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第9章
異常気象と狐の嫁入り
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同日の夕刻
結子の自宅にあるテレビ画面は「災害レベルの暑さ」「国内10か所40度超」「明日も危険な暑さ」「熱中症で厳重警戒」「死者、負傷者、搬送者 急増」のテロップで埋め尽くされていた。
100年に一度の異常な暑さだというアナウンサーの声が居間に響き渡る。テレビ画面を見ている健彦と鏡子が年を追う毎に酷くなる異常気象現象に危機感を募らせていると、アナウンサーの声と調和するかのように鏡子の携帯電話の着信音が部屋に響く。
鏡子がスマートフォンの画面を見ると電話の相手は結子であった。撮影終わりで寄るところがあるから、帰宅は少しだけ遅くなることを結子から聞かされた鏡子は、気をつけて帰ってくるように結子に伝え電話を切った。
朋友の自宅である神社は、この日も無事に神々への奉仕を終えようとしていた。境内では朋友が頼光に「逆さ川」について疑問に思ったことを聞いていた。
頼光曰く、逆さ川は正式には柳原用水と言って江戸時代初期に作られた人工用水であり、この付近の川は北から南へ流れているのだが、南から北へ逆様に流れているのが逆さ川とのことである。
朋友が頼光からの説明を聞き終える時に、朋友の携帯電話のバイブレーションが静かに音を立てた。
ポケットから透かさずスマートフォンを取り出して画面に手を触れて朋友が応答する最中、頼光には胸に痞えた疑問があり、朋友からどうしてもその答えを聞き出したかったので頼光はひとり話を続けた。
「この間、儂が見た鬼たちのこと何じゃが・・・」
しかしながら、朋友の意識は受話器の向こう側の相手に既に奪われていた。
「あっ、爺ちゃん、また後で!」
そう言い残した朋友は、指でピースマークをしながら口パクで『サンキュー』と頼光に伝え、境内の階段を足早に降りてゆく。
朋友から鬼の話を聞きそびれ残念がる頼光を尻目に、朋友は神域から外に出て鳥居を背に嬉しそうな表情で電話の相手と会話している。勿論、その相手は言わずと知れた結子である。
丁度其処へ朋友の居所を掴んだ雨音の姿をした九尾狐が現れ、物陰から朋友の様子を窺っていた。
「うん、こっちはこれから訓練だから・・・結子は撮影で疲れただろうから、ちゃんと体、休めろよなぁ!」
雨音に憑依した九尾狐は、朋友が口にする「結子」の名を聞き、日中に遭遇した嫁入り姿の姫の名が結子であったことを想い出す。
「あの子ね・・・」
結子と会話している嬉しそうな朋友の姿を垣間見て、朋友の結子に対する一途な想いを知った九尾狐は嫉妬心から結子に対する殺意を漲らせてゆく。
「あれ? 雨音先生」
結子との電話を切った後、雨音の姿を見つけた朋友が声をかけた。
「あっ、朋友君・・・」
雨音に憑依している九尾狐は依然として自らの妖気を完全に隠しているので、朋友は九尾狐の存在を見抜くことが出来ていない。
こんな所でどうしているのかを朋友に尋ねられた雨音は、ちょっと通りがかっただけだと答えをはぐらかし、朋友の表情を艶かしい眼差しでじっと見つめた。
「今、話をしていた子って、朋友君の好きな子でしょ!」
核心を突いた問いを前触れもなく投げ掛けられ、虚を衝かれた朋友の顔は瞬く間に赤面した。
「わかりやすい子ね!」
「ち、違いますよ! 違うって!」
気恥ずかしさが残るので、朋友は照れ隠しにポケットからスマートフォンを取り出して操作しようとするものの妙にぎこちなく、動揺の気配が現れていた。
そんな朋友に対して、雨音は続けて質問する。
例え話として、好きな子のためなら黙ってその子にサヨナラすることが出来るのか?
好きな人と一緒に居たら、その子か自分が死ぬことになる場合、それをわかっていても、その子が一緒に居たいと言えば一緒に居ることが出来るのか?
自分の命を投げ打ってでも、その子の命を守ることが出来るのか?
衷情を披瀝する雨音の態度と投げ掛けられた言葉を真摯に受け止め、自分ならどうするのかを真面目に考える朋友は、実体験していないので何とも言いようがないと答え終えると、雨音に対してなぜ自分にそんなこと聞くのか、先生はそんな経験したことがあるのか、丁寧に聞き返した。
朋友は雨音が経験した過去の出来事を聞かされた。過去に出逢った男性と一緒に居たら何方かが死ぬことになるのに、それをわかっていたのに、その人と一緒にいようとしたことを・・・死ぬかも知れないのに側に居ようとしたことを・・・
朋友は雨音からの言葉を受け取っても、それを上手く咀嚼することが出来ずに、なぜそのような選択をしたのかと雨音に問いかけると情感の深く悲痛なる声が朋友の心に響いて来た。
その人のことが好きだったからであると・・・抱き合って、キスをして、彼を信じて、喜びを分かち合う。それがたとえ短い時間でも、ほんの一瞬でも・・・
彼のことが本当に好きだったから・・・彼が私のことをわかっていたように、私も彼の心を感じていた・・・時間が戻って、また同じ選択に迫られたとしたら、恋をして、恋の花を咲かせて、今度は彼の立場になってあげたいの・・・
雨音(九尾狐)に見つめられた朋友は、今にも吸い込まれそうな双眸に目をやると、その中に燃え盛る情念の炎を見た感じがした。
「は、はい・・・」
そう返事をした朋友に対して、こんな話までしてしまってと言いながら、更に朋友へ体を近づけた雨音は、朋友の耳元で再会を楽しみにしていることを静かに告げた後、その場を去ってゆく。
まるで狐に化かされたかのように朋友は突然の出来事に暫く唖然とした表情で、その場にひとり立ち尽くしていた・・・
この日の夕刻、千年の時を経て全国各地で過去と同じ現象が勃発した。雨音に憑依した九尾狐はひとり涙珠しながら栃◯県内を徘徊する。
突然に起こった狐の嫁入り・・・空を見上げるもの、慌てて傘をさすもの、泣くように落ちて来る雨滴に濡れるものは至るところにいたとしても、事の起こりを知るものは誰一人としていなかった。結子ひとりを除いて・・・
結子の自宅にあるテレビ画面は「災害レベルの暑さ」「国内10か所40度超」「明日も危険な暑さ」「熱中症で厳重警戒」「死者、負傷者、搬送者 急増」のテロップで埋め尽くされていた。
100年に一度の異常な暑さだというアナウンサーの声が居間に響き渡る。テレビ画面を見ている健彦と鏡子が年を追う毎に酷くなる異常気象現象に危機感を募らせていると、アナウンサーの声と調和するかのように鏡子の携帯電話の着信音が部屋に響く。
鏡子がスマートフォンの画面を見ると電話の相手は結子であった。撮影終わりで寄るところがあるから、帰宅は少しだけ遅くなることを結子から聞かされた鏡子は、気をつけて帰ってくるように結子に伝え電話を切った。
朋友の自宅である神社は、この日も無事に神々への奉仕を終えようとしていた。境内では朋友が頼光に「逆さ川」について疑問に思ったことを聞いていた。
頼光曰く、逆さ川は正式には柳原用水と言って江戸時代初期に作られた人工用水であり、この付近の川は北から南へ流れているのだが、南から北へ逆様に流れているのが逆さ川とのことである。
朋友が頼光からの説明を聞き終える時に、朋友の携帯電話のバイブレーションが静かに音を立てた。
ポケットから透かさずスマートフォンを取り出して画面に手を触れて朋友が応答する最中、頼光には胸に痞えた疑問があり、朋友からどうしてもその答えを聞き出したかったので頼光はひとり話を続けた。
「この間、儂が見た鬼たちのこと何じゃが・・・」
しかしながら、朋友の意識は受話器の向こう側の相手に既に奪われていた。
「あっ、爺ちゃん、また後で!」
そう言い残した朋友は、指でピースマークをしながら口パクで『サンキュー』と頼光に伝え、境内の階段を足早に降りてゆく。
朋友から鬼の話を聞きそびれ残念がる頼光を尻目に、朋友は神域から外に出て鳥居を背に嬉しそうな表情で電話の相手と会話している。勿論、その相手は言わずと知れた結子である。
丁度其処へ朋友の居所を掴んだ雨音の姿をした九尾狐が現れ、物陰から朋友の様子を窺っていた。
「うん、こっちはこれから訓練だから・・・結子は撮影で疲れただろうから、ちゃんと体、休めろよなぁ!」
雨音に憑依した九尾狐は、朋友が口にする「結子」の名を聞き、日中に遭遇した嫁入り姿の姫の名が結子であったことを想い出す。
「あの子ね・・・」
結子と会話している嬉しそうな朋友の姿を垣間見て、朋友の結子に対する一途な想いを知った九尾狐は嫉妬心から結子に対する殺意を漲らせてゆく。
「あれ? 雨音先生」
結子との電話を切った後、雨音の姿を見つけた朋友が声をかけた。
「あっ、朋友君・・・」
雨音に憑依している九尾狐は依然として自らの妖気を完全に隠しているので、朋友は九尾狐の存在を見抜くことが出来ていない。
こんな所でどうしているのかを朋友に尋ねられた雨音は、ちょっと通りがかっただけだと答えをはぐらかし、朋友の表情を艶かしい眼差しでじっと見つめた。
「今、話をしていた子って、朋友君の好きな子でしょ!」
核心を突いた問いを前触れもなく投げ掛けられ、虚を衝かれた朋友の顔は瞬く間に赤面した。
「わかりやすい子ね!」
「ち、違いますよ! 違うって!」
気恥ずかしさが残るので、朋友は照れ隠しにポケットからスマートフォンを取り出して操作しようとするものの妙にぎこちなく、動揺の気配が現れていた。
そんな朋友に対して、雨音は続けて質問する。
例え話として、好きな子のためなら黙ってその子にサヨナラすることが出来るのか?
好きな人と一緒に居たら、その子か自分が死ぬことになる場合、それをわかっていても、その子が一緒に居たいと言えば一緒に居ることが出来るのか?
自分の命を投げ打ってでも、その子の命を守ることが出来るのか?
衷情を披瀝する雨音の態度と投げ掛けられた言葉を真摯に受け止め、自分ならどうするのかを真面目に考える朋友は、実体験していないので何とも言いようがないと答え終えると、雨音に対してなぜ自分にそんなこと聞くのか、先生はそんな経験したことがあるのか、丁寧に聞き返した。
朋友は雨音が経験した過去の出来事を聞かされた。過去に出逢った男性と一緒に居たら何方かが死ぬことになるのに、それをわかっていたのに、その人と一緒にいようとしたことを・・・死ぬかも知れないのに側に居ようとしたことを・・・
朋友は雨音からの言葉を受け取っても、それを上手く咀嚼することが出来ずに、なぜそのような選択をしたのかと雨音に問いかけると情感の深く悲痛なる声が朋友の心に響いて来た。
その人のことが好きだったからであると・・・抱き合って、キスをして、彼を信じて、喜びを分かち合う。それがたとえ短い時間でも、ほんの一瞬でも・・・
彼のことが本当に好きだったから・・・彼が私のことをわかっていたように、私も彼の心を感じていた・・・時間が戻って、また同じ選択に迫られたとしたら、恋をして、恋の花を咲かせて、今度は彼の立場になってあげたいの・・・
雨音(九尾狐)に見つめられた朋友は、今にも吸い込まれそうな双眸に目をやると、その中に燃え盛る情念の炎を見た感じがした。
「は、はい・・・」
そう返事をした朋友に対して、こんな話までしてしまってと言いながら、更に朋友へ体を近づけた雨音は、朋友の耳元で再会を楽しみにしていることを静かに告げた後、その場を去ってゆく。
まるで狐に化かされたかのように朋友は突然の出来事に暫く唖然とした表情で、その場にひとり立ち尽くしていた・・・
この日の夕刻、千年の時を経て全国各地で過去と同じ現象が勃発した。雨音に憑依した九尾狐はひとり涙珠しながら栃◯県内を徘徊する。
突然に起こった狐の嫁入り・・・空を見上げるもの、慌てて傘をさすもの、泣くように落ちて来る雨滴に濡れるものは至るところにいたとしても、事の起こりを知るものは誰一人としていなかった。結子ひとりを除いて・・・
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