27 / 58
第4章
酒場で
しおりを挟む酒場は男達でにぎわっていた。
床に敷かれた九つの絨毯の上に、直に料理と杯が置かれて、泊まりの男達がそれを囲んで談笑している。
半分は、男衆達だったが、自分達以外の旅人も多かった。
旅の疲れが酔いを増し、大きな笑い声や陽気な歌が時折飛び出す。
部屋へと通じる通路の扉を閉めると、すぐ近くに座っていた男衆達が気づいた。
「統領。どうしたんです」
「いや、飲みたい気分なんでな」
若い方の一人がさっと立ち上がり座を譲る。
そして、絨毯の間を動きまわっている給仕の元へかけていく。
男は、空いた席に座り、酒の肴として卓上に盛られた料理をぼんやり見つめた。
席を立った男が、杯と取り皿をもって戻ってきた。
座っていた残りの男の一人から酒を注いでもらい、渡す。
「すまんな」
杯を受け取ると、男は最初の一杯をまるで水のように飲み干した。
男衆達から小さく歓声があがる。
先程の若い男は嬉しそうに空の杯に、今度は自分が酒を注いだ。
「――俺に構わず、お前らも飲め。久しぶりの宿だからな」
「ありがたくやってますよ。この分じゃ、予定通りに砂漠は越えられますね」
「ああ。すまんな、俺の我侭につき合わせて」
「俺達は別に構わないんです。統領について行くと、決めていたし。統領が大切なものなら、俺達も命がけで守るんです」
男は唇の端をあげて、かすかに笑う。
「いい手下を持ったもんだ、俺は」
それを聞いて、男衆達も嬉しそうに笑った。
男は、無言で杯を上げた。
男衆達もそれに習う。
しばらくは他愛もない会話で時が過ぎる。
徐々に酒場から部屋へ引き上げる男衆達。
他の客はすでにいなかった。
残ったのは、男と、砂漠慣れしている男衆の一人と、その周りで酔いつぶれて寝ている残りの男衆達だった。
気持ちよさげな鼾に苦笑しながら、男は杯をあおる。
「統領も、そろそろ戻ったほうが」
「朝まで戻らんと言って来た。一人のほうがよく眠れるだろう」
「本当に、気丈な娘ですねえ」
「そうだな、正直、途中で音をあげるかとも思ったんだがな」
ためらうように、かかる声。
「復讐なんて、気持ちのいいもんじゃないですよ」
「そうだな。俺もそう思う」
「――いいんですか? このままいけば、あの娘は人を殺すことになる。あんな細い腕で、料理用の小刀しか持ったことないような娘っこが、本当に、人なんか殺せるんですか?
あの娘は、俺達とは違う。命を奪って、平気でいられるはずがない。一度でも人を殺せば、戻れなくなる。それでも、やらせるんですか」
それは、男も思っていた。
あの女は、真っ当に育った真っ当な娘だ。
本来、決して自分達とは、このような復讐になど、関わるはずのない女。
「だが、あいつにはそれしかないんだ――」
今、女をかろうじて生かしているのは、復讐という脆い代償でしかなかった。
絶望の淵を覗き込んだ者しか見せることのない、あの虚ろな、生きながら死んでいくようなあの眼差しを、男はすでに知っている。
女は死を望み、男はそれを止めた。
復讐という形で。
それ以外、絶望を忘れさせるものが何もなかった。
「そして、俺も皇子を、許したいと思わない。あの国に繋がるものは、何一つ残らず消し去ってしまいたいと思ったんだ――」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる