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二章
4話
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宿へ戻る頃には、もうすっかり街は動き出していた。朝の慌ただしさだ。大きな街であるほど、それは大きいらしい。俺、この感じあまり好きじゃないんだよな。機嫌の悪い人多い時間帯だし。
「あれ? 母さん……」
宿の入り口のすぐ前で、母ライカが見知らぬ男と何やら話していた。母さんは珍しく眉間に皺寄せて機嫌悪そうな顔してた。いつもは朝から元気一杯で、それが昼頃には二杯目追加で、夕方頃には四杯目追加になってるような人なのに。
「確かな筋の話だ。目撃者が何人もいる」
「……そうかい、ありがと」
そんなやり取りがあった後、男は母の前から足早に立ち去った。これ、大きな何かがあったよな。母さんが、立ち尽くしてしかめっ面のままだ。
「リデル……」
母は、俺の存在にようやく気付くと、のしのしと歩み寄って来た。顔も険しいし、地を踏み締める足音に怒気がこもってる。あ、これ叱られるやつだ。
「どこ行ってたんだい? まったく、もう」
母ライカは俺を抱え上げると、その大きな胸の狭間へ俺の顔を埋めた。柔らかだけど、苦しい。抵抗出来ない。母さんの怪力を、大きな力を思い知らされる。母なりの折檻だ。
「さ、散歩してたんだよ。ちょっと、冒険したくて……」
ここは嘘は吐かない方がいい。きっと母の勘でバレる。でも、全部のことは言わない。
「変な奴に絡まれなかったかい?」
俺の頭にルドウィクの姿が浮かんだ。どうしよう。この世界最強の男と母さんとの間に何か因縁があるみたいだから、偶然会って話してました、なんて言えないし。
「丘の上で男の人と会ったよ。そこから見る朝日が綺麗で好きなんだって。変な人じゃなかったよ。いい人だった」
よし、嘘は言ってない。
「……そうかい」
そう言って母は、俺を胸の狭間から解放して下ろしてくれた。地に足を付けると、思わずホッと息が漏れる。
「この街はガラの悪い連中も多いんだ。今のリデルなら、チンピラ程度だったら問題なく腕力でねじ伏せられるけど、そう言った奴らは腕力だけで解決するとも限らない。今度冒険する時は相手しないように気を付けるんだよ」
「……うん、分かったよ」
あれ? 冒険禁止じゃないんだ。しかも、チンピラ、悪い奴の対処法か。
「さ、軽く朝飯食べたら、冒険者ギルドへ行くよ。それと……」
母は屈み込んで俺の眼を覗いた。
「その丘の上で会った男。きっといい奴ってだけの男じゃない。そいつには一番気を付けるんだよ。心も、魂も持ってかれかねない」
母の眼も言葉も鋭かった。
「え……うん」
バレてる。これは俺の勘で確認しようがないけど、母さんは俺がルドウィクと会ったって見抜いている。でも、母の忠告だ。心に留めておこう。だって、俺、あの男に心を持っていかれてたから。
冒険者ギルドは、港と街の北門の中間にある。最も人の往来が多く、商いとしても一等地とされる場所らしい。冒険者はこの国一番の品なんて言われてるぐらいだから、一等地にあって然るべき。ってアディが教えてくれた。
幅広の道。行き交う人と馬車。大きな商店が軒を連ねる中、冒険者ギルドは一際大きな建物だった。
ギルドの入り口付近には、冒険者っぽい形をした人達がたむろしていて、前を通ると品定めするようにジロジロ見られた。まあ、俺とアディは見た目幼児だからね。こんな場所にって思われても仕方ない。でも、この人達、形だけで見るからに、弱い。
「なりたがりが多いね。何かあったか……」
「なりたがり。冒険者になりたくても推薦人も得られす、適正試験にも通らない。冒険者の雑用などをこなして日銭を稼ぐ人達」
アディが辞書を読み上げるかのように淡々と教えてくれた。冒険者に、なりたがりか。そこから下積みをして冒険者になる人もいるんだろうな。でも、蔑視のような呼称だ。あまり口にしたくない。
「おっと、こいつをするの忘れてた。ダサいんだけどね」
母ライカは冒険者証を取り出すと、ネックレスになっているそれを首へ通した。六つ星の円の中央に一つ大きな星。七つ星、最高位冒険者の証だ。
「おい……七つ星だ」
「嘘だろ……」
「初めて見たよ……」
そんな、なりたがり達の声を置き去りにするように、母はギルドの扉を開け中へ入って行く。俺とアディは並んでその後に従った。少し誇らしい気分だった。
中へ入った途端、母へ視線が注がれた。
二階部分まで吹き抜けの天井に、レオナルド村長宅の居間五つ分はありそうな大広間。そこへ百人は優に上回る冒険者達がいた。皆死線は超えているんだろう。面構えや立ち姿にそれなりの威風を感じる。だけど、母ライカとは比べるまでもないって俺にも分かった。
母が歩くと、人と人が避けて道が出来た。ライカ・カザク。その名を知る声が幾つか薄く聞こえて来た。
「ラ、ライカさん! お久しぶりです!」
甲高い声がした。目を遣ると、奥に受付のようなカウンターがあり、その向こうで瑠璃色の髪の女性が立ち上がるのが見えた。
「エミリア。久しぶりだね。また、世話になるよ」
そう母は瑠璃色の髪の女性へ片手を挙げ挨拶をした。昔から見知った間柄らしい。母は彼女の前へ歩き、カウンターに肘をかけた。
このエミリアって人がこのギルドの受付嬢か。他にもカウンターの向こう側に四人女性が座っていた。それぞれ忙しそうに書類に筆を走らせたり、冒険者に何やら対応したりしていた。
「この街のギルドも大きくなったね。番台に五人も座ってる。エミリアがその真ん中ってことは、リーダーかい。あんたも出世したね」
「えへへへ。長いですから。五年ぶりくらいでしたっけ。ライカさん、お肌ツヤツヤ。昔よりもっと色っぽくなりましたよね」
エミリアはハキハキ話す人だな。表情も和かで、少女の雰囲気も残ってる美人さんだ。
「ありがと。長いこと戦わず、母親やってたからね。で、今日はアタシの親バカ七つ星特権で、この子らを冒険者に推薦してやろうと思ってね」
母は、後ろに隠れていた俺とアディを前へ押し出した。エミリアの視線が降りて来る。
「カワイイ!」
「この見るからに天才がアタシの子リデル。で、こっちの美少女で天才が、友人の子アディ・グリンヴェルさ」
母さん、毎度この紹介やるつもりかな。ちょっと、恥ずかしい。アディはどう思っているんだろ? 無表情に頷くこれは、肯定? いや、分からない。まだまだ、アディを読み取るのは難しい。
「そっか。そうなんですね。あの……でも、最近ルールが変わっちゃいまして……」
エミリアの歯切れが急に悪くなる。
「なんだい?」
「ここ数年、新規冒険者の死亡が多発していてですね。原因は推薦の乱発ってことになっちゃいまして……」
「なるほどね。金で推薦人買うことが横行してるって噂、本当だったみたいだね」
「推薦の場合、五つ星以上の二名からってことになってしまって……」
「そいつは参ったね。レオナルドのやつを……って、あいつは冒険者引退してるんだった。じゃあ、適正試験はどうだい? 日程は?」
「それは、その……もっと面倒なことが起きてしまいまして……未定に……」
エミリアの歯切れが更に悪くなった。
「未定? そんなこと、今まで一度も……いや、これは相当な何かが起きたね。魔族絡みだろ?」
母の眼光が鋭くなる。それに気圧されたのだろう。エミリアの表情に恐れが走った。
「……は、はい。七つ星冒険者ライカさんにならお話しします。あの、ここではなんなので、奥のお部屋へ」
エミリアについて行く。そこは子綺麗な応接間と言った感じの部屋だった。わざわざこんな部屋で話さなければならないことなんて、大事なんだろうって俺にも分かった。
「情報統制かい。アタシが知っているのは、上級魔族が出現して、討伐の為にかの光を成す者が呼び出されたってとこまでだよ」
綿が詰まった高そうな椅子へドカリと腰を下すなり、母は切り出した。
「そこまでご存じなら、お察しだと思いますが……」
エミリアが手早くお茶を淹れながら答えた。陶器製のポットへ魔法を使うのが見えた。この人も中々の使い手だ。容器を割らず溶かさず、一瞬で湯が沸いた。
出されたお茶は紅茶に何かのハーブをブレンドしたような複雑な味がした。前世でも飲んだことないし、村でモロウ茶しか飲んだことのない現世の俺にとっても新鮮だった。
「魔族は通常、西の魔大陸からやって来る。ミドガルズ大陸との海峡を渡ってね」
「障壁の海、ダ・バリェーラ。そこから魔族の侵攻を食い止める為、ヴァルノス帝国の海峡に面する一地方が特別区に認定され、精鋭騎士団の直轄領となった。アヴェリア騎士団領。人類守護の要の地と言われている」
「すごい……アディちゃんだっけ。あなたその年頃でよくそんなことを」
エミリアはオーバーリアクション気味に驚いてたけど、これがこの人の素なんだろうな。
「言ったろ。この子は美少女で天才なのさ。で、この国へ上級魔族が出現したってことは、その人類守護の要を、更にヴァルノス帝国を抜かれたってことになるね。だけど……」
「はい。上級と言えど、一体の魔族であの騎士団領を抜けるとは思えません。人類の精鋭が集うあの場所を……」
「そうだね。アタシも武者修行で騎士団領に一年ほど居たことはあるけど、あそこは化け物の巣さ。魔族よりずっと怖い戦士や魔法使いがゴロゴロいる」
母ライカが化け物なんて言うんだ。相当すごい人達がいるんだろう。俺もいつかは、強くなる為に行くのかな。一瞬、ルドウィクとの約束が頭をよぎった。
「ヴァルノス帝国は何事もないかのように沈黙してますが、ここエレスティア共和国の上層部はこう考えています。アヴェリア騎士団領に、魔族の大軍が現れた。大軍を率いるには……」
エミリアは口を噤んだ。その先の言葉が出ない、出したくないらしい。
「魔王、が出現したってことかね。元々魔族は群れない。群れたとしても、数十体程度の小集団さ。だけど、魔王が出現した時だけ、一国を成すほどの大軍勢を形成する。よく分からない魔族の習性さ」
「でも、魔王なんて千年も出現しなかったのに……」
「それは……」
母さんは何故か俺の方をチラリと見た。何だろ? 俺がいることで話し難いことでもあるのかな?
「まあ、何にせよ。調査中ってことだろ。エレスティアも、世界各国も。で、その影響で冒険者適正試験も中止。実施の予定も未定」
「はい。政府で調査団を結成すると下手にヴァルノスを刺激してしまうので、精鋭の冒険者を集めて秘密裏に調査団を送りました。そこへ、適正試験の試験管を務める冒険者も何人か含まれています」
「それで試験が中止って、人材不足だね」
「はい。お恥ずかしい話、最近は冒険者の量だけ増えまして、質は胸を張って良いと言える状況ではなく……」
俺がギルドに入った時に感じたことは正しかったのか。母さんはもちろんだけど、あそこに村長レオナルドにも並ぶ冒険者はいないように思えた。
「まあ、しょうがないさ。適正試験の予定が立ったら、シュバルツ村へ便りが届くように手配しといておくれ。アタシの読みじゃ、そう先の話じゃない。ここいらに現れた上級魔族も、騎士団領に現れた魔王もどきも、すぐに討たれるよ」
「あの、それは、光を成す者が、動き出したからですか?」
エミリアの歯切れが悪い。多分、この人もルドウィクと母さんの因縁を知っている。
「そうさ。あいつ、今朝方にこの街へ現れて、愛馬で跳び回ってたらしいからね」
俺は手に持っていたお茶をこぼしかけた。やっぱり、母さん知ってる。
「どうして、ライカ姐さん? ルドウィクって人、明日船に乗ってやって来るはず」
アディが無機質な眼を母さんへ向ける。この子頭はすこぶるいいけど、察するってことはまだまだなのかもしれない。ルドウィクって名を母ライカの前で出さない方がいい。その名を聞くと、母さんの中で雷の一筋が走るんだよな。小さく抑えてるけど、分かってしまう。
「世界最強のあいつは、世界で誰も縛り付けることが出来ないのさ。貴族だろうと、王だろうと。人間の誰にもね」
母さんは遠い眼をしながら、親指の爪を噛んだ。母のこんな仕草、初めて見た。
「あの、母さん。もう村へ帰ろうよ。適正試験の為に、早く修行もしたいし」
俺は足踏みして、じっとしてられないって仕草を見せた。きっと時期が悪い。今母さんはこの街にいちゃいけない。
「そうだね。帰るとするか。また、海のごちゃ混ぜパイを食べがてら、試験を受けに来ればいいさ」
「うん。あのパイ美味しいよね。俺また食べたい」
「アディも」
こう言う時、子供の無邪気さは武器になる。母さんに笑顔が戻った。
「エミリア、邪魔したね。便りの件よろしく頼むよ。じゃ、またね」
そんな感じで、俺達は冒険者ギルドを後にした。冒険者になれなかったのは少し残念だけど、適正者試験って言う目標らしい目標も出来た。自分の力がどれほどのものか推し測るのに丁度いい機会だ。
「あれ? 母さん……」
宿の入り口のすぐ前で、母ライカが見知らぬ男と何やら話していた。母さんは珍しく眉間に皺寄せて機嫌悪そうな顔してた。いつもは朝から元気一杯で、それが昼頃には二杯目追加で、夕方頃には四杯目追加になってるような人なのに。
「確かな筋の話だ。目撃者が何人もいる」
「……そうかい、ありがと」
そんなやり取りがあった後、男は母の前から足早に立ち去った。これ、大きな何かがあったよな。母さんが、立ち尽くしてしかめっ面のままだ。
「リデル……」
母は、俺の存在にようやく気付くと、のしのしと歩み寄って来た。顔も険しいし、地を踏み締める足音に怒気がこもってる。あ、これ叱られるやつだ。
「どこ行ってたんだい? まったく、もう」
母ライカは俺を抱え上げると、その大きな胸の狭間へ俺の顔を埋めた。柔らかだけど、苦しい。抵抗出来ない。母さんの怪力を、大きな力を思い知らされる。母なりの折檻だ。
「さ、散歩してたんだよ。ちょっと、冒険したくて……」
ここは嘘は吐かない方がいい。きっと母の勘でバレる。でも、全部のことは言わない。
「変な奴に絡まれなかったかい?」
俺の頭にルドウィクの姿が浮かんだ。どうしよう。この世界最強の男と母さんとの間に何か因縁があるみたいだから、偶然会って話してました、なんて言えないし。
「丘の上で男の人と会ったよ。そこから見る朝日が綺麗で好きなんだって。変な人じゃなかったよ。いい人だった」
よし、嘘は言ってない。
「……そうかい」
そう言って母は、俺を胸の狭間から解放して下ろしてくれた。地に足を付けると、思わずホッと息が漏れる。
「この街はガラの悪い連中も多いんだ。今のリデルなら、チンピラ程度だったら問題なく腕力でねじ伏せられるけど、そう言った奴らは腕力だけで解決するとも限らない。今度冒険する時は相手しないように気を付けるんだよ」
「……うん、分かったよ」
あれ? 冒険禁止じゃないんだ。しかも、チンピラ、悪い奴の対処法か。
「さ、軽く朝飯食べたら、冒険者ギルドへ行くよ。それと……」
母は屈み込んで俺の眼を覗いた。
「その丘の上で会った男。きっといい奴ってだけの男じゃない。そいつには一番気を付けるんだよ。心も、魂も持ってかれかねない」
母の眼も言葉も鋭かった。
「え……うん」
バレてる。これは俺の勘で確認しようがないけど、母さんは俺がルドウィクと会ったって見抜いている。でも、母の忠告だ。心に留めておこう。だって、俺、あの男に心を持っていかれてたから。
冒険者ギルドは、港と街の北門の中間にある。最も人の往来が多く、商いとしても一等地とされる場所らしい。冒険者はこの国一番の品なんて言われてるぐらいだから、一等地にあって然るべき。ってアディが教えてくれた。
幅広の道。行き交う人と馬車。大きな商店が軒を連ねる中、冒険者ギルドは一際大きな建物だった。
ギルドの入り口付近には、冒険者っぽい形をした人達がたむろしていて、前を通ると品定めするようにジロジロ見られた。まあ、俺とアディは見た目幼児だからね。こんな場所にって思われても仕方ない。でも、この人達、形だけで見るからに、弱い。
「なりたがりが多いね。何かあったか……」
「なりたがり。冒険者になりたくても推薦人も得られす、適正試験にも通らない。冒険者の雑用などをこなして日銭を稼ぐ人達」
アディが辞書を読み上げるかのように淡々と教えてくれた。冒険者に、なりたがりか。そこから下積みをして冒険者になる人もいるんだろうな。でも、蔑視のような呼称だ。あまり口にしたくない。
「おっと、こいつをするの忘れてた。ダサいんだけどね」
母ライカは冒険者証を取り出すと、ネックレスになっているそれを首へ通した。六つ星の円の中央に一つ大きな星。七つ星、最高位冒険者の証だ。
「おい……七つ星だ」
「嘘だろ……」
「初めて見たよ……」
そんな、なりたがり達の声を置き去りにするように、母はギルドの扉を開け中へ入って行く。俺とアディは並んでその後に従った。少し誇らしい気分だった。
中へ入った途端、母へ視線が注がれた。
二階部分まで吹き抜けの天井に、レオナルド村長宅の居間五つ分はありそうな大広間。そこへ百人は優に上回る冒険者達がいた。皆死線は超えているんだろう。面構えや立ち姿にそれなりの威風を感じる。だけど、母ライカとは比べるまでもないって俺にも分かった。
母が歩くと、人と人が避けて道が出来た。ライカ・カザク。その名を知る声が幾つか薄く聞こえて来た。
「ラ、ライカさん! お久しぶりです!」
甲高い声がした。目を遣ると、奥に受付のようなカウンターがあり、その向こうで瑠璃色の髪の女性が立ち上がるのが見えた。
「エミリア。久しぶりだね。また、世話になるよ」
そう母は瑠璃色の髪の女性へ片手を挙げ挨拶をした。昔から見知った間柄らしい。母は彼女の前へ歩き、カウンターに肘をかけた。
このエミリアって人がこのギルドの受付嬢か。他にもカウンターの向こう側に四人女性が座っていた。それぞれ忙しそうに書類に筆を走らせたり、冒険者に何やら対応したりしていた。
「この街のギルドも大きくなったね。番台に五人も座ってる。エミリアがその真ん中ってことは、リーダーかい。あんたも出世したね」
「えへへへ。長いですから。五年ぶりくらいでしたっけ。ライカさん、お肌ツヤツヤ。昔よりもっと色っぽくなりましたよね」
エミリアはハキハキ話す人だな。表情も和かで、少女の雰囲気も残ってる美人さんだ。
「ありがと。長いこと戦わず、母親やってたからね。で、今日はアタシの親バカ七つ星特権で、この子らを冒険者に推薦してやろうと思ってね」
母は、後ろに隠れていた俺とアディを前へ押し出した。エミリアの視線が降りて来る。
「カワイイ!」
「この見るからに天才がアタシの子リデル。で、こっちの美少女で天才が、友人の子アディ・グリンヴェルさ」
母さん、毎度この紹介やるつもりかな。ちょっと、恥ずかしい。アディはどう思っているんだろ? 無表情に頷くこれは、肯定? いや、分からない。まだまだ、アディを読み取るのは難しい。
「そっか。そうなんですね。あの……でも、最近ルールが変わっちゃいまして……」
エミリアの歯切れが急に悪くなる。
「なんだい?」
「ここ数年、新規冒険者の死亡が多発していてですね。原因は推薦の乱発ってことになっちゃいまして……」
「なるほどね。金で推薦人買うことが横行してるって噂、本当だったみたいだね」
「推薦の場合、五つ星以上の二名からってことになってしまって……」
「そいつは参ったね。レオナルドのやつを……って、あいつは冒険者引退してるんだった。じゃあ、適正試験はどうだい? 日程は?」
「それは、その……もっと面倒なことが起きてしまいまして……未定に……」
エミリアの歯切れが更に悪くなった。
「未定? そんなこと、今まで一度も……いや、これは相当な何かが起きたね。魔族絡みだろ?」
母の眼光が鋭くなる。それに気圧されたのだろう。エミリアの表情に恐れが走った。
「……は、はい。七つ星冒険者ライカさんにならお話しします。あの、ここではなんなので、奥のお部屋へ」
エミリアについて行く。そこは子綺麗な応接間と言った感じの部屋だった。わざわざこんな部屋で話さなければならないことなんて、大事なんだろうって俺にも分かった。
「情報統制かい。アタシが知っているのは、上級魔族が出現して、討伐の為にかの光を成す者が呼び出されたってとこまでだよ」
綿が詰まった高そうな椅子へドカリと腰を下すなり、母は切り出した。
「そこまでご存じなら、お察しだと思いますが……」
エミリアが手早くお茶を淹れながら答えた。陶器製のポットへ魔法を使うのが見えた。この人も中々の使い手だ。容器を割らず溶かさず、一瞬で湯が沸いた。
出されたお茶は紅茶に何かのハーブをブレンドしたような複雑な味がした。前世でも飲んだことないし、村でモロウ茶しか飲んだことのない現世の俺にとっても新鮮だった。
「魔族は通常、西の魔大陸からやって来る。ミドガルズ大陸との海峡を渡ってね」
「障壁の海、ダ・バリェーラ。そこから魔族の侵攻を食い止める為、ヴァルノス帝国の海峡に面する一地方が特別区に認定され、精鋭騎士団の直轄領となった。アヴェリア騎士団領。人類守護の要の地と言われている」
「すごい……アディちゃんだっけ。あなたその年頃でよくそんなことを」
エミリアはオーバーリアクション気味に驚いてたけど、これがこの人の素なんだろうな。
「言ったろ。この子は美少女で天才なのさ。で、この国へ上級魔族が出現したってことは、その人類守護の要を、更にヴァルノス帝国を抜かれたってことになるね。だけど……」
「はい。上級と言えど、一体の魔族であの騎士団領を抜けるとは思えません。人類の精鋭が集うあの場所を……」
「そうだね。アタシも武者修行で騎士団領に一年ほど居たことはあるけど、あそこは化け物の巣さ。魔族よりずっと怖い戦士や魔法使いがゴロゴロいる」
母ライカが化け物なんて言うんだ。相当すごい人達がいるんだろう。俺もいつかは、強くなる為に行くのかな。一瞬、ルドウィクとの約束が頭をよぎった。
「ヴァルノス帝国は何事もないかのように沈黙してますが、ここエレスティア共和国の上層部はこう考えています。アヴェリア騎士団領に、魔族の大軍が現れた。大軍を率いるには……」
エミリアは口を噤んだ。その先の言葉が出ない、出したくないらしい。
「魔王、が出現したってことかね。元々魔族は群れない。群れたとしても、数十体程度の小集団さ。だけど、魔王が出現した時だけ、一国を成すほどの大軍勢を形成する。よく分からない魔族の習性さ」
「でも、魔王なんて千年も出現しなかったのに……」
「それは……」
母さんは何故か俺の方をチラリと見た。何だろ? 俺がいることで話し難いことでもあるのかな?
「まあ、何にせよ。調査中ってことだろ。エレスティアも、世界各国も。で、その影響で冒険者適正試験も中止。実施の予定も未定」
「はい。政府で調査団を結成すると下手にヴァルノスを刺激してしまうので、精鋭の冒険者を集めて秘密裏に調査団を送りました。そこへ、適正試験の試験管を務める冒険者も何人か含まれています」
「それで試験が中止って、人材不足だね」
「はい。お恥ずかしい話、最近は冒険者の量だけ増えまして、質は胸を張って良いと言える状況ではなく……」
俺がギルドに入った時に感じたことは正しかったのか。母さんはもちろんだけど、あそこに村長レオナルドにも並ぶ冒険者はいないように思えた。
「まあ、しょうがないさ。適正試験の予定が立ったら、シュバルツ村へ便りが届くように手配しといておくれ。アタシの読みじゃ、そう先の話じゃない。ここいらに現れた上級魔族も、騎士団領に現れた魔王もどきも、すぐに討たれるよ」
「あの、それは、光を成す者が、動き出したからですか?」
エミリアの歯切れが悪い。多分、この人もルドウィクと母さんの因縁を知っている。
「そうさ。あいつ、今朝方にこの街へ現れて、愛馬で跳び回ってたらしいからね」
俺は手に持っていたお茶をこぼしかけた。やっぱり、母さん知ってる。
「どうして、ライカ姐さん? ルドウィクって人、明日船に乗ってやって来るはず」
アディが無機質な眼を母さんへ向ける。この子頭はすこぶるいいけど、察するってことはまだまだなのかもしれない。ルドウィクって名を母ライカの前で出さない方がいい。その名を聞くと、母さんの中で雷の一筋が走るんだよな。小さく抑えてるけど、分かってしまう。
「世界最強のあいつは、世界で誰も縛り付けることが出来ないのさ。貴族だろうと、王だろうと。人間の誰にもね」
母さんは遠い眼をしながら、親指の爪を噛んだ。母のこんな仕草、初めて見た。
「あの、母さん。もう村へ帰ろうよ。適正試験の為に、早く修行もしたいし」
俺は足踏みして、じっとしてられないって仕草を見せた。きっと時期が悪い。今母さんはこの街にいちゃいけない。
「そうだね。帰るとするか。また、海のごちゃ混ぜパイを食べがてら、試験を受けに来ればいいさ」
「うん。あのパイ美味しいよね。俺また食べたい」
「アディも」
こう言う時、子供の無邪気さは武器になる。母さんに笑顔が戻った。
「エミリア、邪魔したね。便りの件よろしく頼むよ。じゃ、またね」
そんな感じで、俺達は冒険者ギルドを後にした。冒険者になれなかったのは少し残念だけど、適正者試験って言う目標らしい目標も出来た。自分の力がどれほどのものか推し測るのに丁度いい機会だ。
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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