悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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1章.妹君は少年伯と出会う

2.お姉様の断罪、のはずが①

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 そもそも、事の発端は今から三日前に遡る。

 貴族魔法学院の卒業パーティーに参加していたときのことだ。






「そんな! 違います! 私じゃありません!」

 会場にリーゼロッテの悲痛な叫びが響く。

 卒業パーティーの最中、同級生に嫌がらせをしていた件を糾弾されていた彼女の姉が、何を思ったか、

「私ではありません……もう黙ってはいられません。聖女様をいじめていたのは私ではなく、妹のリーゼロッテです!」

 とその矛先をリーゼロッテに向けたのだ。

 姉が自らの罪を擦りつけた──たったそれだけならば彼女ももう少し冷静でいられたかもしれない。

 周囲を見渡すと、きらびやかなドレスを身に纏う皆の顔に、動揺や蔑みが浮かんでいる。彼女にあからさまな敵意を向けている者もいた。

 知っている顔もいたが、目が合うと気まずそうに視線を逸らされてしまう。

 わらをもすがるような気持ちでリーゼロッテは婚約者のボニファーツを探すが、慌てて会場を出て行く後ろ姿を捉えただけだった。

 もはや誰も信じてくれないのでは、という恐怖から手足が震え始める。喉に何かが詰まったように呼吸が促迫してくるのを感じた。

「何を言ってるの? 私は何度も止めたのよ? それなのにリーゼロッテ、あなたは聖女マリー様への嫌がらせをやめなかったじゃないの」

 姉のディートリンデは涙ながらにそう言うと、王太子フリッツに駆け寄った。

 すぐさま「殿下違うのです、私ではありません」と訂正するが、フリッツはその整った眉をハの字にし、無言でリーゼロッテを見つめるだけだ。

 彼女の口から出た否定など意味がないことは明白だった。

 短く切り揃えられたやや赤みの入った金髪が王家の証であることはこの国では周知の事実だ。青い瞳をたたえた優しそうな目元は、今は猜疑さいぎの色が濃い。白のタキシードを難なく着こなすフリッツは、ディートリンデの婚約者だ。

 真偽はどうであれ、婚約者の言うことを無碍むげにはできないだろう。

「……マリー、君はどう思う?」

 フリッツは、横にいるピンク色の可愛らしいドレスを身に付けたマリーに聞いた。

 嫌がらせを受けていた当事者だからこそ聞いたのだろう。

 マリーは平民でありながら非常に珍しい癒しの魔法を扱える聖女である。王太子の庇護を一身に受けるこの国の正当な聖女──癒しの聖女の二つ名に相応しく、慈悲深い彼女を慕う生徒は多い。

 一縷いちるの望みをかけてリーゼロッテはマリーを見つめた。

 姉妹を何度も交互に見つめるマリーの瞳に戸惑いが浮かぶ。そしてようやく口を開いたマリーは

「……申し訳ありません、私もどちらが本当のことをおっしゃっているのかわからないのです。なにしろ……その……とてもそっくりでいらっしゃるので……」

 と口籠った。

 マリーの答えを待っていたフリッツは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 一瞬だけディートリンデを睨んだ気がしたが、冷静さを欠いていたリーゼロッテの見間違いだったのかもしれない。

 足の震えが限界に来ていたリーゼロッテは、はしたなくもへなへなとその場にへたり込みそうになり、近くの椅子の背もたれに手をついた。

 判別がつかないのも無理はない。

 リーゼロッテとディートリンデ、二人は双子だ。

 この国では珍しいつやのある腰まである黒髪は髪留めでハーフアップにまとめられている。碧玉ともたとえられた深い青の瞳、ふくよかなピンクの唇。コルセットで締められた腰回りと同じく、ドレスから伸びる白く細い手足──。

 なにからなにまで瓜二つで、両親でさえ少し見ただけでは見分けるのは難しいと言わしめた。

 違うところといえば、ディートリンデよりもリーゼロッテの瞳の方が少し暗めの青であり、ディートリンデよりも自信がなさそうな表情をしている方がリーゼロッテというほんの些細な違いだけだろう。

 今日限定で言えば、リーゼロッテは光沢のある水色のドレス、ディートリンデは燃えるような真紅のドレスを着ているところも違う。

 卒業パーティーでは、自身の扱える魔法に応じた色のドレスを着るのが慣例だからだ。これでドレスまで同じであったなら、学友たちが二人を見分けることは不可能に近い。

 会場の空気が重くのしかかるのをリーゼロッテは感じた。

 この場にいる人間のほとんどは彼女が犯人だと思っているだろう。王太子の婚約者が嫌がらせなどするはずがないという先入観があるからだ。

 事実、ディートリンデは成績優秀で人当たりが良く、リーゼロッテは成績は悪くないものの人見知りが激しい。嫌がらせをする陰湿さを持ち合わせていると思われても仕方がないのかもしれない。

「……この沙汰は追ってすることにする。皆、騒がせて悪かった。パーティを続けてくれ」

 フリッツのこの一言で、ひとまず緊張から脱した彼女はその場に膝を突きかけた。じっとりした嫌な汗が流れる。

 皆、節目がちにリーゼロッテを見ては声を潜めて何かを話している。

 駆け寄ってくる者もいたが、全てディートリンデの周りに集まり、口々に「大丈夫?」と彼女を気遣う言葉をかけていた。

 その輪の中で気丈に振る舞う彼女と、今にも一人で崩れ落ちそうなリーゼロッテの何が違うのか。

(……いや、全然違う。私は一族の、ハイベルク伯爵家の出来損ないなのだから)

 ふと、見上げると、ディートリンデと目が合った。勝ち誇ったように口元を歪める彼女に気付いたのは、リーゼロッテ以外いなかっただろう。
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