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4章.妹君と辺境伯は揺れ動く
113.二人は踊る③
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(ユリウス様も楽しみに思っててくださるのね)
彼女はなんとなくだが、浮かれているのは自分だけだと思っていた。
お互い婚約は望んだこととはいえ、二人とも種類は違えど人前で目立ちたくない性質だ。
特にユリウスは二人の時は臆面もなく愛を囁くが、ひとりでも他人がいれば領主とその奉公人という姿勢を崩さない。
故に婚約披露パーティーも、領主として開かなければならないからやむを得ず執り行うのかと思っていた。
どうやらそれは勘違いだったらしい。
(同じ気持ちだったなんて……嬉しい……)
彼の胸元に手を置いたまま、上目遣いに彼を見つめる。
「……はい、私も楽しみです」
彼女の心からの声に、ユリウスは満足げな笑みを浮かべた。
「……そこでリーゼ、少しお願いがあるのだが」
「はい。私にできることなら」
「いや、これはリーゼにしかできない」
彼はそう言い切ると、照れ隠しをするように咳払いをひとつすると、意を決し口を開いた。
「もう少し、時が許すならでいいのだが、私も勘を取り戻したい……練習に付き合ってはくれないだろうか?」
若干居心地が悪いのか、視線を明後日の方向に向ける彼の姿が、どこかおかしくてリーゼロッテはくすり、と笑う。
「はい、喜んで」
彼女の返答にほっと息を吐いた彼は、軍服の上着を脱ぐと部屋の端に放り投げる。
ネクタイを軽く緩めると、彼女の身体をホールドするとゆっくりとリードし始めた。
はじめはお互いの歩幅を確かめるように慎重に、次第に息があってきた彼らはより動きが大きくなっていく。
余裕が出てきたのか表情も生き生きとしてきた。
(……このまま時が止まってしまえばいいのに……)
リーゼロッテは時の聖女が言ったら冗談にならなさそうな言葉を口にしそうになり、唇をきゅっと締めた。
十年ぶり、などという言葉が嘘のような完璧なリードをするユリウスに目を奪われる。
聖女の力を暴走させた時のように、胸がじわりと熱を帯びるのを感じた彼女は一瞬、そちらに気が削がれた。
「きゃっ」
「リーゼ!」
踏み出しがうまくいかなかったのか、勢いよく滑った足はそのまま彼女の身体を傾けさせる。
襲われるであろう衝撃と痛みに、彼女は両眼を瞑った。
少し滑りやすいかもしれない──練習前にそう思ったことを今更ながら思い出す。
しかし倒れた衝撃は来たものの、痛みはない。
むしろ床よりも柔らかい感触に、リーゼロッテはおそるおそる目を開けた。
「……無事か?」
彼女の眼前には、緩めたネクタイのせいで黒のシャツがはだけたユリウスがいた。
どうやら転がる瞬間にクッションになってくれたらしい。
白い首元が鎖骨の先ほどまで見える扇情的な姿に彼女の胸がどきり、と音を立てる。
少年の姿でさえ魅力的なのだ。
これが大人だったら一体どうなってたのかと、彼女は要らぬ想像をしかけ赤面する。
「は、はい! 申し訳ございません! すぐに退きます……っ」
顔を真っ赤に染めたリーゼロッテは身体を起こそうとした。
──しかしそれは、ユリウスによって止められた。
少々強引に腕を掴んだ彼に抱きすくめられ、彼女の身体はさらに熱くなる。
彼の左胸近くにちょうど彼女の耳がくる形のこの体勢ならば、あられもない首元を見ることも赤い顔を見られることもない。
しかしこれでは頭から爪先まで熱くなりすぎて目が回りそうだ。
「……もう少し、こうさせてくれないか」
「で、ですが……」
「嫌、か……?」
少し沈むような切ない声音がユリウスの口からも身体を通しても聞こえて、リーゼロッテは抗議の声を上げ損なった。
「……狡い、です。ユリウス様……」
(ユリウス様にそんな声、出されたら……ダメだなんて言えないじゃないですか……)
しかし彼女は知っている。
本当に嫌がるだろうと思っていたら、ユリウスは「もう少し」などと聞いてこない。
もっと言えば、「駄目」ではなく「嫌」と聞いてこられたら首を横に振るわけがない。
そこも含めて、狡い。
そんな狡い彼もまた好きなのだという思いに気付き、彼女はさらに身悶えた。
「……すまない……」
彼女の心のうちを見透かすように微かに微笑むと、腕にゆっくりと力を込めた。
彼女はなんとなくだが、浮かれているのは自分だけだと思っていた。
お互い婚約は望んだこととはいえ、二人とも種類は違えど人前で目立ちたくない性質だ。
特にユリウスは二人の時は臆面もなく愛を囁くが、ひとりでも他人がいれば領主とその奉公人という姿勢を崩さない。
故に婚約披露パーティーも、領主として開かなければならないからやむを得ず執り行うのかと思っていた。
どうやらそれは勘違いだったらしい。
(同じ気持ちだったなんて……嬉しい……)
彼の胸元に手を置いたまま、上目遣いに彼を見つめる。
「……はい、私も楽しみです」
彼女の心からの声に、ユリウスは満足げな笑みを浮かべた。
「……そこでリーゼ、少しお願いがあるのだが」
「はい。私にできることなら」
「いや、これはリーゼにしかできない」
彼はそう言い切ると、照れ隠しをするように咳払いをひとつすると、意を決し口を開いた。
「もう少し、時が許すならでいいのだが、私も勘を取り戻したい……練習に付き合ってはくれないだろうか?」
若干居心地が悪いのか、視線を明後日の方向に向ける彼の姿が、どこかおかしくてリーゼロッテはくすり、と笑う。
「はい、喜んで」
彼女の返答にほっと息を吐いた彼は、軍服の上着を脱ぐと部屋の端に放り投げる。
ネクタイを軽く緩めると、彼女の身体をホールドするとゆっくりとリードし始めた。
はじめはお互いの歩幅を確かめるように慎重に、次第に息があってきた彼らはより動きが大きくなっていく。
余裕が出てきたのか表情も生き生きとしてきた。
(……このまま時が止まってしまえばいいのに……)
リーゼロッテは時の聖女が言ったら冗談にならなさそうな言葉を口にしそうになり、唇をきゅっと締めた。
十年ぶり、などという言葉が嘘のような完璧なリードをするユリウスに目を奪われる。
聖女の力を暴走させた時のように、胸がじわりと熱を帯びるのを感じた彼女は一瞬、そちらに気が削がれた。
「きゃっ」
「リーゼ!」
踏み出しがうまくいかなかったのか、勢いよく滑った足はそのまま彼女の身体を傾けさせる。
襲われるであろう衝撃と痛みに、彼女は両眼を瞑った。
少し滑りやすいかもしれない──練習前にそう思ったことを今更ながら思い出す。
しかし倒れた衝撃は来たものの、痛みはない。
むしろ床よりも柔らかい感触に、リーゼロッテはおそるおそる目を開けた。
「……無事か?」
彼女の眼前には、緩めたネクタイのせいで黒のシャツがはだけたユリウスがいた。
どうやら転がる瞬間にクッションになってくれたらしい。
白い首元が鎖骨の先ほどまで見える扇情的な姿に彼女の胸がどきり、と音を立てる。
少年の姿でさえ魅力的なのだ。
これが大人だったら一体どうなってたのかと、彼女は要らぬ想像をしかけ赤面する。
「は、はい! 申し訳ございません! すぐに退きます……っ」
顔を真っ赤に染めたリーゼロッテは身体を起こそうとした。
──しかしそれは、ユリウスによって止められた。
少々強引に腕を掴んだ彼に抱きすくめられ、彼女の身体はさらに熱くなる。
彼の左胸近くにちょうど彼女の耳がくる形のこの体勢ならば、あられもない首元を見ることも赤い顔を見られることもない。
しかしこれでは頭から爪先まで熱くなりすぎて目が回りそうだ。
「……もう少し、こうさせてくれないか」
「で、ですが……」
「嫌、か……?」
少し沈むような切ない声音がユリウスの口からも身体を通しても聞こえて、リーゼロッテは抗議の声を上げ損なった。
「……狡い、です。ユリウス様……」
(ユリウス様にそんな声、出されたら……ダメだなんて言えないじゃないですか……)
しかし彼女は知っている。
本当に嫌がるだろうと思っていたら、ユリウスは「もう少し」などと聞いてこない。
もっと言えば、「駄目」ではなく「嫌」と聞いてこられたら首を横に振るわけがない。
そこも含めて、狡い。
そんな狡い彼もまた好きなのだという思いに気付き、彼女はさらに身悶えた。
「……すまない……」
彼女の心のうちを見透かすように微かに微笑むと、腕にゆっくりと力を込めた。
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