約束のあやかし堂 ~夏時雨の誓い~

陰東 紅祢

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一緒に

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 帰って来て早々、鞍馬と虎太郎の喧嘩が始まったのには少し驚いたけど、とりあえずその場は落ち着きを取り戻した。けど、やっぱり二人は隙あらばと言わんばかりに目をギラつかせてて、大丈夫かなって心配になる。

 それにしても虎太郎があんなに喧嘩っ早いなんて知らなかった。と、言うよりも鞍馬の牽制に上手く乗せられてるところもあるようだけど。まぁ……喧嘩するほど仲がいいって言うのもあるわよね。

 やこは妖狐と話があるらしくて別の場所に移動してしまったし、やんこちゃんとてんこちゃんは庭で遊んでいる。鞍馬と虎太郎は一緒にいると喧嘩になるからって、鞍馬は部屋に籠ったし、虎太郎は気晴らしに出かけると言って出て行ってしまった。

 私は自分の荷物を部屋に入れてから、食材の入った袋を手に持ちすぐに炊事場に向かうと、幸之助が何か食事の支度をしている後姿が見えた。
 ちょっとだけ驚かしちゃおうかとも思ったけど、幸之助は耳がいいからそんなことしても意味がない。

「幸之助」

 そう声をかけると、幸之助はぴくっと耳を動かしこちらを振り返ってきた。
 私はそんな幸之助の隣まで歩いて来るとに彼を覗き込むように見つめる。

「ただいま」
「加奈子殿……お帰りなさい」

 幸之助は耳をぺたりと倒して微笑むと、炊事をしている手を止めて優しく包み込むように抱きしめてくれた。
 鼻先を掠めるお線香の香りは相変わらずで、ふわふわとした優しいハグに私も嬉しくなってぎゅっと抱きしめ返した。
 さっきは結局ハグしそびれちゃったもんね。

「うん、ただいま!」
「加奈子殿の帰りを、首を長くして待ってました」
「私も、幸之助に凄く会いたかったよ」
「……」

 抱きしめられたまま彼を見上げてそう言うと、幸之助は耳をピンと立てて恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 そんな顔をされると、首の後ろに薄っすら残ったままの跡がじんと熱くなってくる。
 私も思わず顔を赤らめて、抱きついていた幸之助から少しだけ離れた。

「あ、あのね。実は皆に報告と言うか、相談があるの」
「相談ですか?」
「ちょっと大きな相談だし、私が独断で決められない事だから……」
 
 私が考える移住計画の一つ。一大プロジェクト。
 この家はご先祖様が残していて、幸之助も大切に護り続けていた場所だから、一方的に話ばかり進められないけど、話も出来なかったしこういう事は直接会って話した方がいいと思ったから、この話をするのは私の緊張するところ。
 もし幸之助たちがダメだというのなら無理強いは出来ないから、他の方法も考えないといけないし。

「分かりました。では夕餉の後で大広間に皆を集めましょう」
「うん。あ、そうだ。これお土産。市内で仕入れてきたの」

 そう言って私が持っていた鞄を差し出すと、幸之助はそれを受け取って中を見る。

「こんなにたくさん……。ありがとうございます。早速夕餉に使います」
「私も手伝うよ。料理の腕、少しは上がったと思うんだ」

 そう言うと私は腕まくりをして手を洗い、幸之助の隣に並んだ。
 幸之助が仕込んでいた食事を見ると、ゼンマイをタケノコと一緒に鰹節で炊いたものと、お味噌汁や揚げだし豆腐とか青菜のお浸しとか、素朴なものがほとんどだった。あと私が見たことないお寿司? があった。

「ねぇ、これお寿司だよね?」
「はい。そうですよ。田舎寿司と言われているものです」

 しいたけやこんにゃく、みょうがやタケノコが乗った野菜尽くしのお寿司なんて初めて見た。まぐろやイカなんかが乗っているのがお寿司だと思っていた私の概念をひっくり返された感じ。でも、ヘルシーで健康には凄く良さそう。

「ねぇ、この大きいお皿は何に使うの?」

 お寿司の横に置いてあったとっても大きなお皿を指さして言うと、幸之助はにっこり笑いながら答えてくれる。

「それは皿鉢さわち料理に使うんですよ」
「皿鉢? 皿鉢ってなに?」
「そうですね……おせち料理と同じようなものです。おせちは重箱に料理を詰めますよね? この辺りではこの皿鉢に料理を乗せて、祝い事の時に出すんです」
「へぇ。まさに郷土料理だわ」
「加奈子殿がカツオのタタキを買って来て下さったので、今夜の宴は豪華になりそうです」

 そう言って真空パックされたカツオのタタキを手に幸之助が嬉しそうに言うから、こっちまで嬉しくなる。
 奮発して大きいのを2柵買って来て良かった。

「皿鉢料理には何を乗せてもいいの?」
「基本的には何でも構いません。それぞれの家庭によって乗るものは違いますから」
「じゃあ、私が作った料理も一緒に乗せてくれる?」
「え? はい。それは全然構いませんよ」

 きょとんとしていた幸之助だったけど、私が作る料理に興味があるらしく顔全体に興味津々な雰囲気が出てる。
 そう言う私は、幸之助の手元に興味津々なんだけど。

 幸之助の包丁の手さばきは、何て言うかとても丁寧で綺麗。
 カツオのタタキを真空パックから出す方法が分からなくて手間取っていたのを手伝ったけど、取り出してからカツオを丁寧に切り分ける所作がとても綺麗。
 包丁をちゃんと研いでるのもあるのかしら。断面もガタガタしてないし。

「そんなに分厚く切るの?」

 切り分けたカツオの切り身は2センチくらいの厚みがあって、凄く贅沢な切り方。それってもう半分くらいに切ればもっと沢山食べられそうなのに。
 そう思って聞くと、幸之助はくすくすと笑いながら手を休めることなく口を開く。

「土佐ではこのくらいの厚さがないとダメなんです。こうして、切り身の真ん中に袋状になるように切れ込みを入れて、ニンニクを挟むんです」

 そう言ってお稲荷さんを作る時に袋状に開くお揚げのように、分厚い切り身の真ん中に包丁を入れてあらかじめ切っておいた生のニンニクのスライスを挟み込んだ。
 2柵あったカツオのタタキはあっという間に捌かれて、皿鉢とは別の大皿に綺麗に並べられ、小口切りにした小葱をたっぷり振りかけて、裏庭で採れた大葉と擦ったショウガも添える。
 こうしてみると、凄く豪勢。

「三杯酢と塩を用意して置けば、好きな方で食べてくれるでしょう」
「そうね! とっても美味しそう!」
「加奈子殿は何を作って下さるんですか?」
「え~っと、そうね……。幸之助たちが食べた事ないものがいいかなって思ってるんだけど……」

 こうして和食が並ぶと、変なものは作れないな。
 まだそんなに習得したレシピも多いわけじゃないし……。
 皿鉢に並ぶ料理を見つめて私が考え込んでいると、幸之助は目を細めてにっこりと笑う。

「あなたが手ずから作って下さった物でしたら、私は何でも嬉しいです」
「……」

 その笑みがあまりに眩し過ぎて、私はまた顔が赤らんだ。
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