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五章
惹かれ合う心
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あまりにも突然訪れたその瞬間に、言葉を失い、ただ、彼を見つめる。
その一言の重みは、計り知れないほど大きな衝撃を私に与えた。
私の目を捕らえて離さない彼の強い眼差しに、夢ではないのだと確信する。
まるで、これまで視界を遮っていた霧が一瞬で晴れ、とてつもなく美しい世界に足を踏み入れたような気がした。
胸いっぱいに広がる熱い感情に、私はこれほど彼に惹かれていたのだと知る。
その精悍な頬に手を触れると、栗色の巻き毛がはらりと落ちて来た。
カスピアンはゆっくりと瞬きをした。
うっすらと赤みを帯びた目元に指を走らせると、彼はもどかし気に私を抱きしめる腕に力を込める。
「……煽るな」
怒っているような低い声に、慌てて手を引っ込めた。
「歯止めが利かなくなるぞ。もともと耐えるのは苦手だ」
押し殺した声で囁かれて、カッと頬が熱くなり、身を縮めた。
息を潜めじっとしていると、やがて、静かなため息が聞こえて、カスピアンが私の額に唇を寄せた。
「神々の元で誓いを立て、おまえを名実共に妃とする婚儀まで、あと僅か」
カスピアンが、待ちきれないというようにきつく私を抱きしめた。
「これ以上、生殺しにされるのは敵わぬ」
ぞくぞくするような甘い響きをまとう低い声が、私の心臓を射抜く。
ドキドキと激しく鼓動する心臓の音が、頭の中にうるさく響いている。
じっとしているのも苦痛なくらいの胸の高鳴り。
未だかつて、これほどの幸せを感じた事はなかった。
この気持ちを言葉で今すぐに伝えたいという強い衝動を、とても抑えることなんて出来ない。
ついに我慢出来なくなり、私はまた手を伸ばし、カスピアンの頬を引き寄せると、彼の耳元で、愛してる、と囁いた。
次の瞬間、彼が私の頬を引き寄せて唇を重ねた。
目を閉じて、熱が溶けあうような激しい口づけに身を委ねる。
数えきれないくらい何度も口づけを交わしているうちに、体中の力が抜け、くったりと脱力してしまった。カスピアンは私の髪を掻き上げ、首筋にひとつ口づけを落としてから、しっかりと胸に抱きしめてくれた。
天にも昇るような幸福感に包まれて、温かい彼の胸の中で深呼吸をする。
ここは私だけの安らぎの場所なのだと思うと、嬉しさのあまり叫び出したいくらいだった。
しばらくの間、落ち着きを取り戻すかのように、カスピアンはゆっくりと私の髪を手で梳いていた。
心地よさにうっとりと目を閉じ、じっとしていたが、ふと、先ほどのことを思い出した。
「どうしてすぐに、私が隠れている場所がわかったの?」
バルコニーへのドアも開け放してあったのに、正妃の間もバルコニーも探すこともなく、まっすぐに王子の間へ来た事が解せない。
すると、カスピアンが目を細め、余裕の笑みを浮かべた。
「おまえの歩いたところは絨毯を見ればすぐにわかる」
「絨毯?」
つまり、毛足の長いふかふかの絨毯に、私が歩いた跡が残っていたということらしい。
そんな簡単にバレていたと知り落胆する。
「次回はもっとうまく隠れてみせるから」
悔しくて負け惜しみを言うと、カスピアンがくすりと笑いを零し、私の鼻をつまむ。
「その生意気な口がいつまでもつか。すぐに骨抜きにしてやる」
自信たっぷりにそう言うと、私の手のひらに口づけを落とし、上目遣いで私の反応を見るカスピアン。彼の挑発的な眼差しにドキドキしている私の様子が期待通りだったのか、彼は満足げに笑いを零した。
カスピアンは大きなため息をつくと、ようやく身を起こした。
私の両手を引いて、ベッドから立ち上がる。
「おまえに見せたいものがある」
頷いて、手を引かれるままに後をついていく。
衛兵が警護する王子の間から出ると、螺旋階段を上り始めた。
「今はもう、国王の間を使っている」
「あ、そうだよね。もう、国王になったから……」
隣の王子の間に人の気配がしなかったのは、実際、使用されていないからだと納得する。
現在、前国王や二人のお妃様は別のところに住んでいるということらしい。
上階も、回廊の至る所に、決まった間隔で衛兵が立ち並び警備をしている。
「あちら側が国王の間だ」
右手にある大きな深紅の扉には、金色の王家の紋章が刻まれている。
左の奥のほうは現在改装中のようで、天井から巨大なキャンパス生地が吊るされていた。この時間は工事をしていないのか、物音はせず、ただぼんやりとした灯りがキャンパスごしに見えるだけだ。
衛兵がキャンパス生地の綴じ目の紐を解いて開く。
カスピアンに続いてその内部に足を踏み入れた。
そこは走り回れそうなくらい広い空間。
まだ間仕切りも家具もない。
だが、美しい彫刻がされた柱や壁の模様、天井画の色彩が、とても鮮やかであることから、内装は完成しているようだった。
ぐるりとあたりを見渡したカスピアンの視線を追い、最後に頭上の天井画に目が止まる。
ラベロア王国の信仰する神々の物語から切り取られた様々な場面が、金、銀を含む美しい発色の顔料で描かれていた。太陽神テグロス、大地の女神ディアナ、その娘である音楽の女神エランティカ、その他たくさんの神々の姿が、巨大な天井一面を埋め尽くしている。
「わぁ……」
その圧倒的な神々しさと、筆舌しがたい美しさに深い感銘を受ける。
素晴らしい天井画に心を奪われていると、カスピアンが私を後ろから抱きしめて、同じように頭上を見上げた。
「ここはもともと、代々国王の第二、第三妃達が使っていた部屋があったが……」
カスピアンが部屋の中央あたりを指差した。
「ここにあった壁を取り壊し空間を繋げたのだ。おまえが戻る少し前に、天井画と内装が完成し、これから仕上げに取りかからせる」
「とても広いお部屋だね。どうやって使うの?」
「ここは、おまえと私が使う部屋になる」
「貴方と私の……?」
驚いて振り返ると、微笑むカスピアンが私を見下ろしていた。
「妃は一人と決めたのだ。これまでのように複数の妃の間をおく必要はない」
その言葉に、心が震えるほどの喜びで鳥肌が立つ。
嬉しくて思い切りカスピアンに抱きつくと、彼は意味ありげに目を細めて私を見下ろした。
「3年前、王子の間から正妃の間への扉が開かぬよう小細工した不届き者いたが、二度と同じ工作は出来ぬようになる」
以前、カスピアンが勝手に部屋へ入って来れないように、衣装箱などを扉の前に積み立てたことを思い出し、ばつが悪くなり首をすくめた。
「つい今しがたも、扉の前にカウチを移動させるなど、おまえは全くもって油断がならぬ」
「あれはだって、理由が……」
弁解しようとしたが、あれは、結果的には私の思い込みからくる誤解だったことを思い出し、口をつぐむ。
「己の妃に会うのに、わざわざ扉を通らねばならぬなど馬鹿げている」
きっぱりと言い放つカスピアン。
この広々としたスペースが二人で過ごせる場所になるという、夢みたいな構想にわくわくしてくる。
言って見れば、大きなアパート、一世帯分と呼んでも余裕の空間。王宮という場所を忘れてリラックス出来る、本当にプライベートな空間になりそうだ。
「間仕切りや家具も、おまえの意見を取り入れようと思っているが、どうだ、何か希望はないか」
「うん、有り難う。考えてみるね」
素直にお礼を言って、頷く。
「窓も大きくて明るそう。それに本当にすごく広い……」
視線をずっと向こうの壁に向けた。
家具を入れ、バスルームや衣装部屋を二人分作ったとしてもありあまる広さだろう。
一体どんなレイアウトになるのだろうとワクワクしながら周りを見渡す。
「近日中に竪琴も王宮へ届く予定だ」
「有り難う、カスピアン」
嬉しくて素直にお礼を述べて笑顔で見上げると、彼はくすりと笑った。
「礼はアンリに言ってやれ」
「えっ?」
「竪琴を復元したのはアンリだ。ヘレンと共に、必要な木材を求め遠くまで出向き、現地に留まり、何度も試作を重ね、ついに完成させてくれた」
優しい微笑みを浮かべたカスピアン。
思いもかけない事実に、ものすごく驚くと同時に感激した。
以前、アンリが私のために、竪琴を作れないかといろいろ調べていた事を思い出す。
きっと、他の誰でもないアンリが作った竪琴だからこそ、魔法の力を発揮してくれたに違いない。
感動と喜びで思わず身震いする。
「アンリが、私のために……」
「二人とも、おまえが戻って来たことは知らずに帰路についている。さぞかし驚く事だろう」
目を細め楽し気に笑みを浮かべたカスピアン。
私が竪琴のお陰でラベロア王国へ戻って来たと知る時の、アンリとヘレンの驚く顔を想像してみる。
きっとものすごくびっくりして、腰を抜かしてしまうかもしれない。
その瞬間が楽しみだ!
早く、二人に会いたい!
居ても立ってもいられない興奮のあまり、ぎゅうとカスピアンの背を抱きしめた。
落ち着きの無い私を見下ろし、カスピアンは私の顔を覗き込んだ。
「おまえがこのような笑顔をみせるとはな」
「……どういう意味?」
いつも私がふてくされているとでも言いたいのかとムッとしながらも、嬉しさは隠しきれず、つい頬が緩んでしまう。
「貴方がいつも怖い顔してたから、私はびくびくしてたのに!」
「そうか。だが、怯えている顔も悪くないぞ」
意味深な視線をこちらに向けたカスピアン。
何か悪巧みをしているような怪しい眼差しに思わず身構えると、カスピアンが私の背中にある帯紐の結び目を掴んだ。
突然何事かと目を見開くと、彼は身を屈めて私の耳元に唇を寄せた。
「これを解き、すべて剥ぎ取る時のおまえが見たい」
「えっ」
荒っぽく両腕で引き寄せられ、力強く抱きしめてくるカスピアン。
「一日も早く、おまえのすべてを我がものにしたい」
「カ……カスピアン!」
恥ずかしくなって両手で彼の口を塞いだ。
あまりにも突然にヒートアップする、色気たっぷりの物言いについていく余裕がない。
「その時が来れば、どれほど愛しく想っているか、嫌という程思い知らせてやる」
苛立つようにそう呟いたカスピアンが、口を覆っていた私の手を振りほどくと、噛み付くように口づけてくる。静けさだけが広がる空間で、夢のように幸福な一時が過ぎて行った。
テーブルの上のキャンドルの火が、ちらちらと揺れて、空になったティーカップやグラスを照らしている。
時折ふっと目を閉じては、ハッとしたように目を開き顔をあげるセイラ。
「疲れただろう」
カスピアンは笑いを堪えながら、眠気と必死に戦っている様子のセイラの頭を撫でた。
「ううん、まだ、大丈夫……」
慌てたように首を振り、何度も繰り返しているその頑固な言葉も、回を追うごとにだんだんと弱々しくなっていく。
あれから、カスピアンはセイラと共に夕食を取り、人払いをした後、部屋でずっと話をしていた。
セイラは、自分が生まれ育った世界について事細かに説明し、カスピアンの質問にも一生懸命答えていた。カスピアンにとって、未知なる世界の話はとても興味深いものであるだけではなく、それは、セイラという人物を知るのに非常に重要な情報だった。
気がつけば、すっかり夜が更けるまで話し込んでいたのだが、だんだん、セイラが眠気に襲われ始めたのに気がついた。切り上げる頃合いかと思い、何度か声をかけたが、本人は頑に眠くないと言い張って、話を止めようとしない。
会話の間の沈黙が長くなり始め、カスピアンが試しにしばらく黙っていると、ついにセイラは力が抜けたように頭を垂れ、カスピアンの腕の中で動かなくなった。
ゆったりとカウチに腰掛けていたカスピアンは、自分の腕の中で眠りに落ちたセイラの顔を覗き込んだ。
安心しきったように、微かな寝息をたてて眠っている。
セイラが心地よく眠れるよう、横抱きにしようとして、その両手がまだ、自分の上着を掴んでいるのに気がつき、くすりと笑いを零した。
近い未来に、この繊細な白い手が紡ぎだす、美しい竪琴の音色を聴く事が出来るだろう。
その時が待ち遠しい。
カスピアンは、二つの世界を繋げる、摩訶不思議な竪琴とその神々しい音色に思いを馳せる。
3年前、セイラが姿を消した時、それが壊れた竪琴と関係しているという確信があった。
そのためカスピアンは、セイラを取り戻すには、何よりもまず、竪琴を復元しなければならないと考えた。
サリーから、アンリが竪琴を作ろうとしていると聞き、早速アンリとヘレンを宮殿に呼びつけた。竪琴を復元するためのすべての助力を保証し、必要だという木材のある遠い山脈へアンリとヘレンを行かせた。もちろん、楽器作りに詳しい職人や警備部隊も同行させ、出来うる限りの援助をしてやった。
思いのほか竪琴の復元が難しく、何度も試作を重ねる事3年、ようやく満足のいく竪琴が出来たと報告が入った。
既に3年もの月日が経ち、まったく手がかりも見つからないセイラの行方。
しかも、セイラがラベロア王国に現れた時に身につけていた純白のドレスも、あれだけ厳重に保管していたにも関わらず、いつの間にか跡形も無く消えていた。
セイラが存在していたという証拠さえなくなった事実は、カスピアンを大きく動揺させた。
カスピアンの我慢も限界に近づいていたが、断じて諦めてはならないと己を戒めた。
竪琴はすでに現地を離れ、王都で待つ自分のもとへ向かっている。
セイラを初めて目にしたあの湖畔に、エランティカの神殿を建て、復元した竪琴を保管し祀れば、セイラは戻ってくるかもしれないと思い立つ。
早速その日の夕刻、湖畔へ下見に向かったものの、夏の終わりを告げる嵐の訪れと重なる。天候の悪化を察した護衛より、王宮へ戻り下見は後日改めた方がよいとの進言を受けた。
やむなく王宮へ引き返しかけたところに、湖畔に侵入者の気配があったとの報告が入った。セイラが消えてから、あの山は女神エランティカを祀る神聖な場所として、入山を禁じ、常時警備を行っている状態だった。それにも関わらず、侵入者がいたと聞き、激怒したカスピアンは、王宮へ戻る代わりに湖畔へと舞い戻った。
暴風の吹き荒れる薄暗い草むらで拘束されている少年を見て不審に思い、侵入した動機を問いただすことにする。兵士が捕縛していた少年の目隠しや猿ぐつわを外すなり、突然、長い髪が空中に巻き上がったのを目にし、はっと息を飲んだ。
暗闇でぼやけるその姿を確認しようと目を凝らしたその時、風の音に紛れ微かに聞こえた、自分の名を呼ぶ声。雷に打たれたような衝撃を受け、持っていた剣を取り落とした。
吹き荒れる風で激しく舞い上がるその髪に手を伸ばし、忘れることが出来ないひんやりとした絹糸のような手触りを感じた時、それが現実に起きているかどうかわからないほどに動揺した。
大きく目を見開いて自分を見上げている娘。それが間違いなく、ずっと探していたセイラだと確信した瞬間、もう周りの音は何も聞こえなくなった。
激しく打ち付ける雨の中、セイラを抱いて王宮へ馬を走らせながら、カスピアンは何度も、心の中で神を呼び、これが幻ではないことを願い続けた。
ずぶ濡れで王宮に戻り、奇妙な格好をしているセイラに驚いたのも束の間、突然セイラが発熱。意識のない状態が続いた時は、ただの風邪と医師が言おうとも、不安で落ち着かなかったが、今日の様子を見れば、しっかりと回復したようだった。
ヴェルヘン侯爵の見送りの際、突然ユリアスの連れとして現れたセイラに気がついた時は、流石に驚いた。いくら兄とはいえ、自分に断りも無くセイラを同行したユリアスにも腹が立ったが、あの場で問いただすわけにもかず、その場はやり過ごした。
その後、軍事パレードの訓練の指揮を取るために闘技場へ向かい、ようやく空き時間となり奥宮へ戻ると、サリーが困惑した様子で、セイラが部屋に閉じこもっていると報告する。
すばしっこく逃げ回るセイラを捕まえ、ようやく事の次第が明らかになってみれば、セイラの早とちりが原因だった。考えてみれば、この3年の間に起きた王宮内の内情を知らないセイラが、自分がサーシャを連れているのを目にすれば、あれが妃だと勘違いしても決しておかしくない状況ではあった。しかし、まさかそれが、あのように深く悲しみ涙を流していた理由だったとは。
思い違いであったと知った時のセイラの動揺と恥じらう様子に、胸が激しく騒いだ。
抑えていた熱い想いが暴れだすのを押し留めようとしていた矢先に、ふいにセイラが自分に手を伸ばし、潤んだ瞳を向けた。
セイラが消え入るような声で口にした言葉。
側に居たいと。
そして、この自分が、好きだと。
炎の矢で心臓を貫かれたような衝撃を受けた。
一瞬で全身に火が回るような感覚が走る。
猛烈に込み上げてくる、燃えるような感情。
押し寄せる激しい衝動。
もはや制御不能となったこの胸の昂りこそ、愛しいという言葉でしか現せないと確信した瞬間だった。
自分は、この娘を愛しているのだ。
想いを通じ合わせるこということが、これほど胸を震わせるものだとは。
両腕を広げれば、自ずからこの胸に飛び込んでくるセイラ。
輝くような笑顔と、迷いの無い、まっすぐな眼差し。
口づけた後に見せる、夢見心地の瞳。
カスピアンは、自分自身のみならず、己の身を置く世界が変わったことに気がついた。
この先の未来を描く時、そこには必ずセイラの姿もある。
これほど満たされた気持ちになったことはなかった。
カスピアンは穏やかな笑みを浮かべると、眠るセイラを抱き上げてベッドへ運んでやる。
静かに寝かせてやり、自分の上着をまだ掴んでいる手を取りそっと外すと、セイラが一瞬、身じろぎをしてうっすらと目を開いた。起こしてしまったかと思っていると、セイラは、両手を伸ばしてまた上着を掴み、ゆっくりと目を閉じた。
幸せそうに微かな微笑みを浮かべ、眠りに落ちていく。
その愛らしい仕草とあどけない寝顔に、カスピアンはくすりと笑いを漏らした。
深い眠りに落ちるまでは、側にいてやろう。
いつかのように隣に身を横たえ、セイラを胸に抱き寄せると、花畑にいるような優しい香りに包まれる。
幸福とは、これほど甘く穏やかなものなのか。
艶やかな漆黒の髪に指を絡ませ、その白い首筋に口づけを落としながら、カスピアンはひとつ、深呼吸をした。
その一言の重みは、計り知れないほど大きな衝撃を私に与えた。
私の目を捕らえて離さない彼の強い眼差しに、夢ではないのだと確信する。
まるで、これまで視界を遮っていた霧が一瞬で晴れ、とてつもなく美しい世界に足を踏み入れたような気がした。
胸いっぱいに広がる熱い感情に、私はこれほど彼に惹かれていたのだと知る。
その精悍な頬に手を触れると、栗色の巻き毛がはらりと落ちて来た。
カスピアンはゆっくりと瞬きをした。
うっすらと赤みを帯びた目元に指を走らせると、彼はもどかし気に私を抱きしめる腕に力を込める。
「……煽るな」
怒っているような低い声に、慌てて手を引っ込めた。
「歯止めが利かなくなるぞ。もともと耐えるのは苦手だ」
押し殺した声で囁かれて、カッと頬が熱くなり、身を縮めた。
息を潜めじっとしていると、やがて、静かなため息が聞こえて、カスピアンが私の額に唇を寄せた。
「神々の元で誓いを立て、おまえを名実共に妃とする婚儀まで、あと僅か」
カスピアンが、待ちきれないというようにきつく私を抱きしめた。
「これ以上、生殺しにされるのは敵わぬ」
ぞくぞくするような甘い響きをまとう低い声が、私の心臓を射抜く。
ドキドキと激しく鼓動する心臓の音が、頭の中にうるさく響いている。
じっとしているのも苦痛なくらいの胸の高鳴り。
未だかつて、これほどの幸せを感じた事はなかった。
この気持ちを言葉で今すぐに伝えたいという強い衝動を、とても抑えることなんて出来ない。
ついに我慢出来なくなり、私はまた手を伸ばし、カスピアンの頬を引き寄せると、彼の耳元で、愛してる、と囁いた。
次の瞬間、彼が私の頬を引き寄せて唇を重ねた。
目を閉じて、熱が溶けあうような激しい口づけに身を委ねる。
数えきれないくらい何度も口づけを交わしているうちに、体中の力が抜け、くったりと脱力してしまった。カスピアンは私の髪を掻き上げ、首筋にひとつ口づけを落としてから、しっかりと胸に抱きしめてくれた。
天にも昇るような幸福感に包まれて、温かい彼の胸の中で深呼吸をする。
ここは私だけの安らぎの場所なのだと思うと、嬉しさのあまり叫び出したいくらいだった。
しばらくの間、落ち着きを取り戻すかのように、カスピアンはゆっくりと私の髪を手で梳いていた。
心地よさにうっとりと目を閉じ、じっとしていたが、ふと、先ほどのことを思い出した。
「どうしてすぐに、私が隠れている場所がわかったの?」
バルコニーへのドアも開け放してあったのに、正妃の間もバルコニーも探すこともなく、まっすぐに王子の間へ来た事が解せない。
すると、カスピアンが目を細め、余裕の笑みを浮かべた。
「おまえの歩いたところは絨毯を見ればすぐにわかる」
「絨毯?」
つまり、毛足の長いふかふかの絨毯に、私が歩いた跡が残っていたということらしい。
そんな簡単にバレていたと知り落胆する。
「次回はもっとうまく隠れてみせるから」
悔しくて負け惜しみを言うと、カスピアンがくすりと笑いを零し、私の鼻をつまむ。
「その生意気な口がいつまでもつか。すぐに骨抜きにしてやる」
自信たっぷりにそう言うと、私の手のひらに口づけを落とし、上目遣いで私の反応を見るカスピアン。彼の挑発的な眼差しにドキドキしている私の様子が期待通りだったのか、彼は満足げに笑いを零した。
カスピアンは大きなため息をつくと、ようやく身を起こした。
私の両手を引いて、ベッドから立ち上がる。
「おまえに見せたいものがある」
頷いて、手を引かれるままに後をついていく。
衛兵が警護する王子の間から出ると、螺旋階段を上り始めた。
「今はもう、国王の間を使っている」
「あ、そうだよね。もう、国王になったから……」
隣の王子の間に人の気配がしなかったのは、実際、使用されていないからだと納得する。
現在、前国王や二人のお妃様は別のところに住んでいるということらしい。
上階も、回廊の至る所に、決まった間隔で衛兵が立ち並び警備をしている。
「あちら側が国王の間だ」
右手にある大きな深紅の扉には、金色の王家の紋章が刻まれている。
左の奥のほうは現在改装中のようで、天井から巨大なキャンパス生地が吊るされていた。この時間は工事をしていないのか、物音はせず、ただぼんやりとした灯りがキャンパスごしに見えるだけだ。
衛兵がキャンパス生地の綴じ目の紐を解いて開く。
カスピアンに続いてその内部に足を踏み入れた。
そこは走り回れそうなくらい広い空間。
まだ間仕切りも家具もない。
だが、美しい彫刻がされた柱や壁の模様、天井画の色彩が、とても鮮やかであることから、内装は完成しているようだった。
ぐるりとあたりを見渡したカスピアンの視線を追い、最後に頭上の天井画に目が止まる。
ラベロア王国の信仰する神々の物語から切り取られた様々な場面が、金、銀を含む美しい発色の顔料で描かれていた。太陽神テグロス、大地の女神ディアナ、その娘である音楽の女神エランティカ、その他たくさんの神々の姿が、巨大な天井一面を埋め尽くしている。
「わぁ……」
その圧倒的な神々しさと、筆舌しがたい美しさに深い感銘を受ける。
素晴らしい天井画に心を奪われていると、カスピアンが私を後ろから抱きしめて、同じように頭上を見上げた。
「ここはもともと、代々国王の第二、第三妃達が使っていた部屋があったが……」
カスピアンが部屋の中央あたりを指差した。
「ここにあった壁を取り壊し空間を繋げたのだ。おまえが戻る少し前に、天井画と内装が完成し、これから仕上げに取りかからせる」
「とても広いお部屋だね。どうやって使うの?」
「ここは、おまえと私が使う部屋になる」
「貴方と私の……?」
驚いて振り返ると、微笑むカスピアンが私を見下ろしていた。
「妃は一人と決めたのだ。これまでのように複数の妃の間をおく必要はない」
その言葉に、心が震えるほどの喜びで鳥肌が立つ。
嬉しくて思い切りカスピアンに抱きつくと、彼は意味ありげに目を細めて私を見下ろした。
「3年前、王子の間から正妃の間への扉が開かぬよう小細工した不届き者いたが、二度と同じ工作は出来ぬようになる」
以前、カスピアンが勝手に部屋へ入って来れないように、衣装箱などを扉の前に積み立てたことを思い出し、ばつが悪くなり首をすくめた。
「つい今しがたも、扉の前にカウチを移動させるなど、おまえは全くもって油断がならぬ」
「あれはだって、理由が……」
弁解しようとしたが、あれは、結果的には私の思い込みからくる誤解だったことを思い出し、口をつぐむ。
「己の妃に会うのに、わざわざ扉を通らねばならぬなど馬鹿げている」
きっぱりと言い放つカスピアン。
この広々としたスペースが二人で過ごせる場所になるという、夢みたいな構想にわくわくしてくる。
言って見れば、大きなアパート、一世帯分と呼んでも余裕の空間。王宮という場所を忘れてリラックス出来る、本当にプライベートな空間になりそうだ。
「間仕切りや家具も、おまえの意見を取り入れようと思っているが、どうだ、何か希望はないか」
「うん、有り難う。考えてみるね」
素直にお礼を言って、頷く。
「窓も大きくて明るそう。それに本当にすごく広い……」
視線をずっと向こうの壁に向けた。
家具を入れ、バスルームや衣装部屋を二人分作ったとしてもありあまる広さだろう。
一体どんなレイアウトになるのだろうとワクワクしながら周りを見渡す。
「近日中に竪琴も王宮へ届く予定だ」
「有り難う、カスピアン」
嬉しくて素直にお礼を述べて笑顔で見上げると、彼はくすりと笑った。
「礼はアンリに言ってやれ」
「えっ?」
「竪琴を復元したのはアンリだ。ヘレンと共に、必要な木材を求め遠くまで出向き、現地に留まり、何度も試作を重ね、ついに完成させてくれた」
優しい微笑みを浮かべたカスピアン。
思いもかけない事実に、ものすごく驚くと同時に感激した。
以前、アンリが私のために、竪琴を作れないかといろいろ調べていた事を思い出す。
きっと、他の誰でもないアンリが作った竪琴だからこそ、魔法の力を発揮してくれたに違いない。
感動と喜びで思わず身震いする。
「アンリが、私のために……」
「二人とも、おまえが戻って来たことは知らずに帰路についている。さぞかし驚く事だろう」
目を細め楽し気に笑みを浮かべたカスピアン。
私が竪琴のお陰でラベロア王国へ戻って来たと知る時の、アンリとヘレンの驚く顔を想像してみる。
きっとものすごくびっくりして、腰を抜かしてしまうかもしれない。
その瞬間が楽しみだ!
早く、二人に会いたい!
居ても立ってもいられない興奮のあまり、ぎゅうとカスピアンの背を抱きしめた。
落ち着きの無い私を見下ろし、カスピアンは私の顔を覗き込んだ。
「おまえがこのような笑顔をみせるとはな」
「……どういう意味?」
いつも私がふてくされているとでも言いたいのかとムッとしながらも、嬉しさは隠しきれず、つい頬が緩んでしまう。
「貴方がいつも怖い顔してたから、私はびくびくしてたのに!」
「そうか。だが、怯えている顔も悪くないぞ」
意味深な視線をこちらに向けたカスピアン。
何か悪巧みをしているような怪しい眼差しに思わず身構えると、カスピアンが私の背中にある帯紐の結び目を掴んだ。
突然何事かと目を見開くと、彼は身を屈めて私の耳元に唇を寄せた。
「これを解き、すべて剥ぎ取る時のおまえが見たい」
「えっ」
荒っぽく両腕で引き寄せられ、力強く抱きしめてくるカスピアン。
「一日も早く、おまえのすべてを我がものにしたい」
「カ……カスピアン!」
恥ずかしくなって両手で彼の口を塞いだ。
あまりにも突然にヒートアップする、色気たっぷりの物言いについていく余裕がない。
「その時が来れば、どれほど愛しく想っているか、嫌という程思い知らせてやる」
苛立つようにそう呟いたカスピアンが、口を覆っていた私の手を振りほどくと、噛み付くように口づけてくる。静けさだけが広がる空間で、夢のように幸福な一時が過ぎて行った。
テーブルの上のキャンドルの火が、ちらちらと揺れて、空になったティーカップやグラスを照らしている。
時折ふっと目を閉じては、ハッとしたように目を開き顔をあげるセイラ。
「疲れただろう」
カスピアンは笑いを堪えながら、眠気と必死に戦っている様子のセイラの頭を撫でた。
「ううん、まだ、大丈夫……」
慌てたように首を振り、何度も繰り返しているその頑固な言葉も、回を追うごとにだんだんと弱々しくなっていく。
あれから、カスピアンはセイラと共に夕食を取り、人払いをした後、部屋でずっと話をしていた。
セイラは、自分が生まれ育った世界について事細かに説明し、カスピアンの質問にも一生懸命答えていた。カスピアンにとって、未知なる世界の話はとても興味深いものであるだけではなく、それは、セイラという人物を知るのに非常に重要な情報だった。
気がつけば、すっかり夜が更けるまで話し込んでいたのだが、だんだん、セイラが眠気に襲われ始めたのに気がついた。切り上げる頃合いかと思い、何度か声をかけたが、本人は頑に眠くないと言い張って、話を止めようとしない。
会話の間の沈黙が長くなり始め、カスピアンが試しにしばらく黙っていると、ついにセイラは力が抜けたように頭を垂れ、カスピアンの腕の中で動かなくなった。
ゆったりとカウチに腰掛けていたカスピアンは、自分の腕の中で眠りに落ちたセイラの顔を覗き込んだ。
安心しきったように、微かな寝息をたてて眠っている。
セイラが心地よく眠れるよう、横抱きにしようとして、その両手がまだ、自分の上着を掴んでいるのに気がつき、くすりと笑いを零した。
近い未来に、この繊細な白い手が紡ぎだす、美しい竪琴の音色を聴く事が出来るだろう。
その時が待ち遠しい。
カスピアンは、二つの世界を繋げる、摩訶不思議な竪琴とその神々しい音色に思いを馳せる。
3年前、セイラが姿を消した時、それが壊れた竪琴と関係しているという確信があった。
そのためカスピアンは、セイラを取り戻すには、何よりもまず、竪琴を復元しなければならないと考えた。
サリーから、アンリが竪琴を作ろうとしていると聞き、早速アンリとヘレンを宮殿に呼びつけた。竪琴を復元するためのすべての助力を保証し、必要だという木材のある遠い山脈へアンリとヘレンを行かせた。もちろん、楽器作りに詳しい職人や警備部隊も同行させ、出来うる限りの援助をしてやった。
思いのほか竪琴の復元が難しく、何度も試作を重ねる事3年、ようやく満足のいく竪琴が出来たと報告が入った。
既に3年もの月日が経ち、まったく手がかりも見つからないセイラの行方。
しかも、セイラがラベロア王国に現れた時に身につけていた純白のドレスも、あれだけ厳重に保管していたにも関わらず、いつの間にか跡形も無く消えていた。
セイラが存在していたという証拠さえなくなった事実は、カスピアンを大きく動揺させた。
カスピアンの我慢も限界に近づいていたが、断じて諦めてはならないと己を戒めた。
竪琴はすでに現地を離れ、王都で待つ自分のもとへ向かっている。
セイラを初めて目にしたあの湖畔に、エランティカの神殿を建て、復元した竪琴を保管し祀れば、セイラは戻ってくるかもしれないと思い立つ。
早速その日の夕刻、湖畔へ下見に向かったものの、夏の終わりを告げる嵐の訪れと重なる。天候の悪化を察した護衛より、王宮へ戻り下見は後日改めた方がよいとの進言を受けた。
やむなく王宮へ引き返しかけたところに、湖畔に侵入者の気配があったとの報告が入った。セイラが消えてから、あの山は女神エランティカを祀る神聖な場所として、入山を禁じ、常時警備を行っている状態だった。それにも関わらず、侵入者がいたと聞き、激怒したカスピアンは、王宮へ戻る代わりに湖畔へと舞い戻った。
暴風の吹き荒れる薄暗い草むらで拘束されている少年を見て不審に思い、侵入した動機を問いただすことにする。兵士が捕縛していた少年の目隠しや猿ぐつわを外すなり、突然、長い髪が空中に巻き上がったのを目にし、はっと息を飲んだ。
暗闇でぼやけるその姿を確認しようと目を凝らしたその時、風の音に紛れ微かに聞こえた、自分の名を呼ぶ声。雷に打たれたような衝撃を受け、持っていた剣を取り落とした。
吹き荒れる風で激しく舞い上がるその髪に手を伸ばし、忘れることが出来ないひんやりとした絹糸のような手触りを感じた時、それが現実に起きているかどうかわからないほどに動揺した。
大きく目を見開いて自分を見上げている娘。それが間違いなく、ずっと探していたセイラだと確信した瞬間、もう周りの音は何も聞こえなくなった。
激しく打ち付ける雨の中、セイラを抱いて王宮へ馬を走らせながら、カスピアンは何度も、心の中で神を呼び、これが幻ではないことを願い続けた。
ずぶ濡れで王宮に戻り、奇妙な格好をしているセイラに驚いたのも束の間、突然セイラが発熱。意識のない状態が続いた時は、ただの風邪と医師が言おうとも、不安で落ち着かなかったが、今日の様子を見れば、しっかりと回復したようだった。
ヴェルヘン侯爵の見送りの際、突然ユリアスの連れとして現れたセイラに気がついた時は、流石に驚いた。いくら兄とはいえ、自分に断りも無くセイラを同行したユリアスにも腹が立ったが、あの場で問いただすわけにもかず、その場はやり過ごした。
その後、軍事パレードの訓練の指揮を取るために闘技場へ向かい、ようやく空き時間となり奥宮へ戻ると、サリーが困惑した様子で、セイラが部屋に閉じこもっていると報告する。
すばしっこく逃げ回るセイラを捕まえ、ようやく事の次第が明らかになってみれば、セイラの早とちりが原因だった。考えてみれば、この3年の間に起きた王宮内の内情を知らないセイラが、自分がサーシャを連れているのを目にすれば、あれが妃だと勘違いしても決しておかしくない状況ではあった。しかし、まさかそれが、あのように深く悲しみ涙を流していた理由だったとは。
思い違いであったと知った時のセイラの動揺と恥じらう様子に、胸が激しく騒いだ。
抑えていた熱い想いが暴れだすのを押し留めようとしていた矢先に、ふいにセイラが自分に手を伸ばし、潤んだ瞳を向けた。
セイラが消え入るような声で口にした言葉。
側に居たいと。
そして、この自分が、好きだと。
炎の矢で心臓を貫かれたような衝撃を受けた。
一瞬で全身に火が回るような感覚が走る。
猛烈に込み上げてくる、燃えるような感情。
押し寄せる激しい衝動。
もはや制御不能となったこの胸の昂りこそ、愛しいという言葉でしか現せないと確信した瞬間だった。
自分は、この娘を愛しているのだ。
想いを通じ合わせるこということが、これほど胸を震わせるものだとは。
両腕を広げれば、自ずからこの胸に飛び込んでくるセイラ。
輝くような笑顔と、迷いの無い、まっすぐな眼差し。
口づけた後に見せる、夢見心地の瞳。
カスピアンは、自分自身のみならず、己の身を置く世界が変わったことに気がついた。
この先の未来を描く時、そこには必ずセイラの姿もある。
これほど満たされた気持ちになったことはなかった。
カスピアンは穏やかな笑みを浮かべると、眠るセイラを抱き上げてベッドへ運んでやる。
静かに寝かせてやり、自分の上着をまだ掴んでいる手を取りそっと外すと、セイラが一瞬、身じろぎをしてうっすらと目を開いた。起こしてしまったかと思っていると、セイラは、両手を伸ばしてまた上着を掴み、ゆっくりと目を閉じた。
幸せそうに微かな微笑みを浮かべ、眠りに落ちていく。
その愛らしい仕草とあどけない寝顔に、カスピアンはくすりと笑いを漏らした。
深い眠りに落ちるまでは、側にいてやろう。
いつかのように隣に身を横たえ、セイラを胸に抱き寄せると、花畑にいるような優しい香りに包まれる。
幸福とは、これほど甘く穏やかなものなのか。
艶やかな漆黒の髪に指を絡ませ、その白い首筋に口づけを落としながら、カスピアンはひとつ、深呼吸をした。
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