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第1章
渡り戦士
しおりを挟む暁の皇国を距離にして北西へ80ガルナほど馬で行くと、そこはすでに砂漠に近く、低木のまばらな風景が広がる荒野だった。
砂漠を迂回するように造られた道に沿って、まばらに点在する道標。
人や馬が踏みしめ、草の生えない赤茶けた乾いた道を過ぎる砂埃。
そんな寂寥とした風景の、ほんの少し先の三叉路の道標には背の高い男が立って、南東の方角を見据えている。無駄なところが少しもない、鍛え上げられた見事な体躯の男だ。襟足の長い髪を革紐で束ね、腰には剣を差し、簡素な旅装からでも戦士であることは隠しようもない。
そこを少しばかり西よりの低木の割り合い多いところで、仲間である戦士達が野営をしていた。
男は依頼主を待っていた。約束の日を過ぎても現れぬ依頼主とは、二日前にここで合流する手筈であった。
「ようやくお出ましだ」
リュケイネイアスの呟きを聞き逃さずに、アウレシアは閉じていた目をぱっと開けた。
本来なら二日前に聞いているはずの言葉だった。
馬の近くでマントをかぶって不貞寝していたが、がばっと起き上がり、三叉路の道標の横で身を屈めて遠見筒を覗いていたリュケイネイアスの背に跳びつく。
跳び乗られた所でびくともしないほど体格のいい男は、自分の手から遠見筒を奪って目標を確認している二十歳を過ぎた若い娘が背から落ちないように体勢を整えた。
「おっそーい。ケイ、約束の時間どころか日数超えるってどういうことだよ!」
背負われたままのアウレシアの文句に、リュケイネイアスは苦笑した。
「仕方がない。向こうは旅慣れしてないからな。むしろここまで無事に来られた事の方が奇跡だな。依頼主が来なきゃ、仕事はできんし、報酬ももらえん」
東から向かってくる小さな点は、一向に近づいてくる気配がないようにもみえる。
どれだけのろいのか。アウレシアは男の背中で納得いかないように頬を膨らませた。
「蜃気楼じゃないの? 全然進まないじゃん」
「むくれるのはいいが、顔には出すな、レシア。仕事が来なくなるぞ。どんな仕事だろうが顔色一つ変えずに請けられる様にならんと渡り戦士としてやっていけんぞ」
「女だからって舐められ切ってるのに、今更」
「それでもだ。いつか独り立ちするときのことを考えろ」
「はいはい。親父様の仰せのとおりにしますよーだ」
舌を出して答えるアウレシアに、リュケイネイアスは苦笑しつつやり過ごした。その大人の男の余裕が、またアウレシアには子供扱いされているようで納得がいかない。
リュケイネイアスは父親のようにアウレシアに接する。まだ三十八と若いくせに。
だが、そんな彼の態度に腹を立てることはなかった。それが自分を思って言ってくれていることがわかるからだ。戦士としての心構えも、常に的を得ている。
「さて、一足先に迎えに行ってくる。それまでに片付けておいてくれ。多分、すぐ移動することになるからな」
「了解」
リュケイネイアスが身を屈めると、アウレシアは軽やかにその背から下り、マントを拾い上げると出発の準備をすべく、仲間達のところへ走っていった。
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