天つ乙女と毛獣

あわ☆さくら

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SS No.3 桜見のころ

双つ子のタキリ姫とイチキ姫

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「タキリ姉様、私のことをお忘れになられてしまいましたか?」
声の主こと双子の妹というイチキ姫は、ほとほと困った様子を顔に描きながら、まどろっこしいほど丁寧な口調で百合子に言葉を掛けた。
「あなたは、イチキね。私の学校の友達に似ていたからわからなかったわ。お久しぶり。」
タキリ姫である百合子は、昔のことを思い出し、ようやく目の前にいる少女を双子の妹・イチキ姫と認識した。
彼女は、このとき、閉じ込めていた箱から宝石を取り出すように記憶を思い出していた。
さて、百合子は彼女に近寄ろうと、茜色の出で立ちの天女であるタキリに姿を変えた。
タキリは、ひらひらと情熱ささえ漂わせる茜色の羽衣をあやつり、妹のイチキ姫のいる枝に身体をおろした。
そして、
「タキリ姉様。私たちと別れ、この地球という星に来てからどうなさっていらしたのですか?」
イチキ姫は、明るく誠実そうな顔で、タキリ姫に尋ねてきた。
その顔には、黒々しい雰囲気が一切なく、まさに妹として相応しい表情を浮かべていた。
「イチキ。私はね、千葉の房総半島の相浜という場所に流れ着き、そこで星を見に来ていた夫妻に保護されたの。それからは、夫妻の養い子の百合子としていままで過ごしてきたわ。」
タキリは、頭の中にあるすべての記憶を引き出し、はきはきとした聞き取りやすい声でタキリ姫に答えた。
続けて、
「それなら、イチキはどうしていたの?」
タキリ姫は、ふと気になった様子で顔を三〇度ほどかしげ、妹であるイチキ姫に尋ねた。
「タキリ姉様。私は、母様や叔父様・叔母様、トヨタマ・ミカヅチと獣から逃れるため、国の中をさまよっていました。しかし、ふとしたことから、獣に見つかってしまい、長いこと暗闇の中で眠らされていました。その後、時を見計らまして獣の元より脱出し、いまは鋸山というところの麓の町で住んでいます。」
イチキ姫は、うるうるとした目つきで、姉のタキリ姫に対して別れてからの話を語った。
そのとき、彼女の目つきは、やさしげでくりくりとしていて、さながら親友の茜をも連想させた。
「へぇ、そうなんだ。大変だったね。」
「イチキ。意外にわたしとあなたが住んでいるところって近いのね。私の親友も、そのあたりに住んでいるの。」
タキリ姫は、ひまわりの花のようににこやかな表情やねぎらいの意を交え、ゆっくりとはきはきした聞き取りやすい口調でイチキ姫に答えていた。
「タキリ姉様。獣を倒し、すばる王朝の再興を目指し、指導者として活動をしていらっしゃると、風の噂でうかがいましたが本当のことでしょうか?」
イチキ姫は、再びやさしげな眼差しでタキリ姫を見つめ、首を傾げて耳で伝え聞いたという噂の真偽について確認を求めた。
「イチキ。半分あっているけど、半分ちがうわ。」
「私は、国の王様になるための権利を持っていて、それを用いて敵の獣と戦ったわ。でも、国の再興ということまでは、どうしようか迷っていて、決断ができていないの。」
タキリ姫は、明るいながらも悩むような物言いでイチキ姫に答えた。
タキリ姫は、この時、有名な考える人の像と同じポーズをとった。
「タキリ姉様、そうなんですか。王位継承権を持っていらっしゃるというのは、私から見てとてもあこがれるものです。」
イチキ姫は、三回ほどうなづいた後、目にうらやましいという気持ちを表し、タキリ姫に答えた。
「イチキ、同じ両親の血をわけた双子の姉妹同士、久々に顔を合わせることができた。だからこそ、私の仲間として一緒にハイドたちと戦ってくれるかな?」
タキリ姫は、明るい表情をみせて仲間にならないかイチキ姫に誘ってみた。
このときのタキリ姫は、聡明そうながらも、従妹であめふり国のトヨタマのようにハイドらと戦う勇ましい天女や指導者らしい雰囲気を顔のあたりに漂わせていた。
それに対し、
「申し訳ありません。私ですが、あいにく用事があって、タキリ姉様の仲間に加えることはできません。」
イチキ姫は、顔という名前のキャンパスに表情を浮かばせぬまま、姉・タキリ姫からの誘いを断った。
「イチキ、そうなの。用事があるのなら仕方がないわね。」
タキリ姫は、やるせない表情に残念な心の気持ちのまじえてイチキ姫に言葉を返していた。
タキリ姫・イチキ姫の双子姉妹は、約一時間ほど玉川上水の清水の流れを背にして山桜の枝の上で会話をした。
その内容は、昔のすばる王朝での話や地球に来てからの話がメインであった。
タキリ姫は、彼女との会話を通し、自らがすばる王朝を再興に導く指導者、また次期国王の継承権を持つ唯一の人間ということを強く意識するようになった。
このことが、後々のヨモツに対抗し、すばる王朝の再興を目指す天女たちの組織、『すばる同盟』の結成のルーツともなったのである。
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