暁に消え逝く星

ラサ

文字の大きさ
2 / 58
第1章

西へ

しおりを挟む
 とどろくように皇宮を焼き尽くす炎は、黒煙を従えて、その勢いは未だとどまることを知らないかのようにも思えた。そして、それは死人を冥府へと送る弔いの篝火のようにも見えた。
 この世界では、火は邪悪を消し去る神聖なものとして扱われている。
 象徴ともいえる皇宮が炎に包まれた時、民衆は口々に呟いたという。

 火の神の怒りによって、邪悪は滅び去ると――

 そして、迫り来る業火を背に、女はじっと広場の中央を見据えていた。
 門前にある血だまりの広場の中心には、たくさんの首のない骸が転がっていた。全てこの国の皇族とその姻戚にあった者だ。
 首はすでに皇宮の外で晒されていた。
 皇帝、皇后の血に連なるものは全てが捕えられ、異例の略式裁判を経て、処刑されている。
 すでに死んでいた者も集められ、晒すために首を切られた。中にはこの業火に見舞われて判別のつかぬ無残な遺体さえある。
 民衆の怒りはそれほどに凄まじかった。
 神々の末裔とも呼ばれる皇族はこの日滅んだのだ。
 そして、皇国もともに、滅んだのである。
 おびただしい死体と鮮血に敷き詰められた広場に立ち尽くす女は、小さく呟いた。
「足りないわ。これでは足りない」
 皇宮に勤める女官の装束をした女は、美しい顔を静かな怒りに染めていた。
 女の傍らに立つ、背の高い屈強な男が低い声で問う。
「では、どうする?」
 砂漠の盗賊のように長い外套が風にあおられる。
 いまだ燃え上がる皇宮の熱風がもうここまで届いているのだ。
「俺はお前に従う。そういう約束だったからな」
 馬の蹄の音がこちらに近づいてくる。一頭ではない。複数の蹄だ。
「どうすればいい? どうしたい?」
 蹄の音にかき消される前に、女ははきすてるように言った。
「――皇子の首を。それで最後よ」
「わかった」
 大地を揺るがす大勢の蹄の音は、男の背後で止まった。
 十数人の男達が馬から降り、男の指示を待っている。
 やはり全員が砂漠に暮らす者のような格好だ。
 長い外套に、革の手甲と脚絆、日除けとなる布を頭に巻き付けて背中に垂らし、ほとんどの者が髪の色を定かにはさせない。
「俺の馬を」
 男の声に、すぐに乗り手のない馬の手綱を掴んだ男が前に出る。
「統領。どちらへ」
「準備をしろ。砂漠越えだ」
 男は女を抱き上げ、馬に乗せると、自らもその上に跨がった。
 他の男達もすぐにそれに従う。
 来た時と同じように、皇宮の大理石の石畳を割るかのような勢いで馬は駆け去っていく。
 そうして、馬は西へ向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...