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3章.妹君と少年伯は通じ合う

54.妹君は噛み付かれそう①

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 リーゼロッテたちは夕食の準備と見習い騎士たちを出迎える準備にと追われていた。

 屋敷は有事の際には兵舎にもなるらしく、普段使用してない空き部屋がいくつもある。

 その部屋を今回、見習い騎士たちに割り当てるらしい。

(見習い騎士の方々……予定よりだいぶ遅いわ……この雨だし、タオルも多めに用意しておかないと)

 彼女は窓の外を見る。

 土砂降りの雨が窓を幾度も打ち付け、風が外の木々を激しく揺らしていた。

 先ほどまでは時折稲光いなびかりも見えていたが、今はそれは落ち着き、ただ真っ暗な闇が広がっていた。

 急に恐ろしくなってきたリーゼロッテは身震いをすると、その思いを振り切るように準備に没頭していった。







 見習い騎士たちが着いたのは予定より遅く、夕刻を大幅に過ぎた頃だった。

「悪天候の中、遠路はるばるご苦労であった。この屋敷の当主、ユリウス・シュヴァルツシルトだ」

 玄関ホールの階段の踊り場で、ユリウスはその低く冷静な声を響かせた。

 ホールには今し方着いたばかりの見習い騎士たちと教官、合計十一名が緊張した面持ちで彼の言葉を聞いている。

「事前に聞いていると思うが、諸君らは明日よりこの屋敷及び周辺亜人集落の警護に当たってもらう。着いて早々で悪いが、辺境ひいてはこの国の安寧のため優秀な諸君らの力を大いに奮ってもらいたい」

 先の戦争の功労者を前にした緊張か、感動か。

 重々しい威厳に満ちた彼の立ち振る舞いに誰かがごくり、と喉を鳴らす。

「……さて、ささやかながら夕食を準備した。今日は大いに食事を楽しんで、明日からの任務に英気を養って欲しい。私からは以上だ」

 彼は言い切ると、階段を上がっていった。

 姿の見えなくなったところで、見習い騎士たちは口々に「あれが白の軍神か」「目だけで人殺せるって」「バーカ、ただの噂だろ」「でも迫力あるよな」「緊張したー」とひそひそ囁き合っていた。

 そんな中、ただ一人その輪に入らず、ユリウスがいたあたりをじっと見つめる見習い騎士がいた。

 短く切りそろえた暗めの赤毛にはしばみ色の瞳──この国ではよくいる容姿の少年だ。

 周りの見習いたちに比べると少し背が低いが、それは彼が今回の派遣任務を与えられた者の中でも最年少の見習い騎士だからだろう。

 彼は階段の踊り場を睨み付けるように見つめていた。

「お前ら、静かにしろ! 各自割り当てられた部屋に荷物置いたら再度ここに集合してくれ」

 苛ついた教官の声に、テンション高くざわついていた見習い騎士たちはみな口を噤んだ。
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