乙女ゲームのモブ令嬢に転生したので、カメラ片手に聖地巡礼しようと思います。

見丘ユタ

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7.カメラがいうことをききません②

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 パシャパシャパシャパシャパシャ……!

「きゃっ!」
「な、なにごと!?」
「光が!?」

 突然、カメラが連写し始める。しかも、フラッシュ付きで。

 ……そ、そういえば、さっき学内の聖地を撮ってた時に暗かったからフラッシュ焚いたんだった……っ!

 わたしは慌ててシャッターボタンから指を離した。断続的に光を発していたカメラは、荒ぶっていたのが嘘のように沈黙した。

 どうやらわたしの指がたまたまシャッターボタンを押してしまったらしい。押しただけなら連写にはならないはずだが……。

 もしかして……さっき枝に引っ掛けた時に連写モードに設定されちゃった……?

 茂みの厚さがそんなになかったためか、フラッシュの光はハノンたちにも届いている。
 エリミーヌは平手を引っ込め右往左往しているし、取り巻きはふたりで抱き合って怯えている。ハノンはうずくまって目を閉じたままだ。多分、何が起こったのかすら分かっていない。

「な、だ、誰!? こんないたずら、許しませんわよ……っ!」
「そ、そうよそうよ!」
「許しませんわ!」

 光が収まったからか、エリミーヌたちはこちらに食ってかかるようにずんずんと向かってくる。三人とも、キツい顔付きが悪鬼のように怒りに染まっている。

 ヤバい。バレたら何されるかわからない。

 逃げようにも茂みから動いたら目立つ。そして中庭の出入り口まで隠れて移動できるほど、茂みは長くない。

 万事休す……というところで、エリミーヌの足がぴたりと止まった。

「どうされましたか、エリミーヌ様」
「……ま、まさか……先ほどの光は光魔法……もしやローラン様が……?!」

 怒りで赤く染まった顔が今度は青白くなる。
 目は泳ぎ、汗が吹き出してきたようで、彼女は懐から出したハンカチでしきりに額をぬぐった。

 ……あ、そういえば王族ローランって光魔法が固有魔法だったっけ。もしかしてさっきのフラッシュ、ローランの仕業だと勘違いしてくれた……?

 じっと様子をうかがっていると、エリミーヌはゆっくりとぎこちなく回れ右をした。

「きょ、きょうのところはこれくらいにしておきましょうか。おふたりとも、行きましょう。ブラモンド家のお方、ごきげんよう」
「え、ちょ、お待ちください!」
「エリミーヌ様?!」

 捨て台詞を吐き、三人はいそいそと中庭から出て行った。
 後に残されたのは泥だらけでぼんやりしているハノンと、腰が抜けたわたし。

 ええと……ゲームでは平手打ちの後に突き飛ばされてからの攻略対象登場、だったはずだからそろそろ……。

 などと思っていると、

「どうされましたか……ってブラモンド嬢! どうしたんだ、こんな泥だらけで」

 と、ちょうどローランが通りかかってくれた。
 もう少し早く来てくれたらわたしの寿命も腰も無事だったんですが。

「いえ、その……転んだだけです」
「転んだ……? ならば医者に見せないといけないね」

 そう言うと、彼はハノンをひょい、と抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。

「え? え?」と動揺するハノンを、ローランは当然だと言わんばかりにのぞき込む。

 あああ、そうだった!
 これがこのイベント一番のシャッターチャンス……!

 わたしはフラッシュを解除すると、急いでカメラを構える。

 カシャカシャカシャカシャ……!

 本当は抱き上げる瞬間も撮りたかった……と落ち込みかけたが、遅れを取り戻すかのような連写モードのおかげで、沈みかけた気分も少しはマシだ。
 それに、撮るごとに顔が赤くなっていくハノンと優しく微笑みかけるローランが初々しくて可愛い。

 やはり推しは正義……!

「で、殿下……っおろしてください……! 歩けます……!」
「もし怪我でもしてたらどうするんだ」
「だ、だからってこんな……誰かに見られたら……」

 ハノンは赤い顔でくちごもる。そんな彼女に、ローランは何かを察したようにささやく。

「心配しなくていい。誰にも見せない」

 微笑んだローランの言葉がよく分からなかったのか、ハノンはきょとん、とまたたいた。

 ふたりが中庭から去るまで、わたしは満面の笑みで連写し続けていた。







「お嬢様、お待たせいたしました……っていかがされました?」
「……え? あー……リアか……おかえりぃ……」

 どのくらい時間が経ったのか。
 おそらく数分もしてないだろうが、茂みの中で余韻に浸っているわたしに、戻ってきたリアが声をかけた。

「お嬢様、もしやまた……」
「あー……うん、ちょっと写真撮ってた……」

 リアは大きくため息をつくと頭を抱えた。
 いい写真が撮れると大体こうなる。加えて腰が抜けて動けない。

「まったく、毎度毎度……キャメィラもほどほどにしてくださいね」とプリプリしながら言うリアに引きずられるようにして、わたしは中庭を後にした。

 ──その一連の光景イベントを、他に見ていた者がいるとは知らずに──。
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