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第1章
依頼
しおりを挟む「皇子さまぁ!?」
素っ頓狂な声が出たと、我ながら思った。しかし、野営地を片付けながらのアルライカの一言は、アウレシアには驚きだったのだ。
「レシア、声がでかい」
「ラウ・フラウメアっていったら、暁の――」
そこでアルライカの手が、アウレシアの口をふさぐ。リュケイネイアスには劣るものの、十分な長身のこの男に押さえ込まれて、アウレシアは大人しく口を閉じた。
「最後まで言うなよ。ソイエに聞こえるだろが。それは禁句になってるんだからな」
そういうとアルライカは後ろを振り返り、それからアウレシアから手を離し、また寝袋を畳んで縛る作業に戻る。
暁の皇国、または麗しの皇国と呼ばれる、歴史あるラウ・フラウメア皇国が、半月ほど前に内乱によって滅びたのは、アウレシアのような下っ端の渡り戦士でも知っている。
アルライカの話だと、ラウ・フラウメアの聖皇帝は、内乱の前に密かに砂漠を挟んで西にある大国のサマルウェア公国の第二公女と婚約という同盟を結んでいた。その婚約者となる皇子は、内乱の前にすでに国を出ていたため、命だけは助かったのだという。その皇子と御付きの一行を無事サマルウェア公国に送り届けることが、どうやら今回の仕事らしい。
「――おいおい、ライカ。どっからこんな仕事拾ってきたんだよ」
「ソイエだよ。決まってんだろ、そんな怪しげな仕事請け負ってくんのは」
「ほう、何か聞き捨てならないことをどっかのバカが言ってるのが聞こえるが」
背後からの低い声に、アウレシアとアルライカが同時に固まる。伸びてきた手がアルライカの頬を抓り上げた。
「この口か。そんな恩知らずなことを言う口は?」
「いで、で、で、わるがっだ、もういいばぜんがら」
戦士にしては少し学者めいた風貌のソイエライアは鋭い一瞥をアルライカにくれてから、
「レシア、ライカは今回の報酬はいらんらしい。その分をお前と俺とケイで山分けするか」
無慈悲に言い放つ。
「だー、待て待て待てぃ、怪しげな仕事なのに変わりはないだろうが。誰もやらないとは言ってないのに、報酬なしとは洒落にならん。相棒になんつう仕打ちを」
「俺の選んだ仕事にケチをつける相棒ならそれこそいらん。文句を言える立場なのか。お前の作った借金の返済に付き合っている慈悲深い俺様に文句があるなら、俺の目を見て言ってみろ」
「う――それを言われると…」
「ちょっとちょっと、話がそれまくってる。そんなことより、仕事のことだよ」
いつまでもおわらなそうな会話を断ち切り、アウレシアは二人の間に割って入る。
「ソイエ、いいのかい? 今回の、結構やばくない?」
「そうなる可能性は、なきにしもあらずだ。皇子が生きてるとなれば大事だからな。ここまでばれずにたどり着いた事こそ奇跡だな。ばれてるなら、追っ手がかかるかもしれん」
「おいおい、ケイはわかってんだよね」
「もちろん。ケイの方が乗り気だ。ちょうどサマルウェアの港に北の船が着くって情報が入ったからな。レドルからのいい鉄剣が出回るはずだって。ほら、前の仕事の時、ケイの剣に欠けが入っただろう? やっぱり気になるらしい。送り届けて、ついでに新しい剣も調達できりゃ一石二鳥だろうが」
大きく息をついて、アウレシアはそれ以上追求するのをあきらめた。リュケイネイアスとソイエライアが納得して請けると決めたのだから、こちらとしては文句は言えない。
だが、どうも一抹の不安を拭い去れないのは気のせいか。
「さあ、ライカ、レシア、行くぞ。ケイの馬が依頼主を連れてくる」
「いよいよかい。皇子様とのご対面は」
「俺達下々の者の前になんか出てくるかよ。皇族だろ」
「はは、それもそうか」
東のほうには、先ほどまで小さな点だったものが、大きな影となっていた。馬車と馬を駆る姿がようやくこちらから目視できるほどになっていた。
あらかた片付け終わった野営地をあとにして、三人は馬に乗り、リュケイネイアスのもとへと向かった。
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