暁に消え逝く星

ラサ

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第2章

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「ケイ、遅かったじゃん。先に食ってたよ」
「ああ。ちょっとエギル様と話し合ってた。まだ残ってるんだろうな」
 戻ってきたリュケイネイアスは先ほどまでイルグレンが座っていた敷物の上に腰を下ろす。
 すでに皇子は食事が終わる頃に慌てて迎えに来たウルファンナと身代わりの護衛とともに馬車へと戻っていた。
「おう、明日の朝食分まで作っといたからばっちりだぜ。明日からは皇子様も食わせることにしたけど、いいよな」
 アルライカからスープを、ソイエライアからパンを受け取りながら、リュケイネイアスは眉根を寄せた。
「――なんでそんなことになってる」
 言いながら、スープを器から直に啜る。
「言いだしたのはレシアだぜ。まあ、なんかいろいろ可哀相な皇子様だからよ、飯ぐらい食わせてやってもいいんじゃないかと思ってよ」
 アルライカは夕食でのいきさつを簡単に話した。
「いいだろ、ケイ。どうせ一人増えたぐらいで食い扶ちは変わらないんだし。あったかい飯食べさせてやりたいんだよ」
 アウレシアは先ほどのイルグレンの表情を思い出し、何だか切なくなってきた。
 贅沢な暮らしに慣れた、育ちのよい天然お馬鹿皇子だと思っていたが、全然そうではなかったのだ。
 最初のあの言葉を誤解しなければ、すぐにわかったはずだった。
 いつだって、あの皇子は素直な心しか見せていなかったのだから。
 二週間も剣の稽古をつけていたのに、会話らしい会話を今日まで全くしてこなかった自分を、アウレシアは悔やんだ。
 毎日命を狙われながら生きるなど、世を拗ねて捻くれてもおかしくないのに、あんなに素直で真っ当に育つとは、ある意味只者ではない。
 母親は、よほど大切に育てたに違いない。
 その母親はどうしたのだろうとふと疑問が頭をかすめたが、当面の問題はそれではない。
「ただなぁ、グレンに飯の作り方教えるっていうライカには賛成できないけど…」
 ぼやくアウレシアに、アルライカが反論する。
「何でだよ。旅の間は自分のことは自分でできるようにしてやんないと。鍛えてくれっつったのは宰相様のほうだろ? サマルウェアに行ったら、二度とすることもないんだし、下々の暮らしや生活を体験しとくのも悪くないだろ。大体、あの皇子様のほうから言い出したんだ。あいつ、絶対変わってるぜ」
「変わってんのは、この二週間と今日一日で十分わかったさ。でも、皇子様によけいなこと教えてもどうかと思うし」
「いや――ライカの言うとおりだ」
  それまで黙って食事をしながら話を聞いていたリュケイネイアスが、ようやく口を開いた。
「レシア、あの皇子様はなるべく俺らの近くにいさせろ。その方が守りやすい。やりたがってるなら飯でも何でも作らせとけ。自分で飯を作れば毒の入りようもないしな」
 最後の言葉に、三人は一様に顔色を変える。
「何だよ、それ。毒なんて」
「何かあったんだな、ケイ」
「何だよ、早く教えろよ」
 残りのスープを飲み干して、リュケイネイアスは器を置いた。
「今日、皇子の食事に毒が盛られてた」
「何だって!?」
 アウレシアが身を乗り出す。
 アルライカとソイエライアもリュケイネイアスの近くに寄る。
「幸い死人は出なかったが、どこで紛れ込んだもんか見当がつかん。食料を調達した北の町が一番怪しいが、確かめに戻るわけにもいかんしな。この旅の一行の中に刺客がいるはずがないとエギル様は言うが。護衛が大勢いる以上、保証はない」
「あの侍女じゃないのかい?」
「あの娘は宰相が最も信頼する侍女だ。幼い頃から娘のように育ててきたから裏切るはずはない」
「じゃあ、あの護衛隊長か身代わりの護衛は?」
「護衛隊長も有り得ん。忠誠心は人一倍だからな。聖皇帝の護衛隊長でもあったんだ。身代わりの護衛は侍女の娘の許婚だ。毒見があの娘なのにそれも有り得ん。食事を作っているのもあの娘だから、真っ先に気づいたらしい。銀に反応する毒だったらしく、毒見する前に気づいたのは不幸中の幸いだった。それからは、侍女と一緒に食料を全部調べなおしたが、今日出された料理に使われた小麦の袋によく見ると穴が開いていたから、そこから毒を入れたってことしかわからなかった。小さな穴だから、買ったときにすでに入れられていたのか、旅の途中で誰かがやったのかもわからんのがやっかいだ」
「それであの娘、あたしらが戻ったときいなかったのかよ。いつもなら真っ先に出迎えにすっ飛んでくるのにおかしいと思ったんだ」

 誰かが皇子の命を狙っている。

 ぞっとした。
 今日、イルグレンが勝たなければ。
 自分が食事に誘わなければ。
 毒見をしていなければ。
 銀を使っていなければ。
 ほんの少しのことで、一つの命が消えていたのかもしれないのだ。
「エギル様と話し合ったんだが、馬車には今まで通り皇子の身代わりを立てる。昼はレシアが傍にいるからいい。ソイエ、夜はお前が馬車に入ってくれ。皇子の身代わりになれるのは、俺達の中では髪の色が同じなお前だけだ。ライカはここで皇子につけ」
「了解」
「ああ」
「決して目を離すな。死なせちまったら終わりだ。なんとしてでも、あの皇子様は無事にサマルウェアに連れて行かなきゃならん」


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