悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

文字の大きさ
29 / 231
2章.妹君と少年伯は互いを知る

28.妹君はしばし微睡む②

しおりを挟む
「……報告は以上です」

「……わかった。その件は引き続き頼む」

「御意。それと、延期となっている創環そうかんの儀ですが……陛下の御病状からこれ以上の引き伸ばしは難しいかと……」

「……わかった。進めてくれ」

「御意」

 宰相を下がらせたフリッツは、執務室の中、組んだ両手に頭を乗せ大きくため息をついた。

 ここ十数日、聖女マリー迫害の目撃者や証言者に詳しく話を聞いているが、思った以上に成果が出ていない。

 あまりに進展がなさ過ぎて、マリー自身も「もうよろしいのでは」と言い出している始末だ。

 しかし、これから一国を担う王太子が、聖女がいいと言ってるからといって引き下がる訳にもいかない。

 それに──。

(ディートリンデと結婚などするものか)

 彼はギリ、と歯軋はぎしりをした。

 もう随分前からだ。彼はずっと彼女との婚約破棄を狙っていた。

(マリー……もう少しだというのに)

 マリーと出会ったのは十三年前、ちょうど四歳の誕生日だった。

 まだ健在だった頃の国王自らが紹介してくれたのを覚えている。

「フリッツ、この御子が聖女マリー様だ」

 引き合わされたマリーは、おそらく今まで着たことはおろか、見たこともないだろう可愛らしいピンクのドレスを着せられ、終始おどおどしていた。

 その不安で揺れる赤みを帯びた瞳や、触れたら気持ち良さそうなふわふわの巻き毛に、フリッツは一瞬にして心奪われた。

 聖女付きを命ぜられた彼が、この時ほど喜んだことはない。

 同い年の彼をマリーに付かせたのは、国王の温情だ。

 平民出の聖女はいずれかの公爵家の養女となるが、たまたまどの公爵家にも彼女と同じくらいの歳の子どもがいなかった。

 国のためとはいえ、四歳の少女が親元を離れ、知らない大人に囲まれ右も左も分からない聖殿で暮らすのだ。

 心細いに違いないと、年端もいかないフリッツを付けたのは想像に難くない。

 彼はずっと、マリーと一緒だった。彼女に夢中で、そのことは言わずともマリーに伝わっている、そう思っていた。

 ディートリンデとの婚約が決まるまでは。

(あの女さえいなければ……)

 フリッツは両手を頭に打ちつけた。

 彼はマリーとの婚約を望んでいた。

 しかし、「聖女と結婚した王族はいない」という慣習によって半ば強制的に婚約させられたのだ──と、彼は思っている。

 マリーが元平民出の人間であることや、王族の政略結婚の多さをかんがみれば、その決定は致し方がない。むしろ当然だろう。

 が、彼は冷静さを欠いていた。

 いや、王太子としての重責と、マリーと過ごす平穏とその執着から、いつからか歪んでしまっていたのかもしれない。

 婚約破棄ができる口実を日夜考え続け、なかなかそのタイミングを掴めず何年も過ぎたある日──マリーに嫌がらせしているディートリンデを見たときは、小躍りしたいほど嬉しかった。

 彼は放置した。知ってて徹底的にマリーを虐めさせた。

 心苦しかったが、婚約破棄するためにと歯を食いしばって我慢した。

 きっとマリーも同じ気持ちで我慢してくれていると信じ切っていたのだ。

 しかしここまでしても、ディートリンデとの婚約破棄は叶わない。

 それどころか、双子であることをいいことに妹に罪を擦り付けて有耶無耶にしようとしてる。

 苦々しい思いがフリッツの心に広がった。

 彼女は時間切れを狙っているのだ。

 この国の国王は戴冠時に既婚でなくてはならない。現国王の病状が思わしくないことから、近々戴冠式が行われるだろう。

 それまで彼女は婚約を維持するつもりだ。

(どうにかしなければ……)

 フリッツは頭を打ちつけ続ける。打ちつけた部分は赤く、爪で切れたのか額に血が滲んでくる。

「創環の儀などさせてたまるか……」

 彼はそう独りごちると、憎しみに満ちた瞳で虚空を睨み付けた。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...