悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

文字の大きさ
93 / 231
3章.妹君と少年伯は通じ合う

92.元婚約者は観念した②

しおりを挟む
 ザシャたちが出て行った後、ユリウスはリーゼロッテに頭を下げた。

「リーゼ……すまない。遅くなった」

「いえ、助けに来てくださるなんて……嬉しかったです」

 頬を染めて微笑む彼女に、ユリウスの顔は憂いが晴れたように目尻を下げる。

 彼女が羽織っている黒い軍服に手を伸ばすと襟を整えた。

 その手が微かに震える。

「よく……耐えてくれた……」

 堪えていたものが溢れるように、彼は彼女をゆっくりと引き寄せると、滑らかな頬に手を添えた。

 親指でそっと撫でると、リーゼロッテは少しくすぐったそうに片目を瞑る。

(本当に……よく)

 彼女が攫われたと聞いた時、ユリウスは生きた心地がしなかった。

 アンゼルムの報告も、自分がそばにいれば攫われなどしなかっただろうと悔恨の念に打ちひしがれた。

 ザシャと共に攫われたと聞いて尚のこと心配が募った。

 幌馬車を見つけた時、本当ならすぐにでも助けたかった。

 彼女に襲いかかるボニファーツも瞬殺したかった。

 彼女の服を引き裂いた手を焼き斬り、彼女を組み伏せた腕を切り落とし、彼女の肌に口付けようとしたその口を鼻と共に塞ぎ、彼女を絶望に堕とすなどと考えたその首を薙ぎたかった。

 怒りに我を忘れた、なんてものではない。

 そうした残忍な考えが過るほどに憤り、狂いそうなほどの嫉妬を覚え、彼女への愛情を暴走させていた。

 それでもギリギリのところで踏みとどまることができたのは、剣を振る瞬間に彼女の悲しむ顔が脳裏に浮かんだからだ。

 彼女を助け出すためにたとえ敵であっても誰かが犠牲になることを、彼女はきっと厭うだろう。

(失いそうになって……気づくとは情けない……)

 ユリウスは言葉にしてやっと、明確に自覚した。

 彼女を離れがたいほどに愛しく思っていることに。

 慈しむような彼の視線を受けた彼女の口からほう、とため息が漏れる。

 アンゼルムが何かいいたそうに近寄ってくるが、テオに「騎士は野暮なことはしないもんだよ」と言われ、不機嫌に顔を歪めて引き下がった。

 アンゼルムも分かっていた。

 リーゼロッテのユリウスへの態度は演技ではない。

 本気だ。

 ユリウスもまた、彼女しか見ていない。

 辺境伯という立場もあるだろうが、その立場を踏まえた上で、リーゼロッテも選び取る最善を尽くしている。

 彼ならば姉を任せられるのでは、と一瞬甘えた考えが浮かび、アンゼルムは身震いするように首を振った。

「でも、どうしてここにいると分かったのですか?」

 リーゼロッテは当然の疑問を口にした。

 いくら領地なし貴族の別荘とはいえ、この屋敷はかなり広い。

 彼女自身もボニファーツの部屋に連れられるまでに、長い廊下を通り幾つもの扉を見た。

 加えて騒がれないように相手を無力化しながらなど、面倒なことをしてきたユリウスたちがどうやってこの部屋まで来れたのか。

「ああ……輝石……バレッタに少し私の魔力を込めておいた。ある程度近くにいれば私だけはその魔力を辿れる。副産物として暗い中でも魔力の光で微弱な光を発する」

 なんてことはない表情で言うユリウスに、リーゼロッテはこぼれ落ちそうなほど目を見開いた。

「え……そんなユリウス様の魔力付与なんて……!」

 彼女が驚くのも無理はない。

 魔力付与は誰でもできる代物ではないからだ。

 高位魔法を扱える限られた人間しか付与できず、しかも付与できる物すら宝石類や魔力を持つ特殊な鉱石に限られている。

 実際には高位魔法を注ぐというよりは、高位魔法を制御するときの感覚が付与の手順と似ているらしい。

 魔力もそこまで必要ないということだが、高位魔法を使えないリーゼロッテには知識の上でしか分からない。

 分からない、が、今は下位魔法しか使えないだろうユリウスが相当難しいことをしたことだけは分かった。

「……言ったら素直に受け取ってくれないだろう?」

 ユリウスは少し困ったように眉を下げた。

「……あ。だからあの時光ってたのか!」

 思い出したかのようにアンゼルムが口を開く。

 あの時、というのは森で攫われた時だろう。

 一筋の陽の光も差さない曇り空の元、しかも薄暗い森の中でバレッタが光るなどおかしいと思っていたのだ。

「……どうやら、副産物の方も役に立ったようだな……」

 アンゼルムのひとり得心する様子に、ユリウスは苦笑した。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...