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3章.妹君と少年伯は通じ合う
56.妹君は再会する①
しおりを挟む(ザシャ……さん……)
リーゼロッテは食堂に向かいながら困惑していた。
まだ動悸が速い。
ザシャは口は悪いが優しい。料理への情熱も人一倍だ。
それは彼女もわかっている。
今回のも彼の優しさと情熱から、手取り足取り教える流れになってしまっただけであって、それ以上のものはない。あれはたまたまだ──と、彼女は自分に言い聞かせた。
一つ作り終えた時、一瞬感じたこともない怖気が走り、すぐ彼から離れなければと思った、などと誰にも言えるはずがない。
微かにまだ、震えが残っている。
そのこともあってか、彼女は早くユリウスの元にたどり着きたいと歩みが早まる。
(いけない、こんな顔ではユリウス様に心配をさせてしまうわ)
両頬を軽く叩き落ち着かせると、リーゼロッテは食堂の扉を開けた。
食堂の長いテーブルを、ユリウスと見習い騎士たちが囲んでいる。
一つ席が空いてるのは誰か離席してるからだろうか。
皆が食事を楽しむ中で、彼は静かに彼らの話に耳を傾けていた。
「ユリウス様、お呼びでしょうか?」
彼に近寄り、話しかける。たったこれだけでもほっとする自分がいた。
「ああ…………? どうした? 少し顔色が優れないようだが」
「な、なんでもありま、せん……」
急に核心をつかれた彼女は慌てて否定したが、その声は微かに震えた。
「……」
ユリウスはしばらく考え込むように彼女をじっと見ると、見習い騎士の方に向き直った。
「歓談中申し訳ない。早急に片付ける案件ができたので退出させていただく」
音もなく立ち上がり、リーゼロッテの耳元で「ついてこい」と囁いた。
その断ることは許されない声色に、彼女の胸はどきり、と音を立てる。
慌てて、しかし主人に付き従うメイドとして自然に見えるように彼について行く。
「……閣下、どちらへ」
廊下に出たところで不意に声をかけられた。
変声期に差し掛かったことを悟られないよう、抑えた若く真っ直ぐな声──離席していた見習い騎士だろうか。
リーゼロッテは道をあけ、しずしずと頭を下げた。
「急用だ。貴君らは食事をゆっくり楽しんでくれ」
「……そちらの方は」
突然自分に話題が移り、彼女は微かに肩を動かす。
「……彼女は私の奉公人のリーゼロッテ・ハイベルクだ。貴君らの逗留中の世話は別の使用人につかせるつもりだ」
声色はそのままに、言外に「私の奉公人に構うな」と牽制するように言うと、彼は身を翻して立ち去ろうとする。
「閣下、失礼ながら私に彼女と話をする時間をいただけませんか?」
真っ直ぐ通る声で頭を下げた見習い騎士の横顔が、彼女の視界に入った。
その横顔に思わず息を呑む。
「……私の話を聞いていたか? 彼女は」
「あ、アンゼルム……?!」
ユリウスの言葉を遮り、彼女は見習い騎士の名前──自らの弟の名前を呼んだ。
呼ばれた見習い騎士は、礼の体勢のまま彼女に顔を向けると、満面の笑みで口を開いた。
「久しぶり。姉さん」
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