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1章.妹君は少年伯と出会う
6.妹君は真面目にお掃除した①
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ユリウスと対面し、リーゼロッテは困惑していた。
恐ろしい数々の噂を持つ辺境伯が、実は二十四歳の成人男性とは思えない子ども同然の体格の持ち主だった、などという噂は聞いたことがない。もし実際にそうであるなら、その噂がいの一番に社交界を駆け抜けるに違いない。
(もしや私はからかわれている……? いいえ、そんなことをしてもユリウスさ……ご主人様にはなんの得にもならないわ)
リーゼロッテは心の中でご主人様と言い直した。追放された今はもう、使用人として生きていくしかないのだが、長年培った言葉遣いはそう簡単には消えてくれないらしい。
(確かご兄弟はいらっしゃらなかったはず……いえ、ご親戚は……どうだったかしら……?)
混乱する頭を必死に動かすが結論は出ない。そもそも社交場ですらまともに顔を合わせたことがない。急遽辺境伯に仕えることになり、彼について調べる間もなかった彼女が正解にたどりつけるような問題ではなかった。
「なにをボーッとしてるんだい?」
不意に降った野太い声が、混迷を極めるリーゼロッテの意識を引き戻した。
反射的に見上げると、でっぷりとした身体に茶髪の大女が腕を組み、仁王立ちしていた。この屋敷の一番の古株である中年のメイド長のデボラだ。今日からリーゼロッテの教育を担当するということなのだが、貴族にはいなかった大きな声とあけすけな物言いのこの人物に、彼女は少しだけ恐怖心を覚えている。
どうやらユリウスに挨拶し扉を閉めた後、しばらくぼんやりと立っていたいたらしい。「変な子だね」と毒づくデボラに、リーゼロッテは申し訳なさそうに謝った。
「ま、仕事さえちゃんとしてくれりゃいいさ。……着いて早々で悪いけど、ついてきな」
あっけらかんと言うと、デボラは踵を返した。リーゼロッテは慌ててついていく。
デボラの歩みはリーゼロッテのそれよりも速い。というのもデボラの体格が男性顔負けのがっしり体型だからだ。社交界の中でも小柄な方のリーゼロッテとは、そもそも手足のリーチが違いすぎる。はしたない、と思いつつもつい小走りになってしまう。
しかし、ここを追い出されたらもうリーゼロッテに行き場はない。みっともなくとも必死についていくしかなった。
そうしてついた場所は──。
「……玄関ホールを掃除……ですか?」
伯爵家の玄関ホールよりやや広く、白亜の壁に整然と組まれた石造りの床に、数は少ないものの派手すぎず繊細な装飾がなされたインテリアが並んでいる。吹き抜けの天井から下がる燭台付きシャンデリアが明るく照らし、ホール全体に暖かい印象を与えた。
「ああ、あんた元令嬢なんだろ? なんにもできないって聞いてたから、まずは簡単な掃除でも覚えてもらおうかと思ってね」
物がやたらある所よりこういうだだっ広い場所の方が初心者にはやりやすいだろ、とぶっきらぼうに付け加えると、立てかけてあった箒と雑巾をリーゼロッテに手渡した。
おずおずとそれを受け取ると、戸惑いつつも掃除に取り掛かることにした。
恐ろしい数々の噂を持つ辺境伯が、実は二十四歳の成人男性とは思えない子ども同然の体格の持ち主だった、などという噂は聞いたことがない。もし実際にそうであるなら、その噂がいの一番に社交界を駆け抜けるに違いない。
(もしや私はからかわれている……? いいえ、そんなことをしてもユリウスさ……ご主人様にはなんの得にもならないわ)
リーゼロッテは心の中でご主人様と言い直した。追放された今はもう、使用人として生きていくしかないのだが、長年培った言葉遣いはそう簡単には消えてくれないらしい。
(確かご兄弟はいらっしゃらなかったはず……いえ、ご親戚は……どうだったかしら……?)
混乱する頭を必死に動かすが結論は出ない。そもそも社交場ですらまともに顔を合わせたことがない。急遽辺境伯に仕えることになり、彼について調べる間もなかった彼女が正解にたどりつけるような問題ではなかった。
「なにをボーッとしてるんだい?」
不意に降った野太い声が、混迷を極めるリーゼロッテの意識を引き戻した。
反射的に見上げると、でっぷりとした身体に茶髪の大女が腕を組み、仁王立ちしていた。この屋敷の一番の古株である中年のメイド長のデボラだ。今日からリーゼロッテの教育を担当するということなのだが、貴族にはいなかった大きな声とあけすけな物言いのこの人物に、彼女は少しだけ恐怖心を覚えている。
どうやらユリウスに挨拶し扉を閉めた後、しばらくぼんやりと立っていたいたらしい。「変な子だね」と毒づくデボラに、リーゼロッテは申し訳なさそうに謝った。
「ま、仕事さえちゃんとしてくれりゃいいさ。……着いて早々で悪いけど、ついてきな」
あっけらかんと言うと、デボラは踵を返した。リーゼロッテは慌ててついていく。
デボラの歩みはリーゼロッテのそれよりも速い。というのもデボラの体格が男性顔負けのがっしり体型だからだ。社交界の中でも小柄な方のリーゼロッテとは、そもそも手足のリーチが違いすぎる。はしたない、と思いつつもつい小走りになってしまう。
しかし、ここを追い出されたらもうリーゼロッテに行き場はない。みっともなくとも必死についていくしかなった。
そうしてついた場所は──。
「……玄関ホールを掃除……ですか?」
伯爵家の玄関ホールよりやや広く、白亜の壁に整然と組まれた石造りの床に、数は少ないものの派手すぎず繊細な装飾がなされたインテリアが並んでいる。吹き抜けの天井から下がる燭台付きシャンデリアが明るく照らし、ホール全体に暖かい印象を与えた。
「ああ、あんた元令嬢なんだろ? なんにもできないって聞いてたから、まずは簡単な掃除でも覚えてもらおうかと思ってね」
物がやたらある所よりこういうだだっ広い場所の方が初心者にはやりやすいだろ、とぶっきらぼうに付け加えると、立てかけてあった箒と雑巾をリーゼロッテに手渡した。
おずおずとそれを受け取ると、戸惑いつつも掃除に取り掛かることにした。
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