悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ

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5章.妹君と辺境伯は時を刻む

224.王子は諭される③

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 テオはかつて、『聖女のため』と繰り返していた。

 あの時は聖女という役職のために行動しているものとばかり思っていたが、今の表情で確信を得た。

 彼は国のためでなく、マリー個人のために動いていたのではなかろうか。

 だからこそこの結果に気落ちし、王太子に推挙されて迷いを生じているのではなかろうか。

「……何が言いたいの?」

 テオは口端を上げると、些か声を尖らせた。

「……彼女は元聖女だが元平民だ。礼儀作法を身につけているとは言え、彼女が貴族として生きるのは難しい。やっかみも受けるだろう。かと言って、彼女の実の両親の元に返すのも、元聖女の肩書が邪魔をする。今までフリッツに付き添って公務をこなしていた点からも、良からぬ輩に利用される確率も高い」

「……だから何を言いたいの? ユリウス」

 一段声を低くしたテオは、冷たい笑顔をユリウスに向けた。

 おそらく、ユリウスが指摘したことはとうの昔にテオも理解していたことだろう。

 マリーは平民出で、テオは王族だ。

 そしてそれは埋められないと、無理矢理納得させてきたことなのかもしれない。

(……しかし……)

 ユリウスは首を振り、テオの真紅の瞳を見つめた。

 冷ややかな笑みの奥に、燃えたぎるような嫉妬にも似た苛立ちが見え隠れする。

「……テオ、解放したその先……問題は山積みだ。解放されただけで彼女は本当に幸せになるのか?」

 その問いかけに、テオは答えることなく視線を逸らすと、再びソファに背を預け天を仰いだ。

 彼の口から漏れる長いため息が、彼の苛立ちを少しずつかき消すように小さくなる。

 ややあってテオは口を開いた。

「…………君は変わったね。いや、変わらないのかな」

「テオ……」

「君の言いたいことはわかったよ。だけど……」

 天井を見つめたままのテオは、未だ決心がつかないのか口ごもる。

 飄々とした彼の珍しく弱りきった姿に、ユリウスはソファから立ち上がると彼の元に歩み寄った。

 両肩を掴み、強引に起き上がらせる。

 ユリウスの紫電の瞳が、テオの紅玉の瞳を貫く。

「……今更迷うな。お前がやり出したことだ。彼女は巻き込まれた。ならば最後まで見届けろ」

「……………」

「後悔は、するな」

 友人の噛み締めるような言葉に、テオの瞳は揺れた。

 思えばユリウスはリーゼロッテと出会ってから何度も後悔に苛まれていたのかもしれない。

 もっと早くに彼女がいないことに気づいていれば。

 もっとたくさん話しておけば。

 もっと自分が強ければ。

 何度も苦難に立ち向かい、その度に結果を受け入れてきた。

 別れという受け入れざるを得ない結果もあっただろう。

 しかしそれでも彼はリーゼロッテただ一人を求め続けている。

 友人には同じ思いをして欲しくない──彼の実感を伴う言葉に、テオは自嘲気味に笑った。

「…………あーあ、ちょっと見ない間にカッコ良くなっちゃって……」

「揶揄うな」

 どこかつきものが落ちたようにからりと笑うと、テオはユリウスの手を肩から外させた。

 立ち上がった彼にはもう、迷いなど嘘のようにいつもどおりの微笑みが浮かんでいる。

 ユリウスは「もう大丈夫そうだな」と背を叩くと、部屋から出て行った。

「……………ユリウス、ありがとう」

 一人だけの部屋に、テオの呟きが小さく響いた。
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