の過ごし方
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トトは毎日俺の所にやってくる。モンスターを倒す事もしないし、助けてくれる事もあまりないのだが、いつも近くにやってきて適当な話題を投げかけてくる。俺はそれに返事をする時もあるし、無視する時もあった。まぁ返事をしない時は大体の場合において死にかけていたり死んでたりする時なのだが。そして、今日も彼女は手頃な話題を投げかけてきた。
「そういえば、イヨ君は最終日も魔王の所に行くんでしょ? どう、ちゃんと倒せそう?」
あくび混じりにトトが言う。
「多分」
「『多分』かー。いつもの『無理』って返事よりは全然良いね。あ、もしかしてイヨ君、最後に何か秘策みたいなのがあったりするの?」
何かを期待しているのだろうか、トトの声が徐々に大きくなっていくのが分かった。
「いや、無い。そんなのあったらとっくに使ってる」
「まぁ……。だよねー」
トトの声がいつもの調子に戻る。いや、いつもより若干低いか?
「俺も色々と試してはみたけどさ、どれもこれもダメだった。結局はレベルを上げるしか方法はないんだと思う」
「イヨ君、いつもそう言ってるよね。じゃあさ、どのくらいレベルを上げれば魔王を倒せるの?」
今度は声色が冷たい気がして、ちらりとトトの方を見てみた。すると、トトの小さな口が『へ』の字を書いている。どうやら何かが気に食わないらしい。
「たしか、二年位前はレベル990の聖騎士の人が結構良い所までいったって聞いたけどーー」
「レベル1300の黒魔道士の人もそう言ってたよ。これは去年の話。イヨ君はそれでもやるの?」
俺が言葉を言い切る前にトトが言葉を被せてきた。トトは怒るというよりは呆れている様子だった。
「やるよ。その為にずっとレベルを上げてきたんだ」
「そっか。――それじゃあ、私も沢山応援するよ。頑張ってねイヨ君!」
トトはそこでやっといつもの柔らかな笑顔を見せてくれた。あれ、そういえばトトは最終日何をしているんだろう。
「トトは最終日なにか予定があるのか?」
俺がそう口に出すと、トトは困ったように腕を組んで悩み始めた。なんだ、何も考えていなかったのか。
「うーん、最後くらいはイヨ君について行こうかなぁ。あ、もちろん一緒には戦わないけどね」
『一緒には戦わない』この部分をやけに強調していた。恐らくこれだけは彼女の中で決まっていた事なのだろう。
「なんでだよ。痛っ!」
トトの悩み顔に気を取られてる内に戦況はかなりマズいことになっていた。ミイラ型のモンスターが20体以上にサソリ型の大型モンスターが5体。それに加えて猪型のモンスターとドラゴン型のモンスターがこちらへ向かってきているのが視界の端に見え隠れしている。いささかモンスターを集め過ぎた感じがあるな。さてさて、この状況をどうするか……。
「だって、もしクリアしたとしてもさ、その日の内にこの世界は消えちゃうんだよ。それなら最後の瞬間はイヨ君とゆっくり思い出に浸りたいかなー。なんて」
俺が守ってるのを良い事にトトは安心しきったように言葉を吐く。いや、俺が守らなくても彼女ならこの程度の問題はすんなり解決するのだろうが。
「なぁトト、お願いがある。ちょっと手伝ってくれないか? 痛たっ、痛たたっ!」
「えー、いやだよ。イヨ君のレベル上げでしょ」
「まぁそうなんだけど、ほら、この状況を見て貰っても分かるように、今、凄く厳しい状況なんだ。ちょっとだけでいいから、な? 助けてくださいトトさん」
「はぁ、イヨ君はまったくー、しょうがないなぁ」
トトはダメダメ少年を甘やかすネコ型ロボットのような声を出しながら立ち上がった。トトが立ち上がり、杖を構えるだけで周囲の温度が幾分上がった気がする。上級モンスターの数体は足を止めて明らかにトトを警戒しているし、俺の首筋には今までとは違った種類の汗が流れ落ちていた。これがトトという、少し変わってはいるがレジェクエ最上位の黒魔導士なのだ。
「ちょっと手伝うだけだよ。勿論お礼もちゃんと貰うからね。そうだなぁ、今回はドーナツ20個かな」
「助かるよ。ありがとう」
俺はトトに背を任せて前方のミイラ型と猪型の相手をする事にした。ドラゴン型の相手はさすがに時間が掛かりそうだし後で二人がかりで倒せば良い。残るサソリ型はというと、トトに任せておけばなんとでもなるはずだ。
「ねぇイヨ君。イヨ君はレジェクエが終わったら他のゲームを始めるの?」
背中側から響く爆発音と共にトトの声が聞こえた。
随分と派手にやってるらしかった。いや、それとも、さすがのトトでもこのエリアのボスモンスターには苦戦するのだろうか。
「いや、その予定はないかな。というか、当分の間はゲームはもういいかな」
「ふーん、なんで?」
「なんでって、もう一生分くらいゲームをやったと思うし、ちょっと休憩するよ」
「そっか、それがいいかもね。でもさ――、」
トトは何かを言いかけたようだった。しかし、そこに続く言葉が発せられる事はなかった。俺も特に聞き返す事はしなかった。
「もし、もしさ、イヨ君が魔王に負けちゃったらさ、私の目に映る最後のイヨ君の姿は『魔王に負けて地面に倒れてる情けないイヨ君』て事になるね」
少ししてトトの笑い混じりの声が聞こえてきた。
背後はだいぶ静かになっていた。俺はまだ半分も倒し終えてないというのに。
「そうならないように頑張るさ。最後くらは良い姿を見せたいし」
「うん、頑張ってよー。――よし、終わった!」
俺はそれを聞いて振り返る。「もう倒し終わったのか?」
いや驚いたね。そりゃあもう綺麗さっぱり片付いていた。
トトを中心として半径数百メートルが焼き尽くされていた。地面には何の丸焼きかも見分けがつかない消し炭と戦いの残火、ただそれだけ。苦労するだろうと思っていたドラゴンの姿も見えなかった。
「いやぁ、さすがだなぁ」
俺は乾いた笑いとともに彼女を見る。
「へへ、まぁね」
決戦は明日の23時30分。
俺は少し減ってしまった自信と共に魔王城へ行く。
「そういえば、イヨ君は最終日も魔王の所に行くんでしょ? どう、ちゃんと倒せそう?」
あくび混じりにトトが言う。
「多分」
「『多分』かー。いつもの『無理』って返事よりは全然良いね。あ、もしかしてイヨ君、最後に何か秘策みたいなのがあったりするの?」
何かを期待しているのだろうか、トトの声が徐々に大きくなっていくのが分かった。
「いや、無い。そんなのあったらとっくに使ってる」
「まぁ……。だよねー」
トトの声がいつもの調子に戻る。いや、いつもより若干低いか?
「俺も色々と試してはみたけどさ、どれもこれもダメだった。結局はレベルを上げるしか方法はないんだと思う」
「イヨ君、いつもそう言ってるよね。じゃあさ、どのくらいレベルを上げれば魔王を倒せるの?」
今度は声色が冷たい気がして、ちらりとトトの方を見てみた。すると、トトの小さな口が『へ』の字を書いている。どうやら何かが気に食わないらしい。
「たしか、二年位前はレベル990の聖騎士の人が結構良い所までいったって聞いたけどーー」
「レベル1300の黒魔道士の人もそう言ってたよ。これは去年の話。イヨ君はそれでもやるの?」
俺が言葉を言い切る前にトトが言葉を被せてきた。トトは怒るというよりは呆れている様子だった。
「やるよ。その為にずっとレベルを上げてきたんだ」
「そっか。――それじゃあ、私も沢山応援するよ。頑張ってねイヨ君!」
トトはそこでやっといつもの柔らかな笑顔を見せてくれた。あれ、そういえばトトは最終日何をしているんだろう。
「トトは最終日なにか予定があるのか?」
俺がそう口に出すと、トトは困ったように腕を組んで悩み始めた。なんだ、何も考えていなかったのか。
「うーん、最後くらいはイヨ君について行こうかなぁ。あ、もちろん一緒には戦わないけどね」
『一緒には戦わない』この部分をやけに強調していた。恐らくこれだけは彼女の中で決まっていた事なのだろう。
「なんでだよ。痛っ!」
トトの悩み顔に気を取られてる内に戦況はかなりマズいことになっていた。ミイラ型のモンスターが20体以上にサソリ型の大型モンスターが5体。それに加えて猪型のモンスターとドラゴン型のモンスターがこちらへ向かってきているのが視界の端に見え隠れしている。いささかモンスターを集め過ぎた感じがあるな。さてさて、この状況をどうするか……。
「だって、もしクリアしたとしてもさ、その日の内にこの世界は消えちゃうんだよ。それなら最後の瞬間はイヨ君とゆっくり思い出に浸りたいかなー。なんて」
俺が守ってるのを良い事にトトは安心しきったように言葉を吐く。いや、俺が守らなくても彼女ならこの程度の問題はすんなり解決するのだろうが。
「なぁトト、お願いがある。ちょっと手伝ってくれないか? 痛たっ、痛たたっ!」
「えー、いやだよ。イヨ君のレベル上げでしょ」
「まぁそうなんだけど、ほら、この状況を見て貰っても分かるように、今、凄く厳しい状況なんだ。ちょっとだけでいいから、な? 助けてくださいトトさん」
「はぁ、イヨ君はまったくー、しょうがないなぁ」
トトはダメダメ少年を甘やかすネコ型ロボットのような声を出しながら立ち上がった。トトが立ち上がり、杖を構えるだけで周囲の温度が幾分上がった気がする。上級モンスターの数体は足を止めて明らかにトトを警戒しているし、俺の首筋には今までとは違った種類の汗が流れ落ちていた。これがトトという、少し変わってはいるがレジェクエ最上位の黒魔導士なのだ。
「ちょっと手伝うだけだよ。勿論お礼もちゃんと貰うからね。そうだなぁ、今回はドーナツ20個かな」
「助かるよ。ありがとう」
俺はトトに背を任せて前方のミイラ型と猪型の相手をする事にした。ドラゴン型の相手はさすがに時間が掛かりそうだし後で二人がかりで倒せば良い。残るサソリ型はというと、トトに任せておけばなんとでもなるはずだ。
「ねぇイヨ君。イヨ君はレジェクエが終わったら他のゲームを始めるの?」
背中側から響く爆発音と共にトトの声が聞こえた。
随分と派手にやってるらしかった。いや、それとも、さすがのトトでもこのエリアのボスモンスターには苦戦するのだろうか。
「いや、その予定はないかな。というか、当分の間はゲームはもういいかな」
「ふーん、なんで?」
「なんでって、もう一生分くらいゲームをやったと思うし、ちょっと休憩するよ」
「そっか、それがいいかもね。でもさ――、」
トトは何かを言いかけたようだった。しかし、そこに続く言葉が発せられる事はなかった。俺も特に聞き返す事はしなかった。
「もし、もしさ、イヨ君が魔王に負けちゃったらさ、私の目に映る最後のイヨ君の姿は『魔王に負けて地面に倒れてる情けないイヨ君』て事になるね」
少ししてトトの笑い混じりの声が聞こえてきた。
背後はだいぶ静かになっていた。俺はまだ半分も倒し終えてないというのに。
「そうならないように頑張るさ。最後くらは良い姿を見せたいし」
「うん、頑張ってよー。――よし、終わった!」
俺はそれを聞いて振り返る。「もう倒し終わったのか?」
いや驚いたね。そりゃあもう綺麗さっぱり片付いていた。
トトを中心として半径数百メートルが焼き尽くされていた。地面には何の丸焼きかも見分けがつかない消し炭と戦いの残火、ただそれだけ。苦労するだろうと思っていたドラゴンの姿も見えなかった。
「いやぁ、さすがだなぁ」
俺は乾いた笑いとともに彼女を見る。
「へへ、まぁね」
決戦は明日の23時30分。
俺は少し減ってしまった自信と共に魔王城へ行く。
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