前世は聖女だったらしいのですが、全く覚えていません

夏目

文字の大きさ
34 / 37

神の審判はくだらない

しおりを挟む
 

「肖像画に出てくる人間がいきなり金の髪になったら、未来の人間は革命が起こったと思うんじゃないかな」

 画家が美しい男を描いている。
 まるで黄金を溶かしたような金の髪に、金髪の瞳。
 凛々しく、若々しい彼はやがて剣聖の名をほしいままにする。
 リチャード。それが彼の名前だった。

「前の肖像画は捨てられるのでしょう。俺はそうききましたが」

「勿体無い。父上なんてぶくぶく太ったあの顔を美男子に描いて貰っていたのに」

 はあと、ジルは答えた。十歳の頃だ。
 年と血が近いからと呼ばれた王宮で、ジルはこの王子の相手をさせられていた。
 第六王子。王家にたった一人産まれた金髪の男の子だった。

「髪を金に染めて、王族の色にするなんて馬鹿げたこと、誰が言い出したのだろうね。金粉を髪中にふりたくるなんて、正気の沙汰とは思えない」

 魔王が出現し、民は疲弊の一歩を辿っていた。だが、王都は違った。
 飲めや歌えやの狂瀾が毎夜終わらず、貴族や王族は、庶民との違いを見せつけようとするように分かりやすい絢爛さを求めていた。身を着飾り、使えもしない煌びやかな宝石の嵌め込まれた剣をさした。

 金の髪はその象徴とも言えた。

 だが、そもそも金髪は王族には産まれぬ。
 茶髪や黒髪が多い。肖像画に描かれているのもその色だ。
 だが、王族は画家に金髪に描き直させるという。
 馬鹿馬鹿しい事態だった。

 そもそも、金というのは不吉な一族の証である。
 グレイス家。
 才能と野蛮が手に手を取り合っていきているような、物騒な高位の貴族。
 彼らが持つ禍々しい色だった。

 ジルも、リチャードもそうだった。彼らは輝かしいまでの金髪だった。

「母上がグレイス家に戻った途端にこれだ。呆れるよねえ。全く」

 彼の母親は王国の宝石と呼ばれるほどの美貌を持った女性だった。
 嫌々、国王に嫁いだが、結婚生活が苦痛になり家臣を十五人毒殺した。

 顔を伏せた死体が十五並ぶ食卓に座り、王妃はけろりとした顔をしていた。麗しい笑顔を浮かべて、邪悪に言い放つ。

「妾に従わぬということは、国に仇ということ」

 王家の人間は、王妃となった彼女の残虐さを疎んだ。
 牢に閉じ込め、一人で脱獄してくるのを捕らえ、離宮に押し込め、信者を集めてパーティをする姿に歯噛みした。

 悪の華である。
 邪悪であればあるほど、王妃は血で彩られ綺麗になった。
 それが羨望を煽る。
 金の髪。陶器のような白い肌。すらりとした鹿のような脚。真っ赤なドレスを着て、宝石を纏う姿はどんな淑女より美しい。

 人間には習性がある。模倣だ。
 王妃の美貌に魅入られた彼らは金髪になればかの美貌に近付けると思った。
 だから、髪に金粉をのせた。
 滑稽だと笑われなかったのは彼らが王族だったからだ。

 ジル自身も、金髪を持つ。グレイス家の遠縁だ。
 だがリチャードは本家の人間。
 行動も言動もグレイス家そのものだった。
 グレイス家の人間は天才である。
 これは月と太陽がのぼるように決まりきったことだった。


「王都は退屈だ。兄上達は僕が毒を飲ませたらのたうち回って命乞いしてきたし、姉上達は三人ぐらい心が壊れてしまった。母上、僕もグレイスに連れて帰ってくれれば良かったのに」

 リチャードにとって、家族は家族ではなかった。
 グレイス家の人間はいつもそうだった。彼らは王国全土を見ても類を見ないほどの極悪人どもだ。驕り高ぶり、自分の上の人間など一人もいないと思っていた。
 頭のなかの王様。
 古く強大な魔法使いがそうであるように、現実世界を簡単に捻じ曲げることができるのだ。
 力を持ち、知恵を持ち、悪辣で良心の呵責がない。
 怪物。倫理観のない獣。蔑称も笑い飛ばす。

 人を人として見ていないから、笑って傷付けられる。
 ジルにとっては信じられない化物だった。同じ血が通っているとは思えぬ。
 モナーク神の慈愛でも救えない。

「母上がグレイスに帰っても、父上は離婚できないから僕は王子のままだし。王子って大変なんだよ、ジル。信じられる? メイドや使用人を十何人実験に使ってやっただけで、鞭打ちの折檻だ」

「……よくそれだけですみましたね」

「何を言うんだ。過剰でしょ? 僕は別に好きでメイド達の頭を繋げて怪物にしたり、足をくっつけて歩けなくしたわけじゃないんだよ。悪意がないことなのに」

 グレイス家は魔王に近付けさせてはならない。
 なぜならば、彼らこそもっとも魔王に近いからだ。
 ジルを導いた宣教師はよくそう言っていた。

 そんな彼が魔王を倒した六英雄の一人になったのは魔獣の実験をいくらでもしていいと許可が出たからだった。
 様々な交流、諍い、殺し合いを経て、リチャードは「ドロシー。君にはリチャードと呼ぶことを許すよ。恩にきてね」と気を許すようなことを言っていた。

 グレイス家の人間が名前を呼び捨てにしていいといったのはあとにも先にもこの一回しかきいたことがなかった。

「そうだ、ジル。君に教えておいてあげるよ。グレイス家の見分け方」

「はあ」

「簡単なんだ。ああ、斬り伏せるなんて野蛮な方法じゃないよ? 僕だって、流石にところ構わず人を殺していくわけじゃない」

 この手の冗句を、リチャードはよく口にした。

「髭を見ればいいんだよ。頭は金に染められても、口元はすぐに色がとれる」

 男限定の見極め方ではないかと正直に伝えると、リチャードはまたケラケラ笑った。

「ご婦人は服を脱がせないと確認できないもの」


 この男がドロシーを裏切り、彼女を処刑台にあげた。
 ジルはこの天才を斬り伏せた。
 リチャードは最期まで裏切った理由を話さなかった。高笑いとともに消えていった。
 手を汚し、聖職者にも、貴族にも手をかけた。
 マントを血で汚し、剣で斬り伏せてきた。
 けれど、ドロシーは蘇らなかった。




 ■■■


 ジルが、ドロシーを見下ろしていた。
 恐怖に息が詰まる。彼は、ドロシーを探るように見つめて、ふいっと顔を背けた。
 ロズウェルの背中が見える。
 背中の痛みがじくじくと疼く。ロズウェルに鞭を打たれたあと、というわけか。
 立ち上がる。

 ……やるしかないんだ。

 薬師の家に向かった。シャイロックに会うために。


「え?」

 確かに、ドロシーは薬師の家に向かった。順路だってドロシーの体感では一日も経っていないことだ。間違いなど、ないはずだ。
 どこにも、家がない。
 家があったはずの場所は更地になっている。
 ここに、確かに家があったはずなのに。
 辺りを走り回る。どこかに移動した?
 でも、どこに。

 通行人を呼び止めて、薬師はどこかと尋ねる。紳士はぼろきれのようなドロシーを嫌悪感に満ちた顔で見やったが答えてくれた。

「薬師は錬金術師の先生が煎じてくれているだろう。金がないと売ってはくれないぞ」

 呆然とするドロシーをしり目に紳士は去っていく。

 ――先生? でも、薬師は?

 私も孤児だったと、打ち明けてくれた彼はどこにいったのだ。
 ドロシーは立ち止まりそうになった足に鞭をうつ。
 薬師の先生がいなくてもシャイロックの足取りならわかっている。
 馬車乗り場に向かった。

「黄金の鞄を持った薬師先生?」

「そうです。乗せませんでしたか」

「ううん。覚えがねえな」

 モンターと呼ばれていた御者は何度も首を振った。

「そんな奴いたら誰にだって自慢してらァ。でも、本当に記憶はねえな」

「ほかの御者の方が乗せたということは聞きませんでしたか」

「さてね。おれは聞いたことねェなあ」

「そんな」

 薬師の家がなくなった、だけだと思っていた。
 だが、もしかしてシャイロックはこの街自体にいないのだろうか。
 西の街を出て追いかけても、いるのだろうか。

「あの、モルテナントに連れて行ってもらうにはいくらかかりますか」

「モルテナント? なんだってあんなところに。そもそも、一週間は無理だよ。街道に魔獣が出たって話でな。あっちに向かう道は封鎖されてんのさァ」

「魔獣……」

 なんで。さっきの世界では封鎖はされなかったはずだ。


 ……ああ。そうか。また、変わったのか。

 ドロシーを残して、世界ががらりと変わる。まるで誰かの意思が介在しているように、ドロシーにとって悪い方、悪い方に動いていく。
 だらりと脱力したドロシーを見て、モンターは慌てた。

「封鎖がとかれたら、おれが乗せていってやらァ」

「いえ」

 それじゃあ、間に合わない。オズは……。とぼとぼと馬車乗り場をあとにする。
 だめだ。諦めるな。シャイロックはまだこの街にいるかもしれない。
 探し回れば、見つかるかも。
 かすかな希望を握りしめて、街中を走り回る。シャイロックを見つければすべて解決する。
 だから、捨てるわけにはいかなかった。



「どこにいるの」

 夜が深まっていく。星屑の煌めきが憎らしい。
 一日中探し回っても、シャイロックは見つからない。
 酒場や宿屋を手当たり次第に聞いて回ったが、黄金の鞄を持った男を誰も知らなかった。
 あんなに目立つ鞄を持っているのに誰も見た人間がいない。

 シャイロックは西の街にいないのかもしれない。
 そもそも、この街に立ち寄ってすらいないのかも。
 だが、ドロシーには今行き来を封鎖されているモルテナントにシャイロックが行くということしか分からない。

 オズが死ぬまで、日がない。オズは王都への道が封鎖されているから、今年の受験をあきらめるはず。ならば、西の街を出て殺されることはないはず。
 落ち着け。シャイロックはいなくても、オズが死なないように立ち回ればいいのだ。
 シャイロックを探していたのは、オズを助けるためだ。

 ――でも、オズは。

 黙れ。お願いだから、黙って。
 こんなことに意味があるのかと冷徹に指摘する自分自身を消したい。
 必要なのは、ドロシーの気持ちじゃない。オズの命だ。
 孤児院に急ぐ。途中で、孤児院の厨房に寄った。
 もう、誰もいなかった。仕込みも終わって、明かりもついていない。

 大丈夫。大丈夫だ。ドロシーならば、やり遂げられる。

 真っ暗闇のなかでそれを握りしめる。
 石で、ロズウェルを殴り倒したことを思い出す。孤児は何をするか、わからない。
 そういわれて生きてきた。親がいないから、躾がなっていない。
 でも、王女の名前を与えられた女だって、人を殺す。
 誰だって人殺しになり得る。無慈悲になる。
 愛されたことがないから、何だというのか。人が持っているのは、慈愛じゃない。攻撃性や嗜虐心といわれるものだろう。

 慈愛と審判の神であるモナークがドロシーを裁けるなら、正しく、正当に裁いてみればいい。
 ドロシーは走り出した。
 神の審判は降らなかった。



「こんばんは、ジュダ様」

 見回りに出ようとしていたジュダに声をかける。彼は外套を羽織り、深くフードをかぶっていた。

「……このような夜に出歩くなど淑女のすることではない」

「それをおっしゃるならば、ジュダ様こそ、紳士が夜遊びですか」

「愚弄するつもりか」

「いいえ。……見回りをされるのですよね。魔女や魔法使いがいないか探るために」

 やっと、ジュダがドロシーをしっかりと見た。

「ドロシー。孤児の一人か」

「お名前を憶えていただいて嬉しいです」

「どうしてそのことを知っている」

「どうして? 大切なのは、私が見回りの意味を知っていることではないですか」

 きちんとジュダと話したのは初めてだった。シャイロックが殺したときは、受け答えはシャイロックがしていた。
 美しい神父が持つ威圧感に舌が縺れる。
 臆病を感じさせないように強がるだけで精一杯だった。

「ジュダ様、見回りをおやめになったらいかがですか。どれだけ魔女や魔法使いを見つけたところで、ジュダ様は、異端審問官ではないはずですよね」

「異端審問官ではなくとも、異端を炙り出すのは神父の役目だ」

「聖具には欠陥があります。貴方だって分かっていらっしゃるのではないですか。あれは、魔力に反応するだけ。実際に魔法使いや魔女を指し示すわけじゃない」

 だからこそ、ジュダは間違ってお針子達を殺したはずだ。
 ジュダに魔法使いや魔女を見定める力はない。
 ……あれ。

「その欠陥をなぜ孤児であるお前が知っている」

「え? ……あ。それは」

 前にもこの違和感を抱いた。
 ジュダは、最初にオズを殺した異端審問官もどきだったはずだ。お針子達も殺して、オズやドロシー、子供達を切り伏せてを焼き殺した。
 西の街を出るドロシー達を殺したのは聖騎士だったはず。
 ならば、西の街で起こる殺人はジュダが犯人のはずだ。
 だが、それならばなぜ最初のオズは殺された?

「だって、お針子達を間違って殺したのは、ジュダ様で」

 だが、最初のオズは錬金術師の試験を受けるために馬車に乗り込んだはずだ。ジュダがどうやってオズを魔法使いだと誤認できる?
 そもそも、馬車の中に魔法使いがいると分かったとして、殺せるか?

「シャイロック様といるとき、ジュダ様が乗り込んできた……」

 荒屋に聖具が設置されていたから、オズを殺したのか。
 だが、シャイロックと一緒にいるとき、ジュダは荒屋に乗り込んできたじゃないか。
 ジュダには子供達の誰が魔力を持っているか、判断できなかった。
 だから、焼き殺そうとされたはずだ。

 ぶるぶると体が震える。ジュダが死ねば、すべて解決するのではないのか。

「シャイロック? 誰のことだ。私の知らぬ男を出して、私の罪を糾弾するのか。その指摘にどんな証拠があるという?」

「あ……」

 最初のオズの殺害は、ジュダには不可能なのではないか。
 ジュダに殺せるのは、シャイロックに会ったあとの殺人だ。最初のオズの殺人をする動機がない。彼は異端審問官の代わりをしているだけだ。魔力を持たない人間を襲う殺人鬼じゃない。

「ジュダ様じゃない……? でも、貴方が異端審問官のかわりをしたいと知っている人だ」

「こちらの質問に答えろ。なぜ、知っている。誰に教えられた」

「貴方に罪を被せようとした人がいる」

「何?」

 持っていた包丁を取り落とす。ころんと転がった凶器を見て、ジュダは目を見開いた。

「私を殺そうとしたのか」

「ジュダ様を殺しても解決しないの……? じゃあ、どうしたら」

 持ってきた刃物を拾おうとしゃがむが力が入らない。
 ジュダを殺せば解決すると思ったから、殺す覚悟で刃物を持ってきたのだ。
 ドロシーは石で殴り殺そうとしたことがある。考えたことがあるのならば、殺すこともできるはずだと思った。

 これでオズが助かるなら、いいと思った。
 人を殺したって構わないと。

「……少し落ち着きなさい。きちんと話をしよう。お前の話を聞かせてくれ」

「私の、はなし」

「そうだ。腰を据えて。ここでは、話もしにくいだろう。礼拝堂へ行こう」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

婚約者に捨てられた私ですが、なぜか宰相様の膝の上が定位置になっています 

さくら
恋愛
 王太子との婚約を一方的に破棄され、社交界で居場所を失った令嬢エリナ。絶望の淵に沈む彼女の前に現れたのは、冷徹と名高い宰相だった。  「君の居場所は、ここだ」  そう言って彼は、ためらいもなくエリナを自らの膝の上に抱き上げる。  それ以来、エリナの定位置はなぜか宰相様の膝の上に固定されてしまう。  周囲からの嘲笑や陰口、そして第一王子派の陰謀が二人を取り巻くが、宰相は一切怯むことなく、堂々とエリナを膝に抱いたまま権力の中枢に立ち続ける。  「君がいる限り、私は負けぬ」  その揺るぎない言葉に支えられ、エリナは少しずつ自信を取り戻し、やがて「宰相の妻」としての誇りを胸に刻んでいく。  舞踏会での公然の宣言、王妃の承認、王宮評議会での糾弾――数々の試練を経ても、二人の絆は揺らがない。むしろ宰相は、すべての人々の前で「彼女こそ我が誇り」と高らかに示し、エリナ自身もまた「膝の上にいることこそ愛の証」と誇らしく胸を張るようになっていく。  そしてついに、宰相は人々の前で正式に求婚を告げる。  「エリナ。これから先、どんな嵐が来ようとも――君の定位置は私の膝の上だ」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...