sandwich

水市 宇和香

文字の大きさ
29 / 47

cares

しおりを挟む
 皐月と優士と会話をしなくなってから、もう二週間くらいが経つ。もちろん、仕事のときや、家事についてとか、必要最低限の話はするけど……。
「おい、シロー。シロー!」
 テレビの前から、皐月が僕を呼ぶ。
「てめえ、シカトしてんなよ?」
「して……ないよ、なに?」
 嘘だ。今だって、実は三度くらい呼ばれるまで気づかないふりをしていた。僕はキッチンのカウンターから顔をあげて、いかにも普通な表情で皐月を見た。
 皐月はテーブルに肘をつきながら、僕を睨んでいる。
「俺と優士、明日はメシいらねえから」
「あ……う、うん。わかった」
 そのあとも皐月は何かしゃべろうとしていたけど、気づかなかったことにして、僕はまた手元に視線を落とす。
(最近、こういうこと多いな………)
 優士は今日もいない。昨日は皐月がいなかった。帰るのはたいてい明け方で、煙草臭いことが増えた。
 どこに行ってるんだろう?  誰といるのかな? 僕がこの部屋にいるから、二人とも帰ってこないのかな?
 どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
(ううん、わかってるよ。竹松さんを悪く言う二人を、僕が許せないんだ)
 いい人なのに、言いがかりであそこまで悪口を言うなんて。
 それに、あんなふうに喧嘩したのに、何事もなかったように接しようとする二人を受け入れられなかった。……二人からしたら、この間の言い合いは喧嘩ですらないのかもしれないけど。
 ジンっと、鈍い痛みが走る。
「痛っ!」
 ハッと我に帰った。そうだ、キャベツを切っていたところで――考え事をしていたから指先まで切ってしまった。
「おい!」皐月が立ち上がって近づいてくる。
「何してんだよおまえ! ったく見せてみろ」
「……っ、いい! だい、じょうぶ……!」
 とっさに取られた腕を払った。瞬間、皐月の表情が(もともと険しかったけど)これまでの比じゃないくらい鋭くなる。
「……そーかよ! っ、くそ!」
 冷蔵庫に拳をぶつけて、そのまま部屋を出て行ってしまう。………皐月も、今日も帰ってこないのかな。
 喧嘩って、どうやって終わらせるんだろう。この間のことは、なかった話にすればいいのかな。そしたら、少し前の僕たちに戻れるんだろうか。
 指先ににじむ血を独りで洗い流しながら、僕は小さくため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...