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第一章 最後の戦い、始まりの戦い

第2話 週末の過ごし方

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『おはよう。起きたよー。今どこにいる?』

 ゲーム内のメッセージを読んで朝だと気付いた午前5時過ぎ。画面の左上には『トトさんがログインしました』というメッセージが表示されている。気付いたら朝、こんな休日を何度繰り返してきたことだろう。

『おはようトト。グレノア砂漠でレベル上げしてる。北の石像近くの、いつもの狩場』

 俺はモンスターを倒す手を止めて返事のメッセージを送った。その時にふとシステム欄のカレンダーに目をやってみると、いつの間にか日付が変わって8月30日の土曜日となっている事に気が付いた。

「そうか、もう30日なのか」

思わずそんな言葉が口から零れる程に、時の流れは速かった。


 それから少しして、パチパチと弾けるような音と共にトトがやってきた。彼女は炎の翼を背中に生やし、晴れやかな笑顔で空を飛んでいた。俺を見つけて「おはよぉ」と気の抜けた声を出してるあたり、本当に起きてすぐだったのだろう。いつも柔らかい印象の彼女なのだが、今日はもうほとんど液体に近い程にへにゃんとしていた。

「おっとっと、おーいイヨ君。今日もやってるね」

 ふわりと地面に着地したトトは凶悪なモンスター達の間をスルスルと器用にすり抜け、俺のすぐ隣にまでやってきた。

「レベル上げは順調?」

「順調」

「それは良かった」

 短く返事をしてからトトに近寄ってくるモンスターを倒していった。トトはトトで戦う気など一切無い様子だった。呑気にその場に座り込み、どこからか取り出してきたドーナツの小袋を開け、どのドーナツから食べてやろうかと嬉しそうに悩んでいる。

「こんな所で良く食べれるな」

 猪型の大型モンスターを斬り倒してからトトに声をかけた。モンスターの死体や血はリアルではないし、時間の経過とともに消滅するのだが、それでもやっぱりスプラッターな光景には違いないと俺は思う。

「何言ってんのイヨ君。そんな小さな事を言ってちゃ本物の勇者になんかなれないよ」

トトはそう言って少し不機嫌そうにドーナツをかじっていた。

「噂だけの勇者なんか別に目指しちゃいない」

「はいはい、イヨ君は魔王を倒せれば、それでぜーんぶいいんだよね。はいはい、分かってますよー」

 トトは会話を切り上げるように手をひらと振った。
俺はそれを見て苦笑いし、お構い無しに次々と襲い来るモンスター達に視線を戻した。

 トトは月並みの言い方だが、綺麗な女性のキャラクターだった。銀色の長い髪に柔らかな顔つき、着ている白いロープの隙間からは細くしなやかな手足が伸びている。このゲームのキャラメイクは自分の容姿をベースにして作成するか、自分で一から作成する事が出来るのだが、トトはどちらなのだろうと俺は随分前から疑問に思っていた。

ーーまぁどっちでもいいんだけどな。彼女の中身が俺より一回り上のおっさんだとしても、気にはしない。トトはトトなのだから。

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