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第6章
渡り戦士の誤算
しおりを挟む全速力で馬を走らせ、アルライカは戻る。
ソイエライアとリュケイネイアスのことだから、彼らは大丈夫だと信じている。
ただ、護衛たちに関しては、アルライカは確信がなかった。
自分とアウレシアが抜けたなら、戦力は格段に落ちたはずだ。
ソルファレスもいるなら、多分馬車を囲んで陣を組むはずだ。
動いて敵を翻弄する自由な戦い方を得意とするアルライカには、防衛戦は性に合わない。
今回は主力がこちらなら、自分達が倒したほうより手練《てだれ》も多いはず。
こちらに死人が出てもおかしくはない。
せめて、鍛え上げたあの五人が死んでいないことを祈った。
せっかく仲良くなった護衛が自分のために命を落としたと聞いたら、きっとイルグレンは悲しむだろう。
心根の優しいあの皇子が悲しむのは見たくなかった。
記憶にある木々の間に見える野営地が視界に入ったとき、そこにまばらに散らばるたくさんの黒い影にぎょっとする。
死体だ。
ぎりぎりのところまで近づいて馬を止め、死体を見ると、全て刺客だ。
馬車の周りを囲んで座り込んでいる者達は護衛だ。
返り血が剣や衣服に飛び散っている。
比較的余力のある者は、怪我をしているだろう仲間の手当てをしている。
近づいてくるアルライカの姿を見て、気づいた者は一様にほっとして表情を緩めた。
死体を越えながら避け、一番近かった一人に声をかける。
「皆無事か、ソイエとケイは!?」
「渡り戦士殿は、馬車で、手当てを――」
そこまで聞くと、アルライカは急いで皇子の馬車へと走った。
「ソイエ!!」
馬車の近くでソイエライアは座り込んでいた。
皇子の身代わりを務めていたアルギルスの手当てをしている。
手当てを受けているアルギルスは、一人着ている衣服が違う。
身代わり用の、華美で、実戦にはあまり向かない裾の長い服だ。
ただ、裾は膝の近くで破れていた。
おそらく、戦うために自分で動きやすいよう切ったのだろう。
それでも、一目見て、身分の高い者とわかる。
夥しい返り血に、美しい絹は赤黒く染まっていた。
当て布からは血がわずかに滲んでいたが、それ以上の怪我はないようだ。
ソイエライアにも怪我をした様子はない。
巻き終えた包帯を縛り終えたソイエライアの穏やかな顔が、走りよってきたアルライカを見るなり剣呑なものになる。
「無事か、何人死んだ?」
「――誰も死んでない。勝手に殺すな」
それを聞いて、アルライカはほっとした。
これで、あの天然皇子も喜ぶ。
「刺客は、皆死んだのか?」
「いや――半数はやったが、残りは追い払っただけだ。数が多すぎたからな。奴らも驚いていた。もっと簡単にかたづくと思っていたらしい。さすが護衛隊長が選び抜いた精鋭だ。見かけによらず、めちゃめちゃ集団戦に強かった。鍛えたかいがあったな」
アルギルスを見ると、疲労の度合いが桁外れに違う。
皇子の身代わりということで、かなり集中して狙われたのだろう。
それでこの腕の傷ですんだのなら上出来だ。
「ところで」
ソイエライアの声が低く響いた。
「なんでお前一人で戻ってきた? レシアとグレンはどうしたんだ!?」
「俺達も襲われた。どうやら二手に分かれてたらしい。あっちのほうは全部始末してきた。グレンがお前らを心配してたから、様子を見に戻ってきたんだ。レシアとグレンには隠れてるように言った」
呆れるような眼差しで、ソイエライアはアルライカを凝視した。
「こ、の、馬鹿野郎!! 護衛が依頼主をほっぽってきてどうするんだ!?」
「――グレンとレシアならちゃんと無事だ。隠した馬とも離れてるし、襲われた場所からさらに離れたとこに隠れるように指示したさ」
あくまでも呑気なアルライカに、ソイエライアは苛立ちを募らせて叫んだ。
「刺客は北西に逃げた。ってことは、仲間と――お前達を襲ったほうの仲間と合流しようとしたんじゃないのか!? 本当に全部始末したのか? 一人でも生きていたらまずい。こっちに皇子がいないことはばれたんだ!!」
「なんだと!?」
そこまで聞いて、さすがのアルライカも顔色を変えた。
「ライカ!!」
リュケイネイアスとソルファレスが駆け寄ってくる。
「皇子様はご無事か!?」
「レシアと一緒か?」
「ああ――すまん。こっちも襲撃を受けて、全部片付けては来たが、置いてきちまった」
「ケイ、追いかけよう。馬ならすぐだ」
ソイエライアが片づけを終えて立ち上がる。
「ファレス様はここで。俺達が行きます。すぐに出発できるよう準備しておいてください」
「わかった。皇子様をくれぐれも頼む」
「馬で行く! 案内しろ、ライカ!!」
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