sandwich

水市 宇和香

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dinner3

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 社長に連れて来られたのは、知り合いがやっているという個人経営の洋食屋。料亭かクラブみたいにギラギラしてるところへ案内されると思っていたので、とりあえず安心した。
「さあっ、何頼む? あたしのオススメはハンバーグ」
 席についたところで社長がメニューを広げる。
「俺はスパゲッティー」
「じゃあ僕はドリア」
 皐月共々、ろくにメニューも見ず、さっさと自分が食べたいものを告げれば、ナカさんは社長おすすめのハンバーグを選んだ。きっと、社長に気を遣ったんだろう。
 社長はもちろんハンバーグにすると意気揚々で、ともすればシローだけが決まらずにいた。それに気づいたシローは慌てて「あっ、そ、それじゃあ僕もハンバーグでっ」そう言ってメニューを閉じる。
 変に注目を浴びるのが苦手だから、とりあえずで選んでしまったみたいだ。
(さっきまで見てたのは……オムライスか)
 それじゃあ、明日のお弁当にはオムライスを作ってあげよう。そんなことを考えながらシローを眺めていたら目が合う。
 社長の隣で落ち着かないのか、妙に視線がさまよっている。それが、昔妹が飼っていたハムスターを思い出させた。
 あんなふうにゲージにいれて、好きなときに撫でたりおやつをあげたりすることができるなら、なんの苦労もないんだけどな。たまに噛まれるくらい笑って許してあげられるのに。
 シローは噛むこともせず、いつのまにか消えてしまいそうな危うさがあるから、僕らが堅いゲージを作るしかないんだ。
 そのゲージのなかで、ただ向日葵の種をあげる。肥満になって動きが鈍くなってから、君を抱き上げ、鼻先にキスするよ。
 目下、シローに微笑みかければ、シローは相変わらず警戒心のない顔で口の端を持ち上げた。
 それから、無意識なのか気づけば僕を見ている。覗き込む前に視線はそれていくのだけれど……。
 シローを観察していたら、社長に足を蹴られた。
「んもう、アタシの話聞いてたー?!」
「聞いてましたよ、雑誌の取材でしょう?」
「んふふ、優士ったら要領がいいんだから。そうそ、取材。ソロで一人ずつね」
 肘をついて、僕と皐月に向かってニッコリ笑みを浮かべる社長。なんだかんだ、やり手だな、と思う。
 一般にはそこまでメジャーじゃないものの、業界でうちの事務所、というか、数年前社長に就任した彼女の評価は高い。
 小さな事務所なのに、僕らのメディア露出が次々に増えてゆくのは、ひとえに彼女が奔走したからなのだ。
 僕個人としては特に嬉しくないけれど、3moonが売れるのは助かる。
「シローからなのよ。気合いいれていきなさい!!」
 社長が景気づけにシローの背中を叩けば、シローはたじたじになって眉を下げた。
「が、がんばります……」
 人見知りだ、という理由でなるべくシローを表に出さないよう仕向けてきたけれど、そろそろそれでは済まなくなってきたみたいだ。
 さて、それならどうしようかな。思案を巡らせながら、僕は温くなったコーヒーを口に運んだ。
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